第44話~クラウド編~
文字との格闘。時間との勝負。時が、近づく。
「よぅ、頑張ってるかクラウド」
「えっ?」
クラウドは、前触れなく現れたジュリアスに驚かされた。驚きを悟られないように静かに本を閉じる。
「久しぶりだな。どうした?」
「でかい気が増えたから見てこいって親父に言われてなー」
恐らくはナシュマのことだろう。気配の大きさだけで相手を捉えられるとは、さすがはピエールである。
ジュリアスは本を読み続けるナシュマに近づき、指先で頤を上げるとすぐに眉を寄せた。
「チッ。なんだ、ナシュマか」
「邪魔すんな、ジュリアス」
仲がよろしくないのか、二人の間には張り詰めた空気が漂う。もはやクラウドに口出しする隙はない。
「好みだったらキスでもしようかと思ったんだがな。銀髪美人はいねぇのか?」
「いねぇよ。ソギに手を出し過ぎると、いい加減ヨハンに殴られるぜ」
「ふん、銀髪美人は俺の腕で啼かせてみたいからな。ありゃ絶対イイ顔と声で喘ぐ」
いささか過激な発言にクラウドは苦笑いをするしかなかった。ナシュマも溜め息を吐く。
「クラウドも気をつけろよ。冗談じゃなく気に入った奴に対して手早いからよ。カズキとか気をつけないと、言い方悪いが食われるぜ」
「あぁ」
申し訳ないが心の底から納得できてしまった。カズキの恋人として、本能的に警戒をしている。そしてジュリアスが、警戒を決定づけるようなことをさらりと言ってのけた。
「カズキはもう散々食ったぜ。中々イイ調教されてたな。それに、俺があげた杖を使ってるなんて可愛いとこあるぜ」
「……ほぅ?」
クラウドに抑え切れない怒りが込み上げる。気づけば分厚い本の角で頭を殴り、笑顔で謝っていた。
「すまんな、手が滑った」
ジュリアスが頭を抱えながら、恨めしそうにクラウドを睨んでくる。
「お前なー、仮にも聖騎士だろ」
「だから手が滑ったと言っている」
カズキの仕事の客、頭では理解できるが体がついていかない。
「なぁ、ナシュマ。何でクラウドは怒ってる」
「察しろよ。カズキはクラウドの恋人だぜ、そりゃ怒る」
「はぁ? 恋人ねぇ。そんな枷になるもんどうして作るかね」
ジュリアスが呆れたように溜め息を吐きながら肩を竦めた。クラウドはどうにか平常心を保ちながら話題を変える。
「お前がカズキの杖を渡していたとはな。釈然としないが、どこで見つけたんだ?」
「西の果ての朽ちた遺跡だ。それなりにいい細工がされてたから持ってきたんだが、どうにも邪魔でな。ザーニア戻ってカズキを買った時、バレないようにアイツの家に置いてきた」
「…………」
西の果ての街。そこに繋がるのは召喚士一族。どうりでカズキの召喚に反応するはずだ。
「ジュリアス、他に変わったものはなかったか?」
「ぁん? そうだな……」
ジュリアスが指を動かす。自分の足取りを思い出しているようだった。まだ見ぬ召喚士の街。一つでもめぼしい情報が出てくれば良いのだが。
しばらく考えたジュリアスが思い当たったように動きを止める。
「変わったことかは分からんが、開かない扉が中央の神殿にあったぜ。こじ開けようとした形跡はあったが、久しく開けられてはいねぇみたいだったな」
「神殿……」
積み上げられた文献から一冊を引き抜いて机の上に広げる。
「これは?」
「召喚士の街の地図だ。ジュリアスが見た中央の神殿にはここだろう。召喚士の長が詰めていたそうだな。開かない扉か。まるで聖獣の神殿……」
クラウドは首筋に掌を当てた。
「ジュリアス、場所など詳しく教えてくれないか」
召喚士の長のみが契約を許された太陽と月の聖獣。その長が詰めていた神殿の開かない扉。
――引っかかる。
胸の奥で、予感めいた何かがゆらりと過ぎ去った。




