海賊の若頭トール
地元民の集まる路地裏の店で、
たまたま出会った海賊のトール。
トールとの交渉は上手くいくのだろうか?
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。中央都市でグラティアと出会い、共に旅をする。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの二人のことを気に入っている。
ルシーダ・ラジール:人族、18歳。中央都市マグヌスを治めるラグルス・ラジールの娘。グラティア達に護衛を頼み、ポルトゥスへと赴く。
トール:人族、27歳。ポルトゥスで海賊の若頭をしている。黒髪で暗褐色の瞳。
「ほぉ、ラジール家のね……まぁ魔物を退治してくれるんならありがたい話だが……船は出さんぞ。これ以上船と乗組員を失うわけにはいかないからな」
コイツはなかなか手強そうだな。
「船を出さない理由を聞かせてもらってもいいかい? トールくん」
と、ムジカ。
「簡単に言うと、お前らは信用できないからだ」
信用できない……それは私達自体のことなのか、それとも種族に関してなのか。
「簡単にではなくて、ちゃんと説明してもらってもいいですか?」
ルシーダがそれに反応する。
「とりあえず酒の追加を頼んでいいか。おい、ギャレット! こちらのエルフ様御一行の勘定で、俺達とあっちのテーブルの分の酒を頼んでこい」
まぁまぁ図に乗ってきたな、こいつ。ギャレットと呼ばれた、トールの横に座っていた子分のような男が、店員に酒を頼みにいく。
「信用できないというのは、エルフ族のことかな? それとも貴族?」
ムジカが被せて聞く。
「まぁどっちもだな。俺が話すことはでまかせじゃあねぇぞ。そっちの坊やもよく聞くといい」
トールが酒をあおりながら話した内容はこうだった。
二年ほど前に漁に出た船が帰ってこなくなった。そして、それを探索に出た船も帰らず、ギルドにも報告をして、騎士団の護衛のもと探索船が出たが、命からがら帰ってきたのは一部の貴族と騎士団の残党だけだった。
海の亡霊が出たという。
そして、王国も貴族もそれからその問題に関しては一切手をつけず、必死で捜索をしているのは、地元の漁師やトール達海賊だけらしい。
海産物や魚介の価格に対しては口出しをするくせに、一向に物理的な援助をしない貴族のことを信用できないということだった。
「ちなみに、エルフ族も同じだ。エルフ族と王国や貴族などが密接に絡んでいるのは知っているからな」
トールの話は確かに的を射ていた。自らで手を下さず、金と口だけを出すのは貴族の悪いところだと言えるだろう。そして一部のエルフ族がそうであることも否めない。
「トールくんの言い分はわかったよ。でも、このままじゃ問題は解決しないままだよね。僕たちがその魔物を排除しよう、それではダメかな?」
こういう時は交渉上手のムジカに任せるのが一番だ。私は横で頷くだけに専念した。
「船は出さんと言っている。泳いでいけばいいんじゃないか」
「このままだと君達、海賊だけでなく、この街自体も壊滅してしまうよ? ここがほぼ海産物で成り立っていることは知っていると思うけど」
トールはムジカをじっと睨んで言う。
「じゃあこういうのはどうだ。俺の所有する船を金貨五百枚で買え。俺は海には出ないがな」
金貨五百枚は私が聞いても破格な気がした。しかも乗組員は無しだと、そもそも船が進まないんじゃないか。
「金貨五十枚で借りるということでどうかな? 僕達は普段は船は必要ないから今回だけでいいからね。あと、君には来てもらう。でないと船を壊してしまうかもしれないからね」
急にトールは体をのけ反らせて笑い出した。
「わっはっは! エルフのお兄様には負けたぜ。確かに貸し出して船を壊されたらたまったもんじゃねぇからな。よし、それで交渉成立だ。出港は明後日の夜明け前に出るぞ」
横で話を聞いていたアルドは大人しく見守っていたが最後に口を開いた。
「トールさんって、あまり見ない髪の色なんですけど、もしかして異国の方なんですか?」
トールはアルドのことを見て言う。
「おぉ、坊やもまだ居たのか。よくわかったな、俺は海の上で生まれたから俺自身はどこの国出身というのはないんだが、俺の親父はインスラー皇国の生まれらしい。もう十年以上も前に死んだけどな」
なるほど。黒髪と暗褐色の瞳の色は父親譲りと言うことか。
「わっ、インスラー皇国って海の向こうの島国ですよね!! あれ、ムジカさんこの前インスラー皇国に行ってたんじゃなかったっけ?」
アルドの無邪気さは、体が大人になっても変わらないものだな。
私は一人。変わることと、変わらないことについてふと考えていた。
出港は明後日だ。




