第81話 全力戦闘と斬暴蟲の矛
私は地上まで一気に跳び上がる。当然の如く地上までの全ての地層は崩壊した。
私が出た所はクレータの様に地盤が吹き飛んでいるが今はそんな事は関係ないだろう。
『来ます。』
チエさんの言葉を受け私は直ぐ様この場にいる全ての【魔多竜連合軍】所属者達に退避指示を送る。
大規模戦闘になることがほぼ確定しているからだ。
「というか、私の鎌効きそう?」
私は率直な疑問をチエさんにぶつける。
ヒヒイロカネに変化した私の鎌だが正直効く気がしないのである。
そもそもの竜種自体と私が出会った事すら無いが基本的に究極能力級の防御力を素で持っていると説明はされているし…。
すると案の定。
『ほぼ効かない可能性が高いです。ですので身体変化を行い武器を生成します。どの系統の武器が良いですか?』
マシまで?!専用武器?!…そういえば私鎌有るからって専用武器持ってなかったわ…。
ふむ、。
まず刀系の片刃タイプの剣は…良いっちゃ良いけど部下の大半が使ってんのよねぇ。
それに私の知る中に一人だけ刀のヤベェ奴がいるし…。
んじゃ両刃大剣?も良いけど、う〜ん。
大型武器はロマンだけど…なんか違うか…。
ふむ。
棒系の武器は使い勝手良いしイイかも!てことは薙刀?…いや、ここはアレだな!!
『なる程。では重さはどのぐらいがいいですか?』
500kgで問題ないよ。てか今の私のフィジカルならそんぐらいなら軽い範囲内だしな。
そうチエさんに説明しつつ私は再び跳躍する。
今回の跳躍は地下からの攻撃への対応、および回避の為の跳躍であり高さを出すよりは遠くに跳ぶ為のものである。
地下から巨大な手が現れた。
否、手ではなく脚らしい…、翼と脚が一体化した様な形状の翼、翼脚とでもいうべきかな?手の様な器官も見受けられるし翼脚の筋肉量的に翼脚での攻撃も出来そうだし気を付けよう。
んで翼膜もちゃんとあるね。
けどめっちゃ分厚いな!!何アレ?普通のワイバーンとかの翼膜が"和紙"だとしたらアレは"段ボール"だろう。
筋肉質とでもいうべきか…、翼膜にも筋肉が通っていることがよくわかる。
なんかなびいてるし…。
とりあえずコイツの第一段階の見た目は
① 四足歩行の西洋風ドラゴンタイプ。
② 全体的に白い体表に青白い脈が打ってる。
③ 翼脚であり翼膜が分厚く非常に筋肉質。
④ 眉の辺りから前方方向に角が二本生えている。
⑤ 赤と青のオッドアイで猫みたいな縦長の瞳孔。
⑥ ペンチみたいな頑丈そうな顎で下顎から生える牙が長い。
⑦ 翼膜がデカいのと身体に翼脚を密着させているせいでマントみたいになってて動きが読みづらい。
後は、けっこう低い体勢で動くなコイツ。
とりあえずこんなもんかな人造竜の第一印象は!
とりあえず見た目でどんな動きをするのかが分かる事があるからね。
さて…殺るか。
ヴァイシアはそう思うと同時に二本の鎌を持ち上げ戦闘体勢に入った。そして竜は低く唸り次の瞬間にはヴァイシアの眼前に翼脚の掌が迫っていた。
まるで虫を叩き潰そうとするものの様な殺意と尋常成らざる破壊力を秘めた掌の一撃である。
しかしヴァイシアの複眼はしっかりとその動きを捉え攻撃を後方に跳ぶ事でかわし更に掌に鎌による斬痕を残した。
ヴァイシアが躱した事で直撃した地面は数百m単位で大振動を起こしクレータが出来上がる。
掌からは血は出ない…恐らくは血液や血管といった生物的な組織が一切必要なく存在していないのだろう。感覚として粘土を斬るようなものである
出血による持続的ダメージは通用しないとみて間違いなく毒系統の攻撃も効かないだろう。
「さて、貰ってばかりじゃ悪いもん、ね!!」
そう言うと一切の予備動作なしで鎌による斬撃を加える…単純な腕力のみで山ごと砕く怪力と究極級武器超えの鎌による斬撃効果付きの一撃であり、大抵の生物なら一撃で死に至る超即死級物理攻撃である。
「―――ッチ!」
しかしその一撃を持ってしても"多少"竜鱗が欠ける程度のダメージしかなかった。当然の如く究極能力『強欲之王』による即死を乗せた一撃であったが防がれる。
数mの斬痕は竜の背に付けられるがほとんどHPは動いておらず"ほぼ"無意味となる。ドラゴン系最上位に君臨する竜種や古龍が最強種として語られる要因がこの"竜鱗"である。ただの硬度も去ることながらその防御の真価は圧倒的なまでの"攻撃"に対しての遮断性である。
斬撃で効果が薄いなら打撃ならどうかと両の手を合わせ振り落とすが、彼女の一撃を生存出来る存在などもはや限られる程度には彼女は強者へと至ってはいるが、それでも造竜の鱗はその一撃をも防ぎきる。
「ダァーッ!!硬っいなぁ!!」
魔法攻撃では無理だろうと早期にチエが伝えている為魔法攻撃による援助は無い。それは竜鱗による遮断能力が攻撃に対して行われているからである。
基本的な"攻撃"全てに遮断能力が発揮されているせいで魔法など超火力でもない限り無効化されるだろう。しかし魔道之書自体が魔法自体の強化権能を有すれば話は変わる。
だがいくら付け焼き刃を強化した所で劇的な変化は訪れないと判断しているヴァイシアは"その時"が訪れるまで待つ。
しかしながら先に動くのは造竜であった。
翼脚が展開され翼が広がる。そして翼脚に隠れ視えていなかったが、この竜には翼が2対存在する。
1対は今視えているこの翼脚であり形状は変わるがほぼドラゴンの翼である。
もう1対はおよそ生物とは思えない形状の推進装置の様なものである。
通常の空を飛ぶ生物の翼は基本的には腕が変化したものでありドラゴンの翼はコウモリに近しい構造を持っている。
指の骨が長く発達したこととその骨の間に膜が張ることによって翼となる。
そして竜のもう1対の翼は4本の指の骨が異常発達し先端に行くにつれ広がる筒の形状をしていた。
それは旅客機や戦闘機にみられるようなエンジンの形状と酷似しており転生者たるヴァイシアだからこそ反応出来たと言っても過言ではない一撃を放った。
造竜の目の前には大きさも形も違う民家が並んでいた。石畳で整備された道路があった。
青い空には雲がほんの僅かに掛かっていた。
それは今は死に絶えたか、帝国へと逃げたエネルフィシア王国の民衆が見ていた光景であった。
しかし全てが消えた。
造竜の飛行により一気に直接上のあらゆる物がその飛行速度より発生した衝撃波で一瞬の内に、破壊され無に帰した。
2対目の推進装置のような翼、進翼と言うのが相応しいだろうが、先端部から莫大なエネルギーを放ちゼロからほぼ最高速度で高速飛行を始めたのである。
翼脚はあくまで羽ばたく為のものではなく推進力を自在に調節しより高効率での飛行を可能とする為の装置でしかなく、恐らくその爆発的な推進力を支える為の筋肉なのであろう。
莫大なエネルギーも大国エネルフィシアを建造直後から今まで支えてきた造竜ならば即座に生成することなど造作もない。
コンマ1秒にも満たない僅かな合間に人無き都市は崩壊した。予想外の高速飛行による破壊力にヴァイシアも引いたがそれはそれとして直ぐ様、軍団長全員に更に遠くへ避難するように思念伝達で命令を行う。
まともに受ければ即死はせずとも瀕死になることが軍団長クラスでも確約されている為である。
(ダメージ入んないなぁ。口内に攻撃出来ればワンチャンダメージ入るか?)
そう思うがドラゴンの口は噛みつきもしくはブレスの二種類の攻撃が可能な攻撃器官でありリスクが大き過ぎる為その選択肢は除外される。
それに既に次の一手が"完成"したらしくそちらにヴァイシアが気を取られていたことも要因であった。
ヴァイシアは造竜の空に引かれていく軌跡に目を凝らしながら両の手で鎌腕を引き千切る。
どちらにせよ腕を喪失した程度なら即完治する再生能力を持ち痛覚無効を持つヴァイシアにとっては何のデメリットが存在しないのである。
鎌腕二つは即座に硬質化を起こし純度100%の虹色神鋼へと姿を変える。
名前からして緋緋色金の金属の割に虹色神鋼と言われているのは緋緋色が基本ながら他の色にも角度を変えると光る為であり性質面は、ほぼ竜鱗と同等の遮断能力を持っておりほぼ加工困難な神鋼である。
しかしヴァイシアは強引に神鋼と化した自らの腕二本を捻り併せていく。
纏めて拗じられ溝が無くなり一体化するほどに捻った時、もはや二つの鎌腕は一つの2.5mほどの棒となった。
刃には神鋼たる硬煌神鋼を使用し強度を生み出しつつ極・神聖銀鋼を支柱とする事で粘りを出した60cm程の刃を持った神器級武器が完成する。
それは巨大な矛であり元来の矛よりも遥かに巨大である。
棒状武具ならば扱いやすいというヴァイシアの希望により完成した即席武器であり後に"グラン"により嬉々として魔改造を受けより高次元へと至る事となる生体神器ある。
体格以上の大型武器を扱うというロマンを求めた武器だがその分威力は絶大である。
チエによる権能付与により究極権能:絶対切断、粉砕打撃、飛衝撃波、絶対貫通の4つの攻撃権能。
無限再生、限界突破、原型復元の3つの援助権能の合計7つの究極権能を持った神器である。
「本当に究極の優位性ないわぁ〜。」
そういうのも無理はない。何せ本人も究極能力を複数所持しており仲間にも複数所持者が多いからである。
『順当に成長していればSオーバーで獲得可能な階級スキルですから仕方がないでしょう。何かしら条件を満たせば更に上位へと至るがその条件は明確化されていません。』
成る程と思うヴァイシア、つまり条件さえ満たせば自分の究極能力5つも進化すると言うことかと思うがチエでも分からない者をどうしろと思い戦いに集中する。
造竜は既に軌道を変えコチラに直進してきており、迎え撃つには十分な距離である。
すると造竜の進翼のうちの一本が前方方向のヴァイシアの方向に向けられる。
そして向けられた二本の進翼にエネルギーが集中し球弾として放たれる。エネルギーの塊ながら密度が高く更に耐性大貫通の効果もあるので受けるのは容易ではない。
しかもその球弾が雨の様にヴァイシアに向け連射される。
「―――ッダァ!!」
ヴァイシアは新たに得た巨矛と再生した腕鎌を振るい球弾の雨を防ぎきった。そして防ぎきった直後にヴァイシアの頭上を通り過ぎ再び上空へと孤を描く様に上昇を始めている造竜の元まで跳躍し飛行した。
速度としては及ばないが重力と加速が降下直後の軌道修正で落ちていた為ギリギリ追い付くことが出来た。
そして追い付いた直後に造竜の背に刃矛を突き立てしがみつく。矛の刃は竜鱗の連結部の僅かな隙間に噛み合いそのまま絶対切断と絶対貫通の効果により見事に竜鱗を突き破った。
(脊椎動物ではなかったか…、脊椎部分は軽く斬ったぞ?オイ…。)
ヴァイシアは流石の生命力にドン引いているがそもそも人造種なので脊椎などあってないようなものである。
そして
『主、人造竜内部に明確な魂を確認しました。』
「何?!」
ヴァイシアは驚く、そもそも人造種には魂が存在せず自分の意思を持たない。その為、経験値や熟練度などの強化現象も起きないので生物兵器として扱われる。
万が一にも魂や意識があれば反撃される恐れがあるからであり人造種の中心として造られた竜にそれが適応されていないわけがないのだ。
何故、人造種の最上位に位置するこの造竜が魂を持っているのか…。
それは
『肉体に後天的に魂が移った可能性があり魂は休眠つまり一切肉体操作および自己活動を行なっていません。』
後天的に魂が移る現象はいうなれば転生である。
転生とは本来なら別の世界の魂が別の世界で産まれる筈だった命に宿る事の総称であり器のみの生体活動が可能な肉体ならば何でもいいのである。
そしてこの造竜に眠る魂は、たまたま他世界からこの自由意思のない造竜に転生してしまったのである。
「成る程、助ける方法は?!」
同じ転生者としては出来れば助けたいという考えからヴァイシアはチエに問う。そしてチエから帰ってきた返答は『一度肉体を殺すこと』であった。
今の肉体は意思なき暴走状態に近く一度シャットダウンしなければ魂を起こす作業が出来ないない。
そしてシャットダウン直後から肉体の一部機能を無理矢理変更し後は人造種の不死性により蘇生、魂を起こせば後は何とかなる寸法である。
危険はある。その魂がどんな存在か分からない事と失敗すれば魂は消え去るからである。
しかしやらない後悔はする気がない。そう思いヴァイシアは当初の目的通り殺す事を決めた。




