第2話
まるで屠殺される家畜のようだ。
コンテナで戦場へと運ばれる俺たちは、側から見ればそう映ることだろう。
至近距離に自分の顔があるのがこんなにも不快だと知っているのはきっと俺だけ。
こんなスペシャリティーは要らなかった。
しばらくして、コンテナが下へと動き始めた。着地した振動で、冷えた臀部に衝撃が走る。
コンテナが開かれ、冷気が顔を刺す。
乱反射した光が不快で俺は目を細める。
着いたのは極寒の地だった
見渡す限りの銀世界は美しいが、殺意を感じるほどに凍てついていた。
ここはルーンディア王国北東部にある国境沿いの軍事基地。
そして今は、戦争の最前線、らしい。
「寒すぎませんかね……」
復生する前は雪解けの季節だった。
どうやら俺には、ここ一年ばかりの記憶がないらしい。
「一年か……」
記憶の中では、昨日の夜にグレースたちと過ごしたはずだが、それも一年前の出来事なのだと理解する。
それに出兵直前の記憶から、一年間の記憶がごっそり抜け落ちていることに、なんとなくの察しはついていた。
多分俺は——。
「おい。俺がわかるか?」
前を歩く〈復生体〉が誰かにそう尋ねられて首を振っている。
自分のことを尋ねた青年の顔はこちらからは見えないが、次、その次と〈復生体〉に声をかけている。
やがて自分の番がやってきた。
青年の頬には何かが掠めたかのような傷跡があった。
「おい。俺がわかるか?」
雰囲気が、いつもと違った。
一年。
時折、俺は自分の記憶の七百分の一の僅かな年月に、眩暈を起こすような衝撃を感じるのだ。
「ああ……」
その声を聞いた時に、まさかとは思った。
青年は雪と見紛うほどの真っ白な髪を、分厚い手袋で掻き上げた。
つい先日話をしたばかりの顔を、この場で見て、俺は何を思えば良いのか。
「……わかるよ。ヘンリク」
ヘンリクはニヤりと笑い、こう言った。
「ようこそ。クソッタレの戦場へ」
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「なんでヘンリクがここに?」
大事なことだ。この一年、俺の記憶が欠けている中で、臣民の徴兵が実行されたなどあってはならない。
「安心しろ。志願兵だ。徴兵じゃない。何度も——あー……悪いなんでもねぇ」
「何度も? ああ、なるほどね」
ヘンリクが濁した言葉の意味は容易に推察することができた。
つまり俺は、何度も死に、この場所に戻ってきているのだ。
回数は定かではないが、ヘンリクの言い方からして一度や二度ではないだろう。
「ヘンリク。志願兵だなんて、なんでそんなことを?」
ヘンリクは肩を竦めて、遠くを見ながら答えた。
「さあな。十ヶ月ほど前に、な」
「さあなで来る所はないと思うよ。ヘンリクにも考えがあるんだろうけど」
「まあそれは良いとしてよ。リベル、ちょっとついて来いよ」
「なに?」
促されてついて言った先には何があるのか。
説明されないまま二人で基地内を歩くと、そこには建物があった。
急造なのだろうが、しっかりとした造りの木造だった。
「ここは?」
「入ればわかる。姫さん! 連れてきたぞ!」
「姫さん?」
ヘンリクの一言に俺は耳を疑った。
ヘンリクがそういう人物を俺は一人しか知らない。
「まあ、そういうことだ」
建物の中から足音がして、扉の前に近づいてくる。
やがて足音は扉を隔てた俺たちの目の前で止まった。鍵を外す音がして、扉が開かれる。
綺麗な顔に添えられた、碧い瞳と目が合った。
「あ、おかえり」
「おかえりではないよ」
そこにいたのはグレースだった。
俺の記憶では昨夜ご飯を一緒に食べたばかりだ。
それにも関わらず、雰囲気が少し違う。それはきっと今着ている軍服のせいでもあり、グレースの一年間の成長のせいでもある。
髪も少し伸びただろうか。
「えっと、教えてもらってもいいかな? 色々と」
頭を抱える。どうすべきか全く思い浮かばない。
あと、復生して戻ってきたことを、おかえりというのはブラックジョークが過ぎるからやめてほしい。
「それじゃあいつも通り、説明タイムといきますか」
なんかこなれてない?




