その後
貴族とは公の生き物である。
繁栄し続ける為には、家と家同士の繋がりを重視し、好みではなくても結婚して子を生し、両家の繁栄を願い続けなければならない。
「忙しいのに、来てくれてありがとう。サブリナ嬢」
そう言って、にこやかに笑うのはラッパ・パンタロン。パンタロン伯爵家の長男だ。
しかし、ネオンブルーの色の目の下には濃い隈があり、慣れない生活に頬もこけている。
「婚約者と交流を深める以上に大切なことなど、今はありませんわ。ラッパ様」
淑女教育も終え、嫁ぐまでの準備をするだけのサブリナにとって、婚約者であるラッパとの交流以上に大切なものは何もない。
「そう言ってくれると、助かります」
「ラッパ様」
「――助かる」
言い直したラッパにサブリナは笑みを見せる。
「ラッパ様が婚約者で、ワタクシは幸せ者ですわ」
「お、私も、サブリナ嬢が婚約者で幸せ者です。こんなに綺麗で優しくて親切で可愛らしい女性が婚約者だなんて、人生の運を全部使いきったかもしれません」
「ラッパ様・・・」
ベタ惚れしているとしか思えない台詞にサブリナは頬を染めた。
病気になったラッパは、サブリナに好意を見せるようになった。
病気のせいで多少、髪の色が変わっても、薄い水色の目がネオンブルーの色の目になろうとも。
サブリナは今のラッパが好きだ。
◇◆
「なんでこんなことに・・・」
大好きなキュロットと結婚はできたが、平民として生きることになった男はそうぼやく。
あくせく働く必要はなくとも、家賃や生活費の心配はしなくてもいい生活であろうとも、男は今の生活に不満があった。
住んでいるのは、パンタロン伯爵家の領地にある小さな家。
上流階級の社交生活は許されず、ほぼ飼い殺しの生活である。
ラッパ・パンタロンだと名乗れば、この不自由な生活もなくなり、処分するしかない、とパンタロン卿に告げられている。
それはキュロットも同様だ。
元凶である母親はラッパを見捨てた。
跡継ぎに上流階級として必要な常識を身に付けさせられなかった責任を問われれば、容赦なく、夫の庶子を実の息子として認めて自分の立場を守った。
母方の実家もそうだ。
馬鹿な娘が引き起こした悪評を止めようともしなかった母方の実家も、孫や甥の名を別人が名乗ることを容認した。
ラッパはすべての責任を押し付けられたのである。
勿論、他にも責任を取らされた者はいる。
キュロットの母親――ガウチョ子爵夫人だ。
彼女はキュロットが修道院に行く代わりに修道院に入れられた。
貴族とは公の生き物である。
繁栄し続ける為には、家と家同士の繋がりを重視し、好みではなくても結婚して子を生し、両家の繁栄を願い続けなければならない。
貴族として非常識な場合は、庶子と入れ替えられても、母方だって文句は言えない。
社交界も療養生活で流行に疎くなったラッパ・パンタロンが多少、色味が変わったとしても、母方が異議を唱えないなら、ラッパ・パンタロンとして受け入れる。




