パンタロン伯爵
貴族とは公の生き物である。
繁栄し続ける為には、家と家同士の繋がりを重視し、好みではなくても結婚して子を生し、両家の繁栄を願い続けなければならない。
ガウチョ子爵家の夫人とその娘のキュロットが来たとの知らせを受け、パンタロン卿は息子の所に向かった。
案の定、キュロットがラッパに泣き付いていた。
「聞いてよ、ラッパ! お父様って、酷いのよ! 商人の、それもおじさんと結婚しろって・・・!」
「可哀そうに、キュロット。そんなのとは結婚しなくていいようにしてやるからな」
「本当?」
「ああ、本当だ」
その安請け合いにパンタロン卿は眩暈がしてきて、声をかけた。
「ラッパ、私が紹介した縁談を潰すというのか?」
「え? 父上が・・・?」
「ああ、そうだ。お前に纏わり付く小蠅を追い払う為の縁談だ」
「小蠅って、キュロットに失礼じゃないか!」
「婚約者のいる男に付き纏う小娘を、小蠅以外になんと言う?」
「子爵令嬢だからって、キュロットを虫扱いしないでください!」
「払っても払っても、付き纏ってくるんだぞ。それとも、踏んでしまった馬の糞か?」
「だから――」
「上流階級の不文律の初歩の初歩すらわからないのが、子爵令嬢? 妻や婚約者のいる男に付き纏うことはふしだらな行為だと、貴族御用達の商人の娘なら5歳児でも教えられることだぞ」
「5歳児はないでしょう。5歳児は」
「いいや。貴族御用達の商人は娘がどんな立場になるか、それは神経を尖らせているからな。5歳児でも、異性関係には非常に気を遣っているぞ」
「な・・・!」
貴族御用達の商人の家では、一歩間違えれば、娘が幼児性愛者の貴族の被害を受ける可能性もある為、幼い頃から異性との接触に関しては気を遣っている。
娘は貴族に嫁がせる可能性だってあるのだ。
幼児性愛者の毒牙に掛かって、負債にするわけにはいかない。
それは、貴族も同様なのだが、ラッパ狙いのキュロットにはそんなことは無視していた。
上流階級の紳士として教育されているなら、それが淑女のやることではないと、理解できている。
どんなに親しくても、相手は結婚していなければ、婚約もしていない相手なのだ。
淑女は淑女として扱う。それは上流階級の紳士なら最低限のマナーである。
その代わり、淑女ではないと看做した相手には、自分が決めた基準の対応しかしない。
それが淑女以外の女性への対応の仕方だ。
ラッパはそれがわかっていなかった。
子どもだから許される行為も、淑女と呼ばれる為には許されなくなることに気付いていなかった。
ラッパが言葉を失っている間にパンタロン卿は付いて来ていた従者に言った。
「この娘とその母親を屋敷から叩き出せ!」
と。




