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30.ブラックユニコーンが最も恐れる者

 小生は船の中で、妻エマニュエルと息子グラディウスへの言い訳をつらつらと考えていた。

 やましいことは何もしていないが、さすがに女ばかりの人魚島に長期間居続けたことは後ろめたい。一応だが金貨100枚の土産は持ってきたが、これで許してもらえるだろうか。


 ああ、島が見えてきた。

 水鳥たちが飛び交い、港は以前とは比べ物にならないくらい多くの商船が行きかい、繁盛しているようだ。甲板に立って様子を眺めていると、港から1頭の天馬が飛び立ってこちらに向かってくる。


『グラディウスか……』

『お父さん。帰って早々で悪いんだけど……いくつか大陸の情報を入手したんだ』

 さすがは事情通の我が息子だ。小生は感心しながら話を催促することにした。

『なるほど。では、一つずつ情報を頼むぞ』

『情報はざっくりと4つ。お父さんが納得しそうなのと、お父さんがとても納得しそうなのと、お父さんが凄く納得しそうなのと、お父さんがえっ……と驚きそうなのがある』


 小生は大好きなモノを一番最後まで取っておく主義だ。そのことも見越して息子はこういうふうに話を並べてきたのだろう。

『前から順番に頼む』

『オーケー。ツーノッパ料理式に前菜から行くよ』

 頷くと息子は言い始めた。

『まず、王国内でミツボーとニセ勇者イキリッチスキーが謀反を起こし、王都を制圧した』

 それは、想定内の出来事である。これが小生が納得しそうな話か。

『次に、国王は2人の起こしたクーデターを、兵糧攻めという苛烈な方法で鎮圧。周囲の村々の人々を追い立てて王都内に逃げ込ませるという徹底ぶり』

 国王の性格を考えれば十分に考えられる。とても納得だ。


『3番目に国境沿いの主戦力が、全て王都に集まったため国境沿いに隙ができ……魔王軍が侵攻。国境沿いの砦が陥落する。同時に国王はウィリアムを許して海軍に迎え入れる』

 そうなるだろうな。魔王軍の今までの行動を考えれば、凄く納得という表現がいちばんしっくりくる。

 さて、最後のデザートはなんだろう?


 そう思いながら息子を見ると、彼は周囲を見回してから小生の耳元でささやいた。

『最後に、王国の国民たちが密かに革命を計画している。ジョニーのお友達のロビンに調べてもらったら……かなり大規模なものになる』

 それはびっくりな話だ。

 革命となると多くの武器はもちろん、王国側に隙が必要にもなるわけだが、度重なる無意味な戦争と、魔王軍の侵攻という2つの条件がそろっているので、あり得ない話ではない。


 グラディウスに視線を向けると、彼は不敵に笑っていた。

『渡り鳥の話では、タテガミウイング大公国のポニースキー陛下が蛮族たちを外交だけで屈服させたらしい。だから、武器の在庫がだぶついて商人たちが困っているみたいだよ』

 なるほど。つまり格安で武器を買って、住民たちに売るということか。

『……お前が目を付けている武器は?』

 そう聞き返すと、グラディウスはそっと答えた。

『槍だよ。たてがみ公国で一番だぶついている。重要なのは穂先だけだから一度に大量に持ち運びできる。手に入れた住民たちも隠しやすい。槍は素人でもすぐに扱えるようになる……と4拍子揃ってる』


 小生は心の中でエマに謝ると、100枚の金貨が入った革袋や、サンゴや真珠が入った袋を息子に渡した。

『これを足しにするがいい』

 その言葉を聞いたグラディウスはニヤっと笑った。

『小生のお小遣いが金貨27枚。エマ義母さんからの支援が32枚。これだけあれば結構な数の槍が買えそうだ』

『わかった。島の留守は小生が守るゆえ、武器の件はお前に一任する』

『快速船を使わせてもらうよ』

 そう言い残すと、息子は小生の渡した革袋を咥えて飛び立った。親バカと言われるかもしれんが、グラディウスだけは敵に回したくないものである。


 ん、待てよ……土産をすべてを渡してしまったら、エマへの土産がなくなってしまうではないか。サンゴの一かけらくらい残しておけばよかった。


 エマにどう言い訳しようかと思いながら港に着くと、彼女は船着き場で待っていた。

 小生を見て安心してくれている彼女に、思わず……こんな言葉をかけていた。

『今戻った。疲れたから膝枕をしてくれ』

 彼女はにっこりと笑うと「喜んで!」と答えてくれた。



 小生がエマと穏やかに暮らしている間、グラディウスはタテガミ公国とツーノッパ王国の間を往復し、武器を右から左へと運んでいった。

 槍は穂先だけを運べば、民が勝手に槍として作り変えてくれるため、グラディウスは1度の輸送で大量の武器を運ぶことができる。


 唯一、グラディウスがどうやってツーノッパ側で武器を販売するかが気掛かりだったが、そこはエマが見事に手を回していた。

 グラディウスは部下の高原3姉妹と共に、エマが懇意としている商会へと出入り、武器を流通させることを目的とした値段で販売。あまりの安さに商会側が値段を釣り上げるという普段の商売とは逆のことが起こるほどだった。


 グラディウスは高速船を用いていたため、部下たちの仕事時間や食費などを大きく抑えることができており、格安でも十分に利益を出せる状況を作り出していたのである。

 商会側が値段を釣り上げたため、グラディウスは大量の富を独占することとなり、2度目には船内に武器を満載した状態で商会側に武器を提供。


 これを繰り返したことにより、住民たちの多くに武器が行き渡り、異変を察知した国王は『謎の密輸船』を討伐するために、海賊ウィリアムに海上の取り締まりを命じた。

 しかしグラディウスは、得意の高速移動でウィリアムの警戒網を楽々と突破。武器を商会側へと届けてみせた。


 間もなくウィリアム海賊団は、ツァクセス島が我らの母港となっていることを突き止めたらしく、船団を率いて向かってきた。

 軍船は王国海軍のモノも含め21隻。船員は2500人ほどで、人魚島戦の10倍ほどの戦力である。


 その情報をもたらしたのも、我が子グラディウスだった。

 彼は快速船から降りると、すぐにそのことを小生に伝えてきた。

『お父さん。何度も偽装していたけど……遂に気づかれちゃったみたいだ』

『お前が4か月もの時間と十分な軍資金を稼いでくれたから、こちらも万全の迎撃態勢を整えることができた』


 そう言うと小生は後ろを見た。

 そこには、迷彩を施された布に覆われた魔導大砲20門が崖や高台の上に陣取り、それを補佐するバリスタが30門ほど隠されて並んでいる。

 更に後ろには、タテガミ王国出身の有翼人の戦士たちが80人ほど勢ぞろいして長弓を持ち、他にも島民から募った義勇兵団が1000人ほど待機している。


 息子のグラディウスは、恐々とした表情のまま笑った。

『半年前は、海賊に占拠されている港だったんだよ……全く別の場所じゃないか!』

『大物ゲストを招くからな。こちらも全力で準備させてもらった』


 渡り鳥のジョニーが飛んでくると、甲高い声を上げた。

 どうやら予定通りに大物ゲストは姿を現してくれたようだ。

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