第10話
一緒に暮らし始めてから数年経ったある日の夜、少年は俺に言った。
——金属は人よりも頑丈だから、どんな型に嵌めるかで、時には人を支配する道具に変わってしまいます。
——この鉄の首輪も、鍛え直せば、もっと人の為の道具にできます。
少年は自らに嵌められていた鉄製の首輪を握り締め、力強くそう言った。
俺はその時に理解した。
〈神能者〉を殺し続ける俺の行いと、この少年の信念は必ず衝突すると。
俺の存在はきっと、〈神能者〉ひいてはそれに類する者たちへの鉄の首輪なのだ。
ともすればそれは、少年からの宣戦布告だったのかもしれない。
俺は頷いて、少年の元から離れた。衝突するのが怖いわけではなかったとは、言えない。この時の俺は、少年を傷つけることも、自らが傷つくことも恐れていた。
そこには確かに愛情があった。
その数年後、俺は少年に敗れ。彼と共に国創りの旅をすることになった。
長い旅だった。
ヴァシリオスは言っていた。天国みたいな良い国を作りましょうねと。
記憶の海に深く潜りそうになったことに気が付く。
それに気が付くことができたのは、目の前のグレースのお陰だ。
グレースは不思議そうに俺を見つめていた。
声をかけないでいてくれたようだ。押すだけではないらしい。そんな配慮ができるところを、素敵だなと素直に思った。
「ごめん、考え事してて」
「あのさ、ちょっと話変わるんだけど。いや、あんまり変わらないのかな……わたしが知らないリベルのこと、もっと教えて欲しい」
「いいよ。でも長くなるよ?」
ちょうど昔話をしたい気分だった。
「その……奥さんのこととかも?」
「そうきたかー」
俺は顔を覆った。
正直に言うと、グレースにはとても話し辛い。
「でも、良いよ。グレースなら」
覚悟を決めるべきだ。
聞かれたことには話さないといけない。そうしなければグレースと向き合っているだなんて言わないだろう。
「よし! それじゃあお風呂入ってきて! 今夜はお泊まりでおしゃべりしよう!」
あ、泊まる流れなんだ。長くなるって言ったのは俺だけど。
意を唱えようとして、やめた。
こんな日があっても良い。
間違いは起きないし起こさない、はずだ。
その後、お風呂に入っておしゃべりをして、なんやかんやあって一緒のベッドで寝た。
何もやましいことはしていない。誓って本当。
添い寝をして欲しいとせがまれた。拒む理由は特にないから、よくないよなぁと思いながら従った。
今は、蝋燭の光の中、グレースの背中を一定のリズムでトントンと叩いている。
その間、俺はずっとこんなことを考えていた。
真摯に受け止めると決めたはいいけど、本当にこれでいいのだろうか?
あと、これまじで子供の寝かしつけじゃない?




