第46話~クラウド編~
クラウドの背を見送りながらピエールが優しく微笑んだ。
「何か見つかれば良いですねぇ。さてと、今日はやること済ませてきましたからね、あなた方のお手伝いをしましょう。そうですねぇ、この辺りのお片付けをしましょうか」
「み……」
ナシュマは各所に散らばった文献に目をやった。調べ始めてから向こう、余り片付けをしていなかったために、足の踏み場がなくなりつつある。いい機会なのでピエールに手伝ってもらい、溜まりに溜まった文献を整理していった。
本を戻しつつ、ついでに書架に溜まった埃を小さな箒ではたく。
「みぅ?」
皮膚の下が泡立った。どこかに図書館と同じく、存在を隠すための魔術が仕掛けられている。
「ナシュマ、どうしました?」
「み!」
そより、と微かな風を感じた。入口とは逆方向、風が入るとは考えられない書架のみが並ぶ方向からだ。
付近を飛んでみれば棚と棚の僅かな隙間から風が入って来ている。床にも引きずったような傷跡。何があるのか気になった。ナシュマはピエールを連れて来て、床の傷を指し示す。
「おやおや。この書架でしょうかねぇ。ナシュマ、一緒に退かしてみましょう」
「みー!」
そして書架を退かしたのだが、後ろには変哲もない薄汚れた白い壁があるだけだ。
「おかしいですねぇ。何かあると思ったのですが」
「…………」
ナシュマはじっと壁を見つめる。書架を退かして、はっきりしたのだ。この壁の奥に何かがある。
躊躇なく壁へ飛び込んだ。案の定、体が壁を擦り抜けて、隠された部屋の存在を明らかにした。ピエールも顔を覗かせ、驚いたように髭をひと撫でする。
「おや、こんなお部屋が隠されているなんて思いもよりませんでしたよ」
暗い部屋。床に白く光る魔法陣。中央には大人の身の丈ほどの白い光が風のように渦巻いていた。
「あの風はなんでしょう。強い魔法の匂いがしますねぇ」
ピエールが目を閉じて息を吸い込んだ。
「ふむ、セントラルクルスの風ではない匂いがします。どこかに空間が繋がっているようですね。転送装置、というところでしょうか。折角なので行ってみましょう」
「みぃっ?」
ナシュマは驚き、ピエールの行く手を阻む。教会の責任者という感覚はあるのかと、疑いたくなるほど無防備な行動だ。
「みぃ」
「大丈夫ですよ。腐っても昔は聖騎士でしたし、それにこういうのは、はっきりと何なのか知りたいのですよ。教会を背負うものとしてね」
止めようとしたナシュマを軽くあしらい、ピエールが風の中へ姿を消す。ナシュマも急いで風に飛び込んだ。
「……!! みぎぎっーー!!」
強く、どこかへ引っ張られるような感覚だ。だがそれもすぐに終わり、突然風から投げ出される。
「みぃぃ……」
体勢を立て直して辺りを見渡した。石造りの部屋の壁は白く光り、窓はないのに明るい。壁自体が発光しているようだ。
床の魔法陣は消え、祭壇には風が音もなく渦巻いている。教会とは似て非なる場所だ。
「いやぁ、凄いですねぇ。でもここはどこなのでしょう?」
「み」
分からないままピエールと小さな部屋を出る。
「みー……」
ナシュマは、新たに現れた部屋に思わず溜め息を漏らした。




