海の魔物討伐の正式な依頼
ポルトゥスの領地を治める伯爵、ピース・ミーティスは若くして穏やかな、話のわかるような人物だった。
街の危機的な状況とは……?
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。中央都市マグヌスでグラティアと出会い、共に旅をする。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの二人のことを気に入っている。
ルシーダ・ラジール:人族、18歳。中央都市マグヌスを治めるラグルス・ラジールの娘。グラティア達に護衛を頼み、ポルトゥスへと赴く。
トール:人族、27歳。ポルトゥスで海賊の若頭をしている。黒髪で暗褐色の瞳。
ピース・ミーティス:人族、35歳。ポルトゥス領を治める貴族。穏やかな性格。
「おぉ、エルフ様が二人も来ていただけるとは心強い。前々からラグルス様にも相談はしていたのですが……かなり危機的な状況でしてね」
やはり、街自体も危なかったのか。
「昨日、この街に住む海賊のトールという男に聞いた話だと、二年前に海の魔物が現れて、それから漁が出来なくなったんだっけ? 王国は魔物に対しての対応をしてくれていないとボヤいていたよ」
ムジカはピースに言う。
「いや……何もしていないと言うよりは、手を出せない状況だったというのが正しいですかね。海の魔物の正体はセイレーンという恐ろしい魔物だと思われます。戻ってきた探索船の者から聞いた話によるとですが」
「やはりセイレーンか……人の記憶に直接働きかける幻惑の魔法を使うヤツだな」
私自身見たことはないのだが、話には聞いたことがある。
「セイレーンって、大陸の北の海には出るって言うけど、大陸の南西に位置するこのルミノース王国の沿岸には、今まで現れたことがないような気がするんだけど……? まぁでもそれがホントなら人族には厄介だよね」
「はい。私はまだ三十年と少し生きているだけでございますが、私も今までそのような話は聞いたことがありません。そして、漁獲と他国からの輸出入で経済の七割ほどが成り立っているここポルトゥスで、船が出せないのは致命的なのです」
ムジカの問いに答えるピース。
「じゃあ今回、僕たちがたまたまルーシーちゃんの護衛を引き受けてここにやってきたのも、元々はピースくんとラグルスくんが前から相談していたことの延長という感じなのかな?」
頭をかきながら苦笑いをするピース。
「いやぁ……すみません。私は正直にご相談したほうがいいんじゃないかと提案したのですが、ラグルスさんはああいう性格なもんで……それに私よりも七つも年輩なので逆らえないんですよね」
貴族社会に年功序列があるのかどうかはわからないが、家系の問題とかそういうのもあるかもしれないな。
「ピース様。まぁこうなった経緯はともかく。明日には海賊トールと共に、その魔物セイレーンを成敗してきますわ。それで万事解決ということじゃないでしょうか?」
ルシーダが話をまとめようとするが、ムジカが手を出し、それを止める。
「あ、そうだ。今回の僕達が頼まれているのはルーシーちゃんの護衛なんだよね。ポルトゥスの海の魔物の討伐は依頼されていない。海の魔物セイレーンの討伐を、正式な依頼として受けようか」
ピースが表情を引き締める。
「そうですね。ではこれでお願いできますでしょうか」
ピースは両手を広げて前に出す。
「金貨百枚じゃ少なくないかな……?」
「いえ、金貨千枚でお願いします。街の崩壊を考えると安いものですが、かなり踏み込んだ対価ですので、この中に討伐の際の支度金も含めてということで、お願いできますでしょうか?」
海賊トールに払う出港レンタルの金貨五十枚を考えると、かなり破格な気はしたが、ムジカは驚く様子もなく、普通に対応をした。
「まぁそのくらいだよね〜。よし、ポルトゥスの街のため、住民のために一つ頑張りますか〜。みんなそれでいいかな?」
いや、完全に美味しい魚! 新鮮な魚! と街に着いた時も言っていたぞお前。まぁここはムジカに合わせておくとする。
「私は異論はない。一つだけ確認したいんだが、先ほどルシーダとも話していたのだが、海賊のトール。こいつは特に怪しいところはないのか?」
こういう交渉事においてはアルドはいつも大人しい。でも何を話しているかはしっかりと聞いているようだ。
「はい、海賊の若頭のトールですね。身なりというか態度や話し方はあまり褒められたものではないですが、あいつは父親からの仕事を引き継いでよくやってくれてはいます。必要悪と言う言葉を知っていますか?」
なんとなくはわかるが……
「みかじめ料を取って、その代わりに治安維持に協力しているという感じでしょうか?」
ルシーダが答える。
「まぁそうですね、公には認められてはいません。だが、海賊達がいるから、裏でこそこそ悪事を働くようなのは少なくなるので、言い方は悪いのですが、上手く利用はさせてもらっています。その代わりこちらも目を瞑っている、という具合です」
ピースが言っている話を聞くと、上手くやってるような口ぶりだが、トール本人は王国や貴族にかなり反感を持っていたような……まぁ考えの違いなどはあるのだろうな。
「なるほどね〜。まぁいいや、とにかくセイレーンをぶっ飛ばして、元通りに船を出せるようにすればいいってことだね。明日は早くからの出発になるから早速準備をしてこようかな」
ピースはほっとした様子だった。
「よろしくお願いいたします。あっ、もしよかったらなのですが、たいした振る舞いはできないのですが、昼食を召し上がっていかれますか? 無理強いはしませんが」
「ありがたく頂こう」
この時だけは、私が自信を持って答えた。人からの好意はありがたく受けるべきである。
ピースより、魔物討伐の依頼を正式に受けるグラティア一行。
海の魔物セイレーンを首尾よく討伐することはできるのだろうか?
◯ポルトゥス領主ピース・ミーティスのプチ情報
ピースがセイレーン討伐で提示した報酬の金貨千枚はかなり破格である。でも、ポルトゥスの経済が全て止まってしまうことを考えると、安いものだとピースは判断した。ピースはあまりケチケチはしない性格のようだ。




