21.人魚たちからの救援要請
小生ことファルシオンはクシャミをすると、鼻をムズムズと動かしていた。
クシャミと言っても鼻をブルブルと鳴らすという感じなので、普通の人間なら聞き流してしまうかもしれない。
「風邪ですか?」
しかし、王女エマは気が付いたらしく、そっとたてがみを撫でてきた。
『埃を吸い込んだだけだ。気にしないでくれ』
間もなくエマは豆入りの飼い葉を出してくれたので、小生はゆっくりと食事を楽しんだ。嫌いなニンジンが入っていないところもいい。
『ところで選挙の結果はどうだった?』
彼女は選挙結果が記された紙を広げた。そこには漁港の有力者、島一番の牧場主、旅館の主人、船大工の長などなど……島の有力者たちが名を連ねている。
「キャプテンの予想通りの人たちが当選していましたね」
『そうだな』
あとは島民同士でお金を出し合って島の産業を発展させたり、海賊襲来時に備えて軍備の増強を行ってもらえばいい。
飼い葉をだいぶ食べ終えたとき、クルーの青年が走ってきた。
「キャプテン!」
『どうした騒々しいぞ』
漁村育ちの青年は、息を切らしながら言った。
「キャプテンにお客さんが来てるんです。それもマーメイド!」
マーメイドと聞いて小生は思わず身を乗り出していた。
人魚族の噂こそは耳にしていたが実際に会ったことはなく、遠く離れた国の人種というイメージしかない。
『それ、本当?』
息子のグラディウスも起き上がって興味を示していた。
「いま、ご案内します!」
間もなくクルーの青年は、女性を連れて戻ってきた。
彼女は上半身は人間の女性とよく似ていたが、革製の水着のような下着のみを付けており、とさかのような耳を持っている。そして下半身は魚というより蛇の姿に近く、這うように地面を歩いてきた。
『…………』
その光景を見た小生は、意外と素早く動けるんだなと感心していた。人魚族は前を向いたままジョギングできるくらいの速度で、前後左右に動けるように思える。
「お初にお目にかかります。人魚族の戦士……マウラと申します」
『海賊の長ファルシオンだ。何用かな?』
海賊という話をしたとき、戦士マウラは一瞬だけ表情を変えたが、すぐに表情を戻した。
「我が島は今……ブラッドウィリアム一味の攻撃を受けています。表立って戦えとはいいませんが……せめてユニコーンの力で傷ついた仲間だけでも癒やして頂きたいのです」
「ぶ、ブラッドウィリアムだって!?」
隣で話を聞いていた青年クルーは、病人のように真っ青になっていた。
普段から冷静なエマニュエルも、恐々とした表情のまま小生を睨むように見つめてくる。
「ブラッドウィリアム……その悪評は王宮内でもたびたび噂になっていました」
『どのような人物なのだ?』
「元々は、王国の船乗りにすぎませんでしたが……その類稀な実力を買われて船長に抜擢されました」
頷くと、エマは話を続けた。
「それまでは良かったのですが、あるときに海賊掃討の任務を与えると……海賊に転身し、王国軍の船を襲って将校を虐殺したり、財宝を積んだ民間船を争奪したりと数々の暴挙を行っています」
小生は思わず険しい顔をすると、息子のグラディウスが先に質問した。
『ブラッドウィリアムの賞金は?』
「私が最後に見たときには頭目のウィリアムだけ……しかも死んでいる状態でも、王国金貨2000枚ほどでした」
王国金貨は1枚で、貧民や一般労働者の年収に匹敵するほど高価なものである。
男爵と呼ばれる貴族地位の人間でも年収は金貨100枚~250枚ほど。国王自身の年収さえ20000枚と言われているのだから、ウィリアムの首にかけられた賞金がいかに多いかがわかる。
『2000か……小生もそれくらい高額になりたいものだな』
『お父さんの場合、その角だけで500枚の価値はあるよ』
『4分の1か。まだまだ努力が足りんな』
マーメイドのマウラは、困り顔になって言った。
「ユニコーン殿……貴殿の身の安全は、我ら人魚族の戦士団が保証いたします。どうか治療をしてはいただけないでしょうか?」
『自分の身くらいは自分で守る。お前たちは自分の島を守り抜くことだけを考えよ』
小生はすぐにグラディウスとエマを見た。
『エマはこの島がきちんと議会を運営できるように取り計らってくれ。グラディウスはエマを助けながら母港建設の話を進めるように働きかけるように。快速船の管理はレンチ、高原3姉妹……それから漁村の男女9人に一任する』
『じゃあ、お父さんはどうやって行くの?』
『普通の船でもウマくらいは運べるだろう。今回は、ゴメスやガンザスを含む18名を連れて行く』
『愚生も行った方がいいんじゃないかなぁ……人魚族の島が陥落すると、海賊たちに橋頭堡を与えることになるんだよ?』
「足がかりの軍事用語ですね」
『その隙に本丸が落とされては元も子もあるまい。それに島もまだ新しい体制ができたばかりだ。誰かが見守らなければならない』
『まあ、それもそうか……』
小生と人魚族の戦士が少し歩いていくと、息子はぼそりと呟いた。
『人魚と言えばサンゴや真珠……ここの値段を見る限り人魚族の販売ルートはなさそうだから……なんとしても守り抜いて欲しいな』
さすがは息子。
その年で小生と同じことを考えているとは、末恐ろしい牡だと思う。
こうして小生は、ゴメスたち戦士隊のメンバーと共に人魚の島を目指した。
戦士隊には人間が目立つものの半数近くが獣人で構成され、特にオオカミ族の戦士は人間に次いで多かった。
「ここで人魚のねーちゃんたちを守って、有名にならねーとな」
ひとりが言うとゴメスも頷いた。
「ああ、キャプテン自ら戦列に加わってくれるのなら……腕が鳴るってもんだ」
『人魚族との連携を忘れるなよ。相手は悪名高い海賊団だ。下手に前に出過ぎてしまうと集中砲火を浴びる恐れがある』
そう警告すると、ゴメスたちは真顔になって「へ、へい……」とだけ答えた。
ツァクセス島から人魚の島までは、およそ半日の航海で着くことができる。
人魚の島は大きなものだけで3つ。そのほかに細かい岩場などが点在する場所で、全ての面積を合わせてもツァクセス島のおよそ4割ほどだ。
マウラの話では、海賊たちはそのうちの島の一つに上陸し、現地に住むマーメイドたちを攻撃して幼いマーメイドをさらうなど略奪行為を繰り返しているという。
到着した時には、すでに夕方になっていたため船は目立つことなく近づけたが、島の1つは大半が焼け、丸焦げになった森の木々や、息絶えたマーメイドたちの遺体が波打ち際に漂っていた。
ゴメスたちも閉口するなか、小生は目を細めた。
『そこに浮かんでいる彼女はまだ助かる』
ハッとしたゴメスたちは駆け足でマーメイドを連れてくると、小生はすぐに応急処置としてヒールをかけた。
『では、けが人のところに案内してくれ』
「は、はい!」
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