港に行く前に、地元向けの汚くて安くて下品な店も気になる
ルシーダが宿で聞いた、観光向けの綺麗で上品な店の料理はとても良かった。
グラティアはルシーダに目で合図を送る。
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。中央都市でグラティアと出会い、共に旅をする。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの二人のことを気に入っている。
ルシーダ・ラジール:人族、18歳。中央都市マグヌスを治めるラグルス・ラジールの娘。グラティア達に護衛を頼み、ポルトゥスへと赴く。
「ごちそうさまでした! めちゃくちゃお腹いっぱいだ〜!」
と、アルド。そうなのだ、ルシーダが聞いてきてくれた、おすすめの旅人向けの綺麗で上品で、値段は少し高いが、初めに入った店は、アタリだった。
「新鮮なお魚が食べれなかったのはちょっぴり残念だけど、普通にどのメニューも美味しかったよね〜」
ムジカも満足げにデザートのアイスを食べている。いつの間にか追加で注文していたようだ。
「さて、新鮮なお魚のために……いえ、ポルトゥスの住民の皆さんの暮らしのために、最近魚介が獲れなくなっている理由を探りにいきましょうか」
ルシーダも自らの欲望が少し漏れているようだ。んー、まぁどうせ海の魔物の大量発生とか、そういう類だとは思うが。
「そうだ、ルシーダ。はじめに言っていた、地元向けの汚くて安くて下品な店というのも少し気になるから案内してほしいんだが……」
私が言うと、ルシーダは顔をしかめた。
「グラティア、まぁ構わないんですけども……私の勘ですけど、あまり期待はしないほうが良いと思いますわよ」
ルシーダが貴族令嬢としてのおしとやかさからは少し離れてるとはいえ、汚くて下品な店というのは拒絶反応が出てしまうのかな。
「うむ、期待は元からしていない。ただ地元の民が集まるということは、そこで情報を聞ける可能性もあるだろう?」
「おっ、グラティア。美味しいごはんを食べた後だからか、なんか冴えてるね〜」
私の機転にムジカが水を差す。
「グラちゃんの言う事、たぶん当たってる気がするよ。ねぇルシーダ、もし店に入りづらそうなら外で待っててくれてもいいし、少しだけ行ってみようよ」
ほら見ろ、アルドはよくわかっているぞ。
「なるほどです。地元の方たちのほうが、ここの仕事に直接携わってもいますし、漁師ではなくても情報が回ってる場合はあり得るかもしれませんわね」
◇ ◇ ◇
というわけで、初めに入った観光向けの綺麗な店が並ぶ区画からは外れた裏通りになる、地元民に向けたひっそりと暗い路地に並ぶ、店のひとつに向かうことになった。
まぁ時間はあるし、すぐに港に向かっても何かが見つかるものでもないからな。
「それにしてもさっきのお店、マグヌスのラ・メーラの店に比べたらだいぶ安かったよね。四人で金貨三枚ってマグヌスの半値以下だよ? やはり港町は物流も盛んなぶん、物価も中央都市に比べたら安いのかもしれないね」
ムジカが感心していた。ムジカはアルドと二人でお肉とお魚の料理を半分こしていたから尚更満足に違いない。この親子感はなんなのだろう。
「この店ですわ。開けますね……」
ルシーダが開き戸を開けると、雰囲気からして暗い、何故か潮の臭いがする店だった。
木の丸テーブルが乱雑に置かれていて、奥にはカウンターがあった。店員も入っている客も、人族と獣人族がほとんどだと思うが、あまりガラは良くなさそうな面をしている。
エルフ族二人と、貴族と、人族という、店には似つかわしくない客なのはわかるが、遠慮なくジロジロと見られるのは気持ちのいいものではないな。
「四人だ、空いてる席に勝手に座ったらいいのかい?」
ムジカは店員ぽい者に一応宣言しておいた。店員は愛想もなく、無言で頷く。
「エルフ様が二人もこんな店になんの用ですかね〜??」
丸テーブルのひとつに、何人かで座っていたうちの一人が私達のことを言っているようだ。黒髪の長髪に暗褐色の瞳の、細身の人族の男だった。歳はおよそ二十代の半ばくらいかな。
そいつのヤジを無視し、席に座り飲み物だけ注文をする。エールを二つと、冷たいミルクとオレンジジュースにした。飲み物を運んでくれた店員に少し聞いてみた。
「ポルトゥスの港あたりや、地元の情報に詳しそうな者はここに今いるかな?」
店員は訝しげにしていたが、銀貨一枚を渡すと口を開いた。
「さっき、アンタ達にヤジを飛ばしてた奥のアイツ。海賊の若頭のトールはここらの情報に精通してるはずだ」
海賊のトール。見た目は海賊をしているようには見えなかったがな……
「ありがとう、助かるよ〜。さっそく声かけてみようか」
ムジカは店員に礼を言い、トールとやらに声をかけにいく。
「やぁ、海賊さん。最近ポルトゥスで魚が獲れなくなった理由って知ってるかい? 君達が独占してるとか、だったりして?」
わざとなのか、ムジカは挑発するような発言をしている。
「おぉ、エルフ様。高貴なエルフ様が、俺達のような下賤な海賊に声をかけてくださるなんてありがたいことです!」
テーブルの周りに座っていたトールの連れの男達がそのトールのセリフに笑い出す。
「あぁ、そうだ。普通なら王国の依頼でお前達を成敗することもあるかもしれないんだけど、今回は関係ないから大目に見てやろう。トールくん? 君がこの中で一番偉いんだよね」
ムジカが少しずつ圧力をかけている。
「高貴なエルフ様は、自らの力を行使して、下々を無理やり従わせるようなことはしないと聞きましたが? それは俺の聞き違いですかね?」
「いつまでもフザケてると知らないよ? 僕は普段は温厚だけど、話が通じないヤツは嫌いなんだ」
海賊のトールはニヤニヤしていた顔を少し変え、真顔で言う。
「だいたい察しはついてると思うが、海の魔物だ。船はここ二年ほど、ずっと出せていない」
「なんだ、ちゃんと話せるなら初めから話してよ〜。で? 君達海賊は漁師の仕事もしながら、略奪もしていたのかな?」
ムジカは更にトールに聞いた。
「お偉いエルフ様は海賊のことをあまりよくわかってないと思うんだけどよ。俺達は貧しい地元民から略奪はしない。海で起こる危険から守ったり、無許可で不正をしてる奴らの取り締まりをしているんだぜ」
海賊のことはなんとなく聞いたことはあったが、漁師達や、港での仕事を生業としている者達からみかじめ料を取る代わりに、安心して働けるようにしているらしいな。
「まぁ口ではなんとでも言えるよね。まぁどっちにしても、船が出せないんじゃ海賊の商売もあがったりだね〜」
結局話が長引きそうなので、私達もムジカとトール達のテーブルの近くに移動する。
「おっ、エルフ様だけでなく、可愛い貴族のお嬢様と坊やも一緒だったのか」
アルドは坊やと言われて少しショックを受けているようだ。
「海賊トールさん? 私はルシーダ・ラジール。中央都市マグヌスを治めるラジール家の娘です。今回私達がここポルトゥスに来た理由は、その問題を解決するためでもあります」
え、そんな話は聞いていなかったが、そうだったのか。新鮮な魚を食べるための旅という感覚だった。
「ほぉ、ラジール家のね……まぁ魔物を退治してくれるんならありがたい話だが……船は出さんぞ。これ以上船と乗組員を失うわけにはいかないからな」
コイツはなかなか手強そうだな。
観光向けのお店で美味しい料理を堪能したあと、少し気になった地元民向けの店にも情報収集のために一度行ってみることにした。
そこで、ポルトゥスの海賊トールに出会う。
◯ポルトゥスプチ情報
初めにポルトゥスの街でグラティア達が入った旅人向けの飲食店は四人で金貨三枚(およそ6万円くらい)だった。中央都市マグヌスでグラティア、ムジカ、アルドの三人で行った「ラ・メーラ」の店は金貨七枚(およそ14万円)だったことを考えると、安くはないがマグヌスの時よりはマシ、という価格であった。




