29.イカレ国王vs悪役王女(語り部:国王)
残念ながら、城門突破は出来なかったが人質作戦は十分な効果があったようだ。
クーデター派の兵の士気は著しく落ちたうえに、近隣の農民どもが怯えて城内へと逃げ込んでいる。
これは全て、ワシが計算した通りの結果だ。
城にいる人間も、この付近に住んでいる民草も、まさかワシが農民を盾にするとは思ってもいなかった。不意を突くことで人は冷静さを失い、農民たちは食料を運ぶことも忘れて自分たちの村から退避した。
ゆえに、我々は労せずに周辺の村々から大量の食糧を手に入れ、反逆者ミツボーとイキリッチスキーは、食料を食いつぶすだけの民草を抱えることになったという訳だ。
人でなしと罵倒したければしろ。国王失格という烙印を押したければ押せ。だが、最後に勝ち残るのもが勝利者だ。
モラルや人の道などというまやかしに惑わされ、勝機を失ってきた行儀のよい愚か者をワシは何度もこの目で見てきた。民草の中には、その生きざまを伝えていく者もいるが、敗者はしょせんは敗者にすぎん。
この生まれ落ちた唯一の皇太子のために、ワシは悪魔にだってなれる!
いったん優勢になった戦況は覆らないものだ。
反逆者ミツボーとイキリッチスキーは、予備の食糧で食いつなげると高を括っているのだろうが、その予備の食糧を貯蔵していたのはワシだ。お前たちを守る兵士と、足を引っ張る民草たちが1日でどれだけ消費するか、しっかりとわかるぞ。
想定通り、10日も包囲を続けたとき王都から脱走者が現れはじめた。
ワシはその脱走者を捕らえると、半分の者を見せしめとして残虐な方法で殺害し、残った半分を王都へと突き返した。こうすれば、一般人は脱走ができなくなるし、ミツボーどもの頭にも一般人を開放するという選択肢がなくなる。
15日が経過すると、中にいる間者が内部の様子を報告してきた。
すでに食糧は底をつき、ミツボーやイキリッチスキーさえも家畜のエサを食べているようだ。しかし、王都にはウマだけで2000頭はいる。奴らは未だに家畜の解体を指示していないらしく、家畜のエサもすぐに底を尽きるだろう。
18日目になると、再び患者が内部の様子を報告してきた。
遂に家畜の食糧も底を尽きたようだ。ミツボーたちは今頃になってウマやウシの解体を指示しているが、ワシから言わせれば判断が遅い。
そして22日目。ワシは城門前で炊き出しを行い、芋粥や麦粥を作ってから王都の人間に向かって降伏を促すと、数千の人間が城門をこじ開けて押し寄せてきた。
その中には騎士や貴族の姿もあり、もはやミツボーは裸の女王になっていることは明らかだ。
ワシは、降伏した貴族や騎士に反逆者追討の任を与えると、この者たちは飼いならされた犬のように忠実に城内へと突入していき、ミツボーやイキリッチスキーの首を挙げてきた。
いくら謀略に秀でた姫と言っても、それは王宮内での話だ。本格的な戦争の前ではミツボーの知恵など、小賢しい娘の戯言にすぎん。
イキリッチスキーの武勇も、しょせんは個人的な強さだ。少し大きな虫がいたとしても、軍隊アリの前では虚しく敗れるもの。
こうしてワシは、ミツボーやイキリッチスキーという最大の障壁を取り除き、皇太子のために王への道をしっかりと残すことができたという訳だ。
「へ、陛下……一大事でございます!」
ええい、なんだ……今、勝利の美酒をたしなんでいるというのに……。
「どうした?」
「魔王軍が……我が国内に侵攻を開始! 国境沿いの砦が陥落したという知らせが!!」
なんだと!? おのれ……次から次へと……
だ、だが、そんなことも想定はしているぞ。ウィリアム海軍に攻撃指令を出すとしよう。
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