第1話
ヘンリクは掲示板の前で足を止めた。
どうやら戦争が始まるらしい。
商会への出勤の際、毎日目を通す目の前の掲示板にそう張り出されている。
敵国はジェンロン連邦だそうだ。
前線にはすでに〈復生体〉が出兵したらしい。
つい最近、うちの商会経由でカーを王城へと届けたことを思い出す。
親友はとても楽しそうにしていた。
その顔を思い出すと、この張り紙に段々と腹が立ってくる。
この国は、今なお〈復生体〉に頼ることをやめないらしい。
ヘンリクの知っている限り、昔からこの国は、危険な仕事を〈復生体〉に押し付けている。
初代国王との約束だかなんだか知らないが、その約束をしたことを覚えているのは〈復生体〉だけで、自分たちは生まれてもいないのに。
なぜそんな頼り切りになれるのか、全くもって理解ができなかった。
だとしてもヘンリクに何かを変える力はない。
それは幼い頃、このすぐ近くの路上で、ある〈復生体〉と出会った時と何も変わっていなかった。
もう十二年も前の、雪が降った日のことだ。特に語ることもない、ありふれた思い出だが、ヘンリクは時折あの日を思い出す。
その〈復生体〉は、腹を空かせて、寒くて凍えるガキに、自分の上着を着せて、持っていたパンを差し出した。
——寒いねー。ぼく、お父さんとお母さんは?
——え、いないの?
——あ、おてても寒いよね? はい、手袋付けようね。
——ん? 俺、いや僕はいいよ。寒くないから。
——じゃあ、行こうか。知り合いの商人がいるから、そこにお話をしに行こう。
手を引かれて歩いた。
今はもうすでに越したその背丈を、あの時はとても大きく感じたことを今でも覚えている。
こちらの手が手袋で暖まるにつれて、だんだんと冷えて赤くなっていく大きな手の温もりを、ヘンリクは今でも忘れない。
掲示板にもう一度目をやる。
「兵の募集……」
別の張り紙が目に入った。
目に入った文言を口の中で転がしてみる。
黒髪と黒い瞳を持つ、親友の顔がなぜか脳裏を掠めた。同時にあの雪の中で見上げた同じ顔も。
決意というのはこうも簡単に固まるものらしい。
あの日の、パンと上着と手袋の——温もりの礼を、ヘンリクはまだしていない。
気づけば、ヘンリクは走り出していた。
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