第77話 白き死の具現と暴怒滅尽の大魔王
メイフィルは弓を引き射る。しかし矢はその怪物に届く事は無く変わりに周囲は氷雪地帯の様により一層白く染まっていく。
メイフィルは僅か数cmにも満たない僅かな導線を伝って攻撃を回避する為に走っていく。
(聞いてない!聞いていないぞあんな化物!!)
メイフィルは理解していた。
その気になれば自分を簡単に殺せるであろう存在が殺さない理由を―それは、遊び、である。
その怪物は白い肌の白髪の美女であったがまるで悪魔のような赤い瞳でコチラを観察している。
そして何より人ではないと感じるのは下半身が蜘蛛そのものであると言うことだ。
古い古文書によれば、蜘蛛の頭から人間の上半身が生えた怪物を"アラクネ"と呼ぶそうだ。
アラクネは蜘蛛型の魔物の中では特有個体でありその存在はSを遥かに凌駕する。
アラクネ自体1000年に一度いるかいないかの魔物でありその糸は金よりも高い価値を持っており腕利きの冒険者がこぞってアラクネ討伐を目指しているほどである。
しかし、恐らくそうなのであろう。
「あらあら、もっと射って来なさいな!矢が来ないと暇なのよ。」
コイツが、親玉なのだろう蜘蛛型の魔物全ての親玉。
文字通りの格が違う。
しかし何故、アラクネが外にいたのだろう?魔蟲族は結界によって外に出ることは出来なくなっていた。
少なくとも千年は、。
しかし結界がまだ現役の状態でもアラクネは外に出没していた。
「お前に聞きたいことがある、結界があったというのに何故外に貴様の眷属がいたのだ!結界から魔蟲族は出られなかった筈だろうが!!」
メイフィルは思わず疑問をぶつける。
「死にゆく存在がソレを気にしますか?
まぁいいでしょう。
私含め眷属の一部はアラクネという特殊個体ですが眷属は少しばかり違った系統に進化したようでしてね?
亜人種に分類されていたようなので外に出られたらしいですね。
あ、ちなみに私が出てこなかったのは単純にめんどくさかったからです。
ご満足いただけましたか?」
女は素敵な笑みを向け言い放った。
亜人種だと?!つまりアラクネは、魔蟲族だと結界に認識されていなかったとでもいうのか?!
その様な混乱を起こすメイフィルだったが足を滑らせてしまい白い糸に絡め取られてしまう。
逃れようと火炎魔法を放つも一切焼けずそれどころかむしろ粘着が強まり脱出不可能となってしまった。
そして目の前には先程まで最下にいたアラクネがいた。
「絡まってしまいましたか。残念ですよ、とても。
もう少し走り回る様を楽しみたかったのですけどね。
終わらせましょうか。」
そう言うとシルヴァは右手をメイフィルの頬に当てる。
すると
「ウッイィ!ぉだぁぁぁぁぁああ!!!」
肺にあった空気が全て一瞬にして口から排出され胸骨が砕け散る。
そして喉を通った空気は声帯を通り口から排出されその際の音は発狂として喧しく響き渡る。
それは死の具現である。
ただ触れただけで対象を殺す事が出来る悪魔であり四姉妹最恐の存在、他の三姉妹が最大限の連携をした所で勝率は無いに等しい死の具現体である。
シルヴァは絶望に歪み死んだメイフィルを見つめていた。
「実際私とウネヴァそしてヴァイシアは結界の影響なんて受けていなかったのだけれどね。」
そう、そもそもあの結界は元々は毒魔蟲族を含めた蜂系の魔物を対象としていた。
その為、ヴァイシア含め他種の魔蟲族は元から外に出れたのである。
それでも出てこなかったのは一重に妹のような存在であったヴェルアを思っての行動だろう。
おそらくはウネヴァも…。
ヴァイシアに関しては本気で結界から出られないと錯覚していたようだが…。
それはもう良いだろう。
つまりアラクネが亜人種というのはデタラメである。
「さて、さっさと人類を滅亡させて地上に出ていたアラクネを回収しましょう。」
アリシアは宙に浮かび一呼吸の内に3体の【王魔王・勇者級】の造王竜と他のSランク冒険者20名を殲滅する大火力攻撃を放とうとしていた。
「おいおい、魔王かよ…。」
誰かが絶望したような声で膝から崩れ落ちる。
「絶望している場合じゃないぞ!物理防御結界!魔法防御結界!能力阻害結界を全員で張る、デカい攻撃が来るぞ!!!」
全員がその言葉に応じ結界を張る。
それは何重にも重なりまさしく鉄壁の堅牢なる要塞であった。
更に同時にガーディアンドラグロード達が一斉に攻撃を開始する。
下位の魔王より遥かに強い怪物3体が多段攻撃を行っているのだ。
いくら魔王といえど無事では済まないと、
誰もが思っていた。
しかし、
「なんだ、弱すぎではないか?」
煙が晴れる前にその言葉が響く。彼等は知る由もないが効く恥ずがなかったのだ。
存在値が実質無限の怪物に、。
「お前等相手に全力を出す義理がないな。死ネ。」
アリシアは少し口を開き"カコ"という音を立て口を閉じた。
そして数度の咀嚼の後に飲み込む。すると何事もなかったかの様に飛び去っていく。
結論から言えば彼等は喰われたのである。
アリシアの大罪系の神罰級のスキルによって。
神罰級とは究極能力の上位であり神格能力同様に最上位に位置づけられている。
アリシアの神罰能力は【暴食神罰】でありその権能は多岐に渡るが今回使われたのは"視認捕食"と呼ばれる最悪である。
視界に入った時点でどんな存在だろうが捕食し殺す事が出来るイカれた性能である。
神格能力か神罰能力がなければ対応不可のチートである。
飛び着いた先にはラリアナがいた。
ラリアナが口を開く。
「瞬殺ご苦労、てかそのレベルの力なら魔王序列5位狙えそうじゃない?」
ラリアナはとても愉快そうである。
「まぁ、私の部下も一気に増えて成長してるしいけなくはないと思うけどさぁ。んで、どんな感じ?」
「ん、ヴァイシアちゃんが互角の戦いしててウネヴァちゃんは死にかけつつも一撃で勝ったね!
他の子達は割と互角ではあったけど苦戦することなくって感じかな~。」
ラリアナはそう言いながら外の映像が観れる空間モニターを見つめる。
「んで、強欲は?」
アリシアの質問にラリアナの愉快そうな表情は真面目さを帯びる。
「強欲の称号者、でしょ?うん、戦場に来る様子もないし多分手は出してこないかな。」
「そっか、元々はマモンの領地だもんね。この人間の国って」
マモン、それが強欲の大罪称号者の名前である。
「てか、マジで久しぶりにみたね。サタンの所のベルフェゴールとアスモデウス以外はマジで久々だよ〜。」
ラリアナは言う。
そもそも大罪称号者自体がサタン含めた6名のみでありそのうちの3名は自由行動をしているのである。
「アレが出てくるって事は確実にサタンに文句言われるだろうね。めんどくせ~!!」
そう言うラリアナ。
実はサタンはかなり前から大罪称号者全員で協力関係を持とうと奮闘していたのだが…。
マジで他三名が言うことを聞かないのと直ぐに行方を眩ませるので各魔王の領地で反応があるとサタンがとんでくるのである。
そして逃がすとやつ当たりとして数週間抜き打ちで領地視察を行なってくるのだ。
もはや面倒くさい事この上ない。
「多分アリシアちゃんの領土視察かな~。」
その言葉に崩れ落ちるアリシア。
かなり細かく視察してくると言うのが魔王間では常識なのでもはや絶望以外の何物でもないだろう。
「嫌だな〜。」
「仕方ないさ、頑張れ。」
人類を殲滅した後もしばらくは苦労が続きそうなアリシアなのであった。




