第6話
「そう言うことだから、頼むヘンリク! ついてきてくれ!」
「しらねぇよ」
あの戦いから数日。
あの後、俺たちはジェロン軍が戻って来ることに備えて、交代要員が来るまであの場に残っていた。
そしてようやく交代要員が来て、基地に戻ることができたのが今だ。
泥だらけ雪まみれの死闘を終えた姿のまま、俺はヘンリクへと縋り付く。
「話聞いてた⁉︎」
無情な一言に俺は目を丸くする。こんなにも心無い人間だったなんて。
「聞いてたよ。というか、その話だと、呼ばれたのはリベルだけだろ?」
「そうだよ。だからついてきてくれ!」
「意味わかんねぇ。姫さんには悪いが、そんなに気が進まねぇなら聞こえなかったふりしとけばいいだろ?」
「それはだめだ。他の〈復生体〉も聞いてた。あいつら絶対グレースに言うよ。俺にはわかる。だって俺もそうする。面白そうだって軽はずみな理由で告げ口する自信が、俺にはある」
「何に自信もってやがんだよ……」
「頼むよ〜。ヘンリクが何も教えてくれないから、最悪な想定のままグレースのとこに行かなくちゃならないだろ? せめて一緒に来てくれよ〜」
「最悪な想定って、なんだよ?」
「え、それは……うん百歳差の女の子に手を出した、とか」
「それは、まあ……」
ヘンリクはそれだけしか言わなかった。
「その反応はどっち⁉︎ もしかして正解なの⁉︎」
「どうだろうな。答え合わせしてこい」
ヘンリクは俺を振り解いて一人で宿舎へと向かってしまった。
その背中を心細く見つめながら、俺は迷う。
「……今からなら〈復生体〉に告げ口するなといったら間に合うか?」
無理である。あの場にいた〈復生体〉の数と誰が聞いていたかなんて把握できるわけがないし、ヘンリクとのやりとりの間に、すでに周囲に散ってしまっている。
くそう。ヘンリクがすぐに承諾してくれないからだ。
「いや、待てよ。体調が悪くなったせいにすれば……よし〈復生体〉に伝言を頼もう」
最低である。でも言い訳させてほしい。本来なら例えどんなことでも真正面から受け止めるのだ。しかし、しかしだ。
今回は違う。
俺に一年分の記憶がないとなれば、全てを受け入れるのに多少なりとも心の準備が必要なのだ。
「あ、いいところに。おーい」
運良くこちらを歩いてきた〈復生体〉に話しかける。
「お、ヘンリクくんと一緒にいたってことはお前が例の?」
「ん?」
「さっき、お姫さまにお前が帰ってきたって伝えておいた」
「マジ何してんの⁉」
俺は自分と同じ顔に向かってマジギレした。
余計なことするなよ!
「体調悪いふりして逃げるかなと思ってね」
「本当にその通りだよ! お見通しだな!」
「自分に言うのもあれだけど、そういうの良くないぜ?」
「それも本当にその通りなんだけど、こっちは復生したばかりで一年間の記憶がないんだ! 大目に見てくれてもいいじゃないか!」
「ひとつ言っとくけど、お前とお姫さま、めちゃくちゃ仲良よさそうだったよ。側から見たら恋人みたいだった」
「リーチかかった!」
「自分に説教っていうのも変な話だけど、しっかり向き合えよな」
「胸が痛いよ! もう全部正論!」
「それじゃあ。俺は報告があるから、一人戻ってきてない奴がいて。まぁ、多分死んでるんだろうけど」
パッと片手を上げて〈復生体〉が去って行く。
「はあ……行くしかないか。待たせるのも悪いし」
俺は肩を落としながら、とぼとぼとグレースの専用宿舎へと向かった。
木製の扉を叩く。
「グレースいる?」
返事はない。なら帰っても。
そうだ。置き手紙があるって言っていたっけ。
もしやと思って扉の取っ手に手をかける。かちゃりと音がした。
「鍵かけてないの? 不用心だなぁ」
二重扉を開けて中へと入り、念の為内側から鍵をかけた。
「はぁ〜あったか〜」
暖炉では薪がぱちぱちと音を立てて燃えている。
冷気になれた肌がじんじんする。
少し熱いくらいだ。コートと軍服の上着を脱いでその辺にあったソファの背もたれへとかける。バスローブもかけてあったので、それに触れないように避けてかけた。
リラックスする準備は万端だ。
ついでにふかふかのソファに座ってやった。
どんとこい。なんでもこい。
「あ、おかえり」
そう声をかけられる。
目線を向けて——。
ものすごい速さで視線を外した。
「って、ちょっと、何してんの⁉︎」
グレースは裸だった。




