第7話
正確にはほぼ裸だった。
大事なところはバスタオルを巻いているので隠れてはいるが、湿ったタオルがピッタリと張り付いているから体のラインが丸わかりになってしまっている。
「お風呂入ってた。物音がしたから、急いで出てきたの。ちなみに足音は必死に殺したよ」
「一声かけてよ! 普段こんなことしてなかったよね⁉︎」
俺は復生前のグレースと今のグレースを脳内で照らし合わせる。
うん。行動が何も一致してない。
もしかして、偽物⁉︎
「普段からこんな感じだよ?」
あどけない表情だ。
そう言い切られても。
グレースがさも当たり前かのように俺の左側に座ってくる。
近い。距離が。
「グレースと俺の間に何があったのか知らないけど、あまり驚かせないでよ。心臓に悪いから」
「既成事実があった方がやりやすいから、それに話も早いし」
「本音でたね……!」
「そうだ。〈神能〉解除してよ」
「え、どういう意味?」
「いいから、ほら。約束したじゃん? 二人きりの時はありのままで話すって」
「そんな約束いつしました⁉︎」
「そんなこと言うんだ? 死んでも約束は守るって言ったくせに。記憶が無くなったって約束は無くならないよ?」
「約束は死んでも守るものだけど、〈神能〉解除云々の話はどうだろう。覚えていないってことでここは一つ。というか服着ない? せっかくお風呂入ったのに冷えちゃうよ!」
「いい、ここあったかいから」
「グレースはいつからそんな理由で服を着なくなったの⁉︎」
「いいから、ほら解除して。ほ〜ら」
「半裸の女の子の前で、一体全体どんな状況なの⁉︎」
「もう二十歳になるんだよ? ふふ、女の子扱いしてくれるんだ?」
「……一九歳の誕生日、おめでとうございます」
もう何もかもグレースのペースだ。
「はやく〜」
「わかった。わかったから」
グレースと話している時に〈弱者の盾〉を解除するのには抵抗がある。他に意識を向けるものがあるなら別だが、二人で話している時には否が応でも、グレースの方に五感が集中してしまうからだ。
匂いとか。
心臓の鼓動とか。
唾を飲み込む音まで、鋭敏な聴覚が俺に伝えてきてしまう。
よし。解除したふりをしよう。
「あ、解除したふりしてもわかるからね」
「わかった! わかったって! もう! 〈弱者の盾〉解除!」
その瞬間、今までが無音だったのかと錯覚するほどの音の中へ包まれる。
ん。なんだ良い香りがする。
グレースからだ。濡れた髪や体から〈弱者の盾〉を解除しないとわからないくらい微かな柑橘系の香り。
「その行動で正解。ちなみに香水はリベルの好きなやつだよ」
「なぜ⁉︎」
なんで俺の好み香りを知ってるの? とか。
なんでお風呂上がりにわざわざつけてるの? とか。
なんで考えたことがわかったの? とか。
もう色々ごちゃ混ぜになった疑問を投げかけてしまう。
「なんでだろうね?」
グレースが微笑む。
その下がる目尻も、薄く開いた口元も、全てが前と違って妖艶だ。
大人っぽくなった?
「ドキドキしてる?」
「俺⁉︎ してないよ!」
「違う。わたしのここ」
グレースは自らの胸元を細い指先でトントンと叩いた。
その動作を合図にして、無視していた音が。
ドクンとドクンと。
「どう?」
「どうだろねぇ! これはドキドキしてるのかな? よくわからないよ!」
「もう。それなら、今から言うことが本当かどうか当ててみて」
「何⁉︎ どんとこいだよ!」
わけがわからなくて、わけがわからない事を言っている自覚はあります。
グレースの唇が微かに動いて、一度止まって。
何かを躊躇うかのように、いいやって踏み込むかのように。
濡れた声でその言葉を口にする。
「わたしと、恋人だったって言ったら、信じる?」




