第3話
「じゃあまずは、今の戦況から」
「よろしくお願いします」
グレースの専用宿舎に通された俺たちはソファに腰を下ろしていた。
「ジェロン連邦とローンディア王国の戦争は、現在、一年に及んでいます」
「はい」
「ジェロン連邦の兵器の性能は凄まじく、王国は〈復生体〉が鹵獲した兵器の中で、再現可能なものを逐次戦場で使用している状態です」
「なるほど。周りにいる〈復生体〉が担いでいた、変わった形の鉄砲がそれってこと?」
「そうです。あれはアサルトライフルという連射が可能な銃です」
「グレース先生、ありがとうございます」
「よろしい、続けます。次々に投入されるジェロンの新兵器と〈復生体〉の膠着状態は続き、わたしがこの場に来たのは開戦後、割とすぐになります」
「それは運がなかったね」
「いえ、立候補しました」
「なんで⁉︎」
「それは……今は秘密です」
顔を赤らめての小さな声だ。
「その反応何⁉︎」
「幸せ者だな」
「俺の知らない一年の間に何があったの⁉︎」
「それは追々話すとして、だ。今の状況としては一言だな。〈復生体〉がジェロンの新兵器の足止めをしているうちに、姫さんが各戦場を回ってジェロンの兵器を潰していってる」
「危なくない?」
「もちろん、〈復生体〉ありきの作戦だ。でも兵器のほとんどが金属で出来ている関係上、王族の方が相性がいいんだよ」
「それはわかるけど……」
「そのような感じで今に至る、というわけです」
なんかふわっと締められた。
「今さら言うのもあれだけど、その紙なに? もしかしてカンペ?」
グレースは先ほどから堂々と、手に持った紙に視線を落としながら話している。
「リベルが戻ってくる度に、何度も説明しないといけないのが面倒で」
「それでカンペね。面倒かけてごめん」
もうわけがわからない。
「とりあえず、俺たちのやることに変化はなさそうだね」
「そうだな。てことで行くぞ」
「ん? どこに?」
席を立つヘンリクに振り返る。
「最前線」
「急すぎない⁉︎ もっと心を落ち着ける時間が欲しい! 俺の目線からだと一年先の未来に居る状態なんだよ!」
「それは悪いんだが……」
ヘンリクが申し訳なさそうな顔をした。そんな顔をされるとこっちが悪い気分になってくる。
「がんばってね」
「グレースもなんでそんなにあっさりしてるの⁉︎ 言わなかったけどさ、なんか二人とテンションが合わないよ」
「うん。そうね」
「多分何度もこのやりとりしてるってことは、その反応でわかったよ」
「うん。何度もね。だから、死なないように」
グレースが心配そうに俺を見つめているのに気が付く。
言葉の意味を理解するだけの頭は持っているつもりだ。
「……わかった。死なないように気を付けるよ」
「うん」
グレースの返事は薄かった。きっと、既に俺の言葉を信じられるような段階ではないのだろう。
前も同じようなやりとりをして、その度に俺は復生してここに戻ってきているのだ。
それこそ何度も、何度も。
「グレースが覚えているかはわからないけど……俺にとっては昨日のことだから、約束」
昨日した約束は、既に一年も前のこと。それでも話題に出すことでグレースが少しでも喜んでくれるなら。
そう思っていた。
だけど、グレースの表情は晴れなくて。
ああ、同じことを前の俺も言ったんだな。




