第3話
ジェロンの兵士が、隙間越しに地平線を睨んでいた。
「どうなると思う?」
後ろからやけに反響する声をかけられ、彼は不機嫌さを隠すこともなく振り向く。
「何が?」
「全部だよ。この聖戦も含めて」
曖昧な問いだ。半ば独り言なのだろう。
だが、彼にも仲間の気持ちがよくわかる。
我が国々が、聖戦を開始すると高らかに宣言したのはいい。それはとても誇らしいことだ。
しかし、行き着く先全てがハッピーエンドであるとは限らない。最近流行りの映像作品のようにはいかないのだ。
ジェロンは、他国とは比べ物にならない科学技術を擁している。
その恩恵が、今彼が居る、機材に敷き詰められた金属の箱の中というのはなんとも窮屈な話だが。
ともかくとして、曖昧な問いには曖昧な問いで返してもいいだろう。
「俺は、そうだな。〈リベル〉様にこの兵器が通じるかが気になるな……」
彼は思案した後そう呟いた。
タンク。
古の亜竜をも一撃で仕留められるだろう可動式の砲を搭載し、金属の帯びが巻かれた車輪でどんな悪路をも蹂躙する。
このジェロンの最新兵器が、〈リベル〉様からの盾となり得るのか、それが目下の課題だ。
「操舵手君。今更気にしても意味はないんじゃないか?」
「車長。いえ、……そうですね」
気のいい車長に言われては、心配しても無駄かと考えるのをやめた。
「それでさっきの装填手くんの問いだが、おれには一つわかるよ。この戦争で、我が国々は思想を手にするだろう。国家の旗印となるべく、偉大な思想を」
「もう勝利宣言ですか?」
「かもしれないな」
フッと、車長が笑うのを横目に、彼は隙間から地平線を睨む地味な任務へと意識を向け直す
はやる気持ちは、足元のペダルの縁を靴底でなぞるルーティンで落ち着かせた。
隙間から地平線を睨む中、異質な光景目にして、彼は反射的に声を出した。
「は?」
前方、遥か上空を複数のコンテナ。
「車長!」
「見えてるよ。あれが〈巨神の石〉か。まったく噂に違わぬ出鱈目な力だ」
「打ち落としますか?」
射手の問いに対して車長は軽く手を振った。
「無理だね。高すぎる、砲弾の無駄だ」
コンテナから何かがばらばらと落下しているのが見える。
同じものを見ている車長が不満げに鼻を鳴らした。
「〈リベル〉様にあの様なことを……連邦市民へのプロパガンダには十分だな」
「どういう意味です?」
「見えてるだろう。王国の連中、あの高さから〈リベル〉さまを落としているんだ。ひと山いくらの雑兵でも、もっとましな扱いがあるだろうに」
「そんな……」
〈リベル・ダ・ヴェント〉の逸話は数えきれない。
特に、人智を超越した身体能力は特筆すべき点だ。
たしかにあの程度では死なないのだろうが——それは果たして、人間のやって良いことなのだろうか。
「まあ、狙うなら着地の時だ。……そうだな——諸君、ここで改めて訊こう。我々の聖戦の目的はなんだ?」
彼は周りを見やり、代表して答える。
「〈リベル・ダ・ヴェント〉さまの救済です。五百年の長きに渡り王国から虐げられてきた御方々をお救いし、我が国々にお迎えすることが、この聖戦の目的となります」
「そうだな。必ずお救いしよう。その為に救済対象と戦わなくてはならないのは、なんとも皮肉だがね。さて——指令が来た。」
耳のインカムに指を当てた車長がにやりと笑う。その顔は少年のように無垢で、肉食獣のように獰猛だ。
「御方々に今の世代がどれだけやれるのか、見せつけて差し上げようではないか」
車長の普段とは違う笑みに内心驚きながら、彼はその一言を待った。
「行動開始だ」
横一列だったタンクの群れの全砲手が、〈復生体〉の落下地点へと向き——大地を破るほどの轟音が、その周囲を飲み込んだ。




