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第47話~クラウド編~

 巨大な部屋の中央に置かれた石像。それは五つの竜の頭を持ち、各々が壁の扉を見つめている。


「み!」


「おや、偶然ですかね」


 彼らが目を奪われたのはドラゴンの造形だ。カズキの持つ杖と余りに酷似していた。その他にも五つの扉の上には風や炎を象った水晶が清廉な光を放っている。出て来た扉はセントラルクルスの紋章だ。


 おそらくここは召喚士の都なのだろう。教会と召喚士に深い繋がりがあったのならば、二つの場所を繋げる空間が存在しても不思議ではない。そして扉の上の紋章が聖獣を表すならば、各扉から聖獣にまつわる場所へ飛べるはずだ。


「ここは果ての地、召喚士の都ですね。ふぅ、あの馬鹿息子、この場所調べ損ねたか報告し忘れましたね……。覚えてなさい」


「み?」


「いえいえ、こちらのお話です。ここのことを早速クラウドに教えてあげましょう。ナシュマ、呼んで来てくれますか?」


 ナシュマは教会に戻り、クラウドの袖を咥えて隠し部屋まで連れていく。


「ナシュマ、ここは一体……」


 言葉を話せない姿では説明もままならないので、クラウドを風の中へ突き飛ばした。見せた方が早い。


 都側へ出た二人を待っていたのはピエール。見知らぬ場所に、思いがけない人物。クラウドはますます混乱を極めたようだ。


「ちょっと待ってくれ……何がなんだか」


「ナシュマに説明して頂くのが早いですね」


 そう言ったピエールが懐から小さな瓶を取り出し、ナシュマに差し出した。透明な瓶の中には乳白色に輝く液体が入っている。月の光のように優しい光だ。


「これをお飲みなさいな。私の見解に間違いなければ人間に戻れるはずです。体に害はないから大丈夫ですよ。私試しましたし」


「みー」


 恐る恐るナシュマは液体を口にした。


 体中がざわりとする。満月の夜、人間に戻れる感覚と同じだった。目を開ければ人間の掌が見える。


「クラウド、俺戻ったのか?」


「ああ。ピエール様、今のは何ですか?」


「今使ったのは、月の光の露です。ジュリアスがこの地を訪れた際に、宝物庫で見かけたという話を聞いてましたので、ナシュマに使えるかと思いましてね、クラウドを待っている間に取りに行きました。持続時間は分からないので、戻っちゃったらごめんなさい」


「そんな物が……」


「助かったー。昨日戻ったばかりから、しばらく戻れないと思ってたぜ」


 ナシュマは腕を上げて体を伸ばす。肺いっぱいに空気を吸い込み、肩の力を抜きながら溜まった空気を吐き出した。小さい体でもいいことはあるが、やはり人間の体が一番だ。


「さて早速ですが、クラウドに説明をしてあげて下さいな。色々ありすぎて混乱しているでしょうからね」


「おっしゃる通り、だいぶ混乱しています」


 ナシュマは、魔法陣を発見した経緯から話し、自分やピエールの見解でここが召喚士の神殿だと付け加える。クラウドが頷きながら聞き入り、最後に大きく息を吐く。


「驚くことばかりだな……だけど、ちょうどいいのかな。覚悟も決まったよ」


「覚悟?」


「開かない扉の話覚えてるか? どうやら、あそこに全ての答えがあるようなんだ。記憶の間と呼ばれるそこには、歴代番人の記憶が収められているらしい。扉を開けるには、召喚士とカズキの杖が必要だ」


「へぇ、後少しで王手って感じだな。とりあえずカズキと合流……って、ひっそり調べてた意味ねぇじゃん」


「残念だけど、そういうことになるね。他に方法がないか探してはいたんだが、一向に見つからなかった」


「そうか。もう時間切れってとこかね」


「ナシュマには色々手伝ってもらったのにすまない」


「なーに気にすんなよ。結果だけ考えれば悪いことばかりでもない。ポジティブに考えようぜ」


 ナシュマは元気づけるようにクラウドの肩を叩いた。


「んじゃ、せっかくだから水の扉使ってカズキのところに行くか? あいつらまだ銀の海にいるぜ。叉胤ざいんの気が乱れてるから一戦交えたのかもな」


「おや、ここからそれが分かるとは。隠された魔法陣を見つけるだけありますねぇ。急いで行っておやりなさいな。クラウドも辛いでしょうが頑張るのですよ」


「はっ」


 ピエールに見送られながら水の扉へ入ると、クラウドに声をかけられる。


「どうした?」


「向こうに着いたら少しだけ時間をくれないか? ピエール様の手前、覚悟が決まったとは言ったんだが……」


「んー辛いよな。でも言わなきゃならないっていう選択は変わらないんだぜ。早いか遅いかだけだ。諦めろって。怒られる時も悲しまれる時もお前と一緒だぜ。一蓮托生!」


 下を向いたクラウドが肩を震わせた。


「お?」


「ははは……何だか平気な気がしてきたよ」


 再び上げたクラウドの表情は、いくばくかすっきりしたように見て取れる。


 二人は頷き合い、青く渦巻く風に身を任せた。


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