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死ねない彼らに天国はない  作者: 曇天海月
【第三章「現在」ようこそ、戦場へ】
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第1話

 コンテナの扉が開く。

 自身の体を放り投げるようにして、俺は下向きの力に身を委ねた。


 リカード、ありがとう。

 視界に広がる逆光の中、ちらりと見えた人物に対して、心の中で礼を言う。


 頭が下になった逆さまな世界のまま、俺は辺りを見渡した。

 ルーンディア王国の北東部の国境沿い。

 一面の草原であるこの場所は、つい最近雪が溶けたばかりだ。


 あと1分。

 それが、俺たちが地面に激突するまでの時間。

 この間に敵の布陣を見つけることができたら御の字。できなければ過酷な遠足が始まるだろう。いや、見つけたとしても過酷であることに変わりはないか。


「〈弱者の盾(インフィルムス)〉解除」


 唱え、不快な高揚感に身を任せる。

 認知できる世界の広がりを感じながら、俺は周囲を見渡す。

 この高さと向上した視力なら、国境の大地をどこまでも見渡せる。

 ゴーグルを付けていてよかった。もし無ければ、下から吹く猛烈な風で視界など機能していなかった。


「見つけた」


 強化した聴覚が、器用に一人の〈復生体〉の声を聞き分ける。


「あ。あれか」

「なんだ? 鉄の象?」

「大きなカーに大砲を付けたのか?」


 遥か彼方、この高度でないと発見などできない遠距離に、鉄の象の集団が見える。


「まずいな。鼻がこっちを向き始めた。発見されたみたい」

「おかしいなー。こっちはいくら丈夫とはいえ、剣を一振りしかもってないのに」

「見たところ大砲だよね。落ちてきたところを撃ち込まれるかな」

「とりあえず、鹵獲を目標にしようか。金属で作った兵器なら、〈巨神の石(メナカナイト)〉で再現できるかもしれないから」

「「さんせー」」


 気の抜けるような鬨の声。


 大地はすでに眼前へと迫っている。

 体に衝撃が走る。

 しかし〈神能スキル〉を解除したことによる持ち前の体の丈夫さと、長い年月の中で培った技で受け身を取ることで無傷。


 〈復生体〉たちが地面へと衝突した際の、大地が抉れるほど轟音の連続と土煙を目の当たりにすれば、波の人間であれば腰を抜かすだろう。

 その土煙の中で、誰一人欠けることなく〈復生体〉は立ち上がる。


 目の前で突然、地面が爆ぜた。


「あぶな! 気をつけ——いやこれ砲撃だ!」

「走れ!」


 鉛の嵐。それも特大の。もちろん音よりも速い。


「ヴァシリオスみたいなことするなぁ」


 今の王族と同じ〈神能スキル〉にも関わらず、その実力には天と地の差がある。

 これくらいの惨状なら、ヴァシリオスであれば序の口だ。


 あいつのおかげで、大抵の生物の血に鉄が入っていることを知った。

 その鉄を操られた生き物がどうなるのか。身をもって体験したのを思い出す。

 その事をグレースに話したらすごく嫌な顔をされた事も、ついでに思い出した。

 ヴァシリオスはなんでもできた。そう言っても、全くもって過言ではなかった。


「でもこれなら、圧倒的にグレースたちの方が相性がよかったな」


 そう思っていた矢先、目の前を走っていた〈復生体〉が吹き飛んだ。

 砲撃——ではない。

 まさか。


「鉄砲か?」


 相手陣地に近づくにつれて、一音と聞き間違えるほどの連続した発砲音が、〈復生体〉を薙ぎ払う。雷撃のような音と共に、〈復生体〉が倒れて行く。

 大地との激突の時には発揮できた防御力も、ほぼ不意打ちの弾丸の豪雨の中では形無しだ。


「せめて兵器の名称くらいは知りたいな」

「なんだこの煙……?」

「吸うなよ。これ、手足が痺れてくる」


 そう言った〈復生体〉が倒れた。

 砲撃の嵐、弾丸の豪雨。お次は毒の煙か。


「走る速度が遅くなったな」

「そうとくれば、……ああやっぱりね」


 上空、向上した動体視力に一つの影が映り——突然目の前が爆風に包まれる。

 咄嗟に顔を防ぐ。猛烈な熱波で全身に火傷を負った。


「これがミサイルってやつかな」

「ぎりぎり目で追えるな。次来た時、剣で打ち落とせるか試してみる」

「骨は拾っとく」


 数が減らしながら、〈復生体〉たちが相手陣地へと疾走する。

 目と鼻の先にあるのは鉄の象の群れ。

 先行していた〈復生体〉の一人が鉄の像の上に乗り、剣で砲塔らしき鼻を両断するのが見えた。


「壊せないほど頑丈ではない、と。潮時かな」


 俺は後ろに向かって叫んだ。


「これより後ろの者は全力で撤退しろ! 生き残って次の〈復生体〉に情報を繋げ!」


 背後を走っていた〈復生体〉たちが、無言で回れ右をして走っていくのを見届ける。

 残った〈復生体〉の役目について、言及する必要はないだろう。



 ——砲声が鳴り止む。

 一面緑だった草原は焼け焦げ、砲弾の跡をその大地に刻んでいる。

 散らばるのは〈復生体〉とジェロン兵たちの残骸。

 〈復生体〉によって刻まれた兵器が、複数の小山を築き上げている。


 やがて、役目を終えた〈復生体〉の亡骸が、金色の粒子の集まりとなり、ひとつの場所へと向かっていく。その先には〈歴史あるウィリアム〉がいる。

 粒子は大空を舞い、漂っていく。繰り返される復生体の為に。


 ルーンディア王国とジェロン連邦の最初の武力衝突は、こうして幕を閉じた。

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