若き領主、ピース・ミーティス
海賊トールとの交渉を無事終え、
明後日の航海までに、一度ポルトゥスの領主、ミーティス家へ赴くことにする一行。
ポルトゥス伯爵とはどんな人物なのかな?
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。中央都市マグヌスでグラティアと出会い、共に旅をする。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの二人のことを気に入っている。
ルシーダ・ラジール:人族、18歳。中央都市マグヌスを治めるラグルス・ラジールの娘。グラティア達に護衛を頼み、ポルトゥスへと赴く。
トール:人族、27歳。ポルトゥスで海賊の若頭をしている。黒髪で暗褐色の瞳。
ピース・ミーティス:人族、35歳。ポルトゥス領を治める貴族。穏やかな性格。
ポルトゥスに到着して二日目の朝。
宿の部屋は私とルシーダ、そしてムジカとアルドに分かれて取ってもらっていた。
二人部屋とはいえ、部屋のひとつひとつも割と広く、ベッドもふかふかだったし、ルームサービスで果物も出してくれるし、なかなか良い宿だった。
「おはよう、グラティア。昨日は良く眠れましたか?」
あわよくば果物を一人で頂こうと思っていたのだが、そのタイミングでルシーダが起きてきた。
「あぁ、おはよう。今までに泊まったことのないくらい寝心地のいいベッドだったな。ぐっすり寝れたぞ」
実のところ、250年ほど生きてはいるが、そこまで贅沢な宿に泊まるということ自体もあまりなかったような? 貴族と行動を共にすることが少ないからもあると思うが、たまにはこういうのもいいのかな、と感じていた。
これがしょっちゅうになると、きっとしんどくなるのだろうな。
「それは良かったですわ。ムジカとアルドが起きてるかわからないですが、朝食を一緒に食べましょうか?」
私が思うには、あの二人の場合、何やら夜ふかししてどうでもいい話をしたり、ムジカがアルドに自分の武勇伝を聞かせたりとかしてそうな気がする。
「まだ寝てるんじゃないのか、私はそんな気がするぞ。まぁ声だけはかけておくか」
私達の部屋からいくつか離れたところが男共が泊まっていた部屋だったので、そこまで行き、軽くノックをする。
「飲み過ぎた〜……あと一年寝かせて〜」
このフザケた声はムジカだな。ムジカの場合飲み過ぎても酒酔いはあまりしないと思うんだが。横でルシーダが苦笑いしている。
「先に行っておきましょうか、今日は特に急ぎの用はないですし」
◇
ポルトゥスの宿の朝食は、やはり昨日入った旅人向けの店と同じく、魚介類はほぼなかった。
でも、色々な種類のパンや、ふわふわに焼いたチーズの入ったオムレツ、ベーコンとたくさんの野菜が入った温かいスープなど、素朴ながらも朝食にはちょうどいい量と内容だった。
「うむ、もし海の魔物の件がすぐに片付かなかったとしても、何泊かしていってもいいな。どうだ?」
「そうですわね。私は全然構わないんですが……お父様からは経費の件でお叱りが来るかもですけど。今日訪れるミーティス家で、魔物の情報も聞くことができればいいんですけどね……」
昨日店で会ったトールが言っていたな。海の亡霊とはなんだろう?
「そうそう、あの海賊のトールとやら。金の問題は別として、やけに早く決まったと思わないか? 初めのほうはかなり渋っていたと思うんだが」
ルシーダは白い柔らかいパンにチーズオムレツを挟んで、上にバターを塗って食べていた。私も真似をしよう。
「ん〜……どうなんでしょうね? 結局のところ、日々の生活もあるから船の貸し出しと、一回のお供で金貨五十枚なら割が良いと判断しただけでは?」
まぁ確かにそうか。そのあたりを今日会う予定のこの街の領主に聞いてみてもいいかもだな。
何やら客室の方から誰かが出てきているなと思ったら……
「もう、朝ごはん食べるなら起こしてよ〜!」
ムジカは相変わらずだな……
「あっ、めちゃくちゃ美味しそうな朝ごはんですね〜! 昨日はムジカさんが寝かせてくれなくて……でも色々お喋り楽しかったです」
一緒に来たアルドが言う。やっぱりそうだったか。
「ムジカ、アルド、おはよう。私達はこれから飲み物とデザートを頂きますが、よかったら朝食を頼みましょうか?」
ルシーダはこの若さだが、一番大人だった。
◇ ◇
「さて、お腹も膨れたことだし、ゆっくり歩きながら領主の家の方に行ってみようか〜」
と、ムジカ。領主のミーティス家の屋敷は、この宿がある主に貴族向けの区画から、さほど離れていないらしい。
昨日、海賊のトールがいた裏路地などの平民区画とは真逆の位置にある。
ちなみに昨日床に就く前に、ミーティス家の方へはルシーダが宿の者に頼み、来訪の旨を伝えてくれたようだ。やはり、しっかりしている。
「ミーティスさんってどんな人なんだろうね〜? マグヌスの伯爵さんは、なんだか底しれない感じだったけど」
アルドも、それなりにあの伯爵のことは感じていたわけだ。確かにマグヌス伯爵は表面上はとても聡明な感じだが、腹の中では色々と考えていそうだな。
「まぁ、とりあえず行ってみたらわかるんじゃない? ルーシーちゃんいわく、まだだいぶ若いみたいだし、そんなに心配しなくてもいいと思う」
ムジカがアルドに答える。
ほどなくして辿り着いたミーティス家の屋敷は、それなりに大きかったが、泊まっている宿が豪華過ぎただけに、驚きは少なかった。
屋敷の中に入り、侍女に取りつぎを頼んだ。
「奥に客間がございますので、そこで少々お待ちいただけますか」
マグヌスのギルドの奥にあったような小部屋に通され、しばし待たされた。
少ししたあとに、ドアを軽くノックし、入って来た人物がいた。
「お待たせしました。この度はわざわざお越しいただきまして、ありがとうございます。ポルトゥス周辺を任されております、ピース・ミーティスと申します」
ドアの前で一礼をする。見た目は三十半ばだが、とても物腰も柔らかい男だった。
ルシーダが皆の前に一歩出て、ピースに挨拶をする。
「父がいつもお世話になっております。娘のルシーダ・ラジールです」
「こんにちは、ルーシーちゃんだね。十年ぶりくらいだからきっと覚えていないと思うけど。背も大きくなったし、立派なレディになったね。お父様とはたまに会って話は聞いていたが……あ、他の方達はきっとお初だと思います。良ければお名前を教えていただけますか?」
ピースは、割と気安い性格のようだ。
「僕はムジカ。そして、こちらがグラティア。そして友人のアルドだ。よろしくね、ピースくん」
私は友人ではないのか、その差はなんなのだ。
「おぉ、エルフ様が二人も来ていただけるとは心強い。前々からラグルス様にも相談はしていたのですが……かなり危機的な状況でしてね」
やはり、街自体も危なかったのか。
宿で朝食をゆっくりいただき、
訪れたミーティス家。
現れたポルトゥスを治める領主、ピース・ミーティスは若く、とても穏やかな様子であった。
◯ポルトゥスの街の高級宿屋プチ情報
グラティア一行が泊まった旅人向けの宿屋は、とても良い部屋だったようだ。
グラティアは自分が生きてきた中で一番良い宿だと言っていたが、そもそもグラティアはあまり寝床だったり、住む環境には頓着しない性格のようだ。疲れた時には地面の上でも普通に寝れるらしい。




