第43話~クラウド編~
柔らかな月の光が窓から差し込む。読んだ文献は数百を超した。教会の創始者は卯龍という光と闇を司る者だったそうだ。光と闇、すなわち太陽と月の聖獣を指し示す。そして、卯龍に数人の召喚士が付き従い、彼を護る召喚士たちが騎士団の基礎となったようだ。
人間界においての召喚士一族は教会から遥か西、今では果ての地と呼ばれる場所に都を築いていたようだ。今のところ卯龍よりも先の召喚士に関する文献は見つからないので、状況によっては現地に足を運ぶ必要があるかもしれない。
ただし、時間が許してくれるのならば。
「……ふぅ」
収穫なく本を閉じて一息ついた時だった。ドサリ、と大きな物が落ちた音と低い呻き声。クラウドは剣を手に近づくと、積み上げられた本の隙間に一人の男が頭を押さえながら蹲っているのを発見した。剥き出しの腕と、胸元が開いた黒い服から覗く筋肉は美しく鍛え上げられている。肌は適度に褐色で、左胸から頬にかけて赤と黒で構成されている棘状の刺青が目を惹いた。
「イテテ……飛んでる時に戻るか普通」
ぶつぶつ言いながら、クラウドの存在に気づいた男が片手を上げる。
「よぉ、クラウド」
「ヨハン……?」
上げた顔や声はヨハンにそっくりだ。だが刺青と左のモノクルがヨハンとは違う。驚きもしたが、クラウドは男の喉元に切っ先を突きつけた。
「何者だ?」
「あー。はじめまして? てか怪しい者じゃないって。小さい姿ではいつも会ってるぜ」
小さい姿。思い当たる人物は一人しかいない。
「ナシュマ、か?」
「おう、正解。人間に戻っていられるのは今夜だけだけど」
「ヨハンにそっくりだ。驚いたよ」
「あいつとは魂を分け合った双子だからな。離れててもお互いのこと何となく分かるんだ。ヨハンは元から傭兵業熟してるが、俺は本業は医者だし、細かいところは違うぜ」
「医者? そのようには見えないが」
「あはは、良く言われるぜ。まぁ、医者のおかげで叉胤と出会えてなー。あいつ路地裏にボロボロになりながら踞ってて、声かけたら心配ないの一点張り。そのまま行こうとするから、ふん縛って無理矢理治療したんだ。精神的に随分ヤラれてたみたいでな、落ち着かせたらわんわん泣いた。で、惚れた」
昔のことをあまりに楽しそうに話すので、こちらの鬱々とした気分もすっきりしてきた。
「お前も、だいぶ疲れてるだろ。無理しないで息抜きしろよ。んで……どうでもいいが剣を収めてくれないか」
「あ? ああ、すまんっ」
クラウドは剣を収める。ナシュマが軽い身のこなしで起き上がり、机の上に腰かけた。
「さーて、人間に戻ってる間に、聖獣との契約のこと詳しく聞かせてもらおうか。ピエールさんに会ってる時も、置いてけぼりで蚊帳の外だったが、もうここまで巻き込んでるんだから部外者扱いすんなよ」
ナシュマの言い分はもっともだ。クラウドは風の里で見たこと聞いたことを全てナシュマに話した。ナシュマも驚いたのだろう口を開けて聞いている。
「はぁ、聖獣と召喚士についての記述を探してくれって、こういうことだったのか……」
「俺は誰も失いたくないし、カズキを契約のことで悩ませたくないんだ」
「全く、一人で格好つけやがって。これからは俺も回避策がないか探すぜ。二人でやれば労力も半分だ。ちっこい体になっても本くらい読めるし、本読むのは好きだから是非やらせてくれ」
「ナシュマ……すまない」
「んー」
頭を下げればナシュマが腕を組んで悩む顔をし、額を指先で突いてきた。
「上から目線で申し訳ないが、こういう時は礼を言うもんだ。ありがとう、ってな」
「…………」
そう言って笑うナシュマが頼もしく見える。自分の心も少し軽くなったような気がして、話をして良かったのかもしれないと思った。
「ありがとう」
「どういたしまして。さて、事の真相も分かったし、気合入れて調べるか。聖獣とか番人とかの代わりになるものがあったらいいけどな。つーか、魔族と人間の混血が五十年サイクルで現れるということ自体が謎だぜ。たまたまなのか、決められたことなのか」
「確かにな。何か糸口が掴めるかもしれない。ナシュマはその件について調べてくれるかい?」
「おう、承知した」
そして数分後にはナシュマが本の虫と化している。クラウドは頼もしい味方を得たと思いながら、手元の本に目を落とした。




