表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない彼らに天国はない  作者: 曇天海月
【幕間「現在」それぞれの語りごと】
PR
18/28

第1話

 ヘンリクは掲示板の前で足を止めた。

 どうやら戦争が始まるらしい。


 商会への出勤の際、毎日目を通す目の前の掲示板にそう張り出されている。

 敵国はジェンロン連邦だそうだ。


 前線にはすでに〈復生体〉が出兵したらしい。

 つい最近、うちの商会経由でカーを王城へと届けたことを思い出す。

 親友はとても楽しそうにしていた。


 その顔を思い出すと、この張り紙に段々と腹が立ってくる。

 この国は、今なお〈復生体〉に頼ることをやめないらしい。

 ヘンリクの知っている限り、昔からこの国は、危険な仕事を〈復生体〉に押し付けている。


 初代国王との約束だかなんだか知らないが、その約束をしたことを覚えているのは〈復生体〉だけで、自分たちは生まれてもいないのに。


 なぜそんな頼り切りになれるのか、全くもって理解ができなかった。

 だとしてもヘンリクに何かを変える力はない。

 それは幼い頃、このすぐ近くの路上で、ある〈復生体〉と出会った時と何も変わっていなかった。


 もう十二年も前の、雪が降った日のことだ。特に語ることもない、ありふれた思い出だが、ヘンリクは時折あの日を思い出す。


 その〈復生体〉は、腹を空かせて、寒くて凍えるガキに、自分の上着を着せて、持っていたパンを差し出した。


 ——寒いねー。ぼく、お父さんとお母さんは?

 ——え、いないの? 

 ——あ、おてても寒いよね? はい、手袋付けようね。

 ——ん? 俺、いや僕はいいよ。寒くないから。

 ——じゃあ、行こうか。知り合いの商人がいるから、そこにお話をしに行こう。


 手を引かれて歩いた。

 今はもうすでに越したその背丈を、あの時はとても大きく感じたことを今でも覚えている。


 こちらの手が手袋で暖まるにつれて、だんだんと冷えて赤くなっていく大きな手の温もりを、ヘンリクは今でも忘れない。


 掲示板にもう一度目をやる。


「兵の募集……」


 別の張り紙が目に入った。

 目に入った文言を口の中で転がしてみる。

 黒髪と黒い瞳を持つ、親友の顔がなぜか脳裏を掠めた。同時にあの雪の中で見上げた同じ顔も。


 決意というのはこうも簡単に固まるものらしい。

 あの日の、パンと上着と手袋の——温もりの礼を、ヘンリクはまだしていない。

 気づけば、ヘンリクは走り出していた。

少しでも良いなと思っていただけましたら、リアクションやブックマークなどを頂けますと幸いです。読んでくれている人がいるというのは大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ