表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない彼らに天国はない  作者: 曇天海月
【第二章「現在」優しい人がそうあれるように】
PR
14/28

第5話

 翌日。目が覚めてしばらく、ノックの音。


「どうぞー」

「おはようございます。今朝も良い天気ですね」


 そう言って入室したレイチェルさんの後ろにはマーガレットがいた。


「うう……」


 そう背の高く無いレイチェルさんの後ろに、縮こまるようにして隠れている。

 髪型が違う? それに服装も。

 なんだなんだ。


「おはようございます。どうかしましたか?」

「ええ、少し。ほら、マーガレットさん、復生体さまに見ていただきたいのでしょう? がんばってください」


 こちらにもぎりぎり聞こえる小声でレイチェルさんが囁く。


「でも、急に恥ずかしく……。こんな綺麗で上品な服、着たことないですし」

「とても似合ってますから、ね?」

「でも……」


「もう。こうするしかありませんね」そう言ってレイチェルさんが、素早い身のこなしで横にズレる。


 そうなると必然、俺の目にはマーガレットが映るわけで。

 レイチェルさんと同じメイド服。

 仕事の邪魔にならないように纏められた紫紺の髪は、レイチェルさんとよく似た髪型に変わっていた。

 顔はほのかに赤く、上目遣いの泣きそうな目で、マーガレットは俺を見ていた。

 沈黙。


「なるほど。よく似合っていると思いますよ」

「そ、そんな。恐縮です。」


 真っ赤になってしまった。


「罪な人ですねぇ」


 恋バナ怪獣が頬に手を当てて、よくわからないことを言っている。


「そうだ。マーガレットさん、しばらくは、招待状も、推薦状も、懐にしまって持ち歩いてください」


 敢えて言葉を区切りながら伝える。


「はい。レイチェルさんにも同じことを言われました。万が一が、あるからと」

「お任せください」


 レイチェルさんが、顔の前に指でまるをつくり得意げに微笑む。メイドさんたちのお母さんみたいな人だけど、時折、年相応な素顔を見せてくれる。


「一応、ここは王城ですから。でもレイチェルさんが先輩なら心配はいりませんね」

「褒めても何も出ませんよ。せいぜい、お夕食が復生体さまの好きなものになるくらい」


 メリットめちゃくちゃでかいじゃん。俄然やる気になる。


「それは褒めたくなりますね。——それで、今日の予定をお聞きしても?」

「はい。復生体さまには、緊急議会に出席していただきます。マーガレットさんにも証言をしていただきたいとのこと。——女王陛下の緊急招集になります」

「やっぱりそうなりますよね。ああ、だから昨日の今日で侍女服なんですね」

「はい。彼女の今の立場を、より確定的なものにする為に、形だけでも」

「流石です」


 王城で、侍女として働く推薦状を持っている〈神能者しんのうしゃ〉ではなく、推薦されて、既に侍女であるという事実。

 後者であることは、議会に出席する際のマーガレットの立場が格段に違う。

 レイチェルさんの名采配に賞賛が漏れる。


「それで、お夕食は何が良いですか? 今のでデザートも追加です」


 え、これで加点されるの? こっちにメリットしかないじゃん。

 俺はしばらく考えて、


「それじゃあ、シチューでお願いします。昔の料理からだと、考えられないくらい美味しかったって記憶があって。思い入れがあって好きなんです。デザートはグレースに聞いてみてください。あのは甘いもの好きだから」


 七百年も経てば、文化も変わる。特に料理なんかは顕著だ。

 ひと昔前では使えなかった調味料や食材をたくさん使った煮込み料理は、その際たるものだ。


「承知しました。美味しいものをお作りしますね」

「楽しみです」

「復生体さまは、シチューがお好きなのですね」

「はい。昔、みやこで流行っているという情報を仕入れて、ウィリアムと作ったことがあります」

「ウィリアム様……〈歴史あるウィリアム〉のことでしょうか?」

「そうです。ここの最上階で眠っていますから、気が向いたら、一緒に会いに行きましょう」

「是非、お願いします」


 マーガレットのはっきりとした答えに気分がよくなる。


「それと、不躾ではありますが、復生体さまのことをお聞きしてもよろしいでしょうか? お時間がある時で大丈夫ですので……」


 マーガレットの表情が伺うようなものに変わる。


「良いですけど、大体、教科書とか絵本に描いてある通りですよ」

「それでも、復生体さまの口から聞きたいのです。リベル・ダ・ヴェントの成した偉業を」


 偉業。実際に俺たちのしたことを、そう言われることは少なくない。

 でも俺の個人的な意見としてみれば、癇癪を起こしたに過ぎない、人に話すのは憚れるような記憶だ。

 でも、その記憶が今を生きる人の糧となるのなら、離さないわけにはいかないだろう。


「わかりました。長くなりますよ」

「朝まででも」

「ふはっ。朝までなんて、いやらしいですよ、マーガレットさん」

「ち、違います! そう言った意味ではありません!」


 堪えきれず吹き出しながらレイチェルさんが茶化す。

 マーガレットが顔を赤らめて慌てふためいて、両腕をぶんぶん振りながら、俺とレイチェルさんとで、視線を何度も往復する。


「復生体さま!」

「わかっていますよ。レイチェルさんもほどほどに、あまり後輩をからかうのはよくありませんよ」

「はーい」


 レイチェルさんは幼さを残した砕けた口調で元気よく答える。

 俺は思わず苦笑した。

 これが彼女の元の性格なのだろう。


「あ、そうだった。レイチェルさん」

「なんでしょう?」


 レイチェルさんの機嫌の良さを残したままの返事は、


「約束、覚えていますから、次の任務の時は必ず」


 俺の一言で、憂いを帯びた声色に変わってしまった。

 死ぬ前の俺は、お土産を用意すると約束していた。その時の俺は死んでいるとしても、その約束は生きている。


「ありがとうございます。でも約束だなんて、わたくしには過ぎたことです」

「そんなことはありませんよ。普段のお礼がしたいんです。それにしても、俺は幸せ者です」


 レイチェルさんとマーガレットの頭の上に疑問符が浮かぶのが見えた。

 言葉が足りなかったなと反省してから俺は言った。


「死んでも、約束を守れるので」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ