2、もたらされた災厄の正体①
"今すぐ会いたい"という一国の王女対してあまりにも礼を欠く連絡だったにもかかわらず、ティアリスはすぐに対応してくれた。
ティアリスとの待ち合わせはいつも通り彼女の隠れ家で、出迎えてくれたティアリスは"炎華の剣士"の出立ちをしていた。
「いらっしゃい、ステイシー。ナチ様もお久しぶりです」
ドレスじゃないから、カーテシーは勘弁してねと微笑むティアリスを前に、
「おっ、久しぶりに見たぁ。姫さんのその姿」
ナチはいいね! と親指を立てて褒める。
ティアリスが秘密裏に魔法騎士として活動する以上、討伐先で他の魔術師や騎士とエンカウントしたときフォローしてくれる協力者は必要だ。
という理由でナチのことは"炎華の剣士"をプロデュースした際、早々に巻き込んだ。
ステイシーの髪色を変える水魔法の術式とティアリスの破天荒ぶりに大変興味をそそられたナチは以来ずっと協力してくれている。
「ナチ様はすぐに戻るんでしょう? 私のことも連れていって」
と、一緒に行く気満々のティアリス。
「ティア、準備良過ぎじゃない?」
ステイシーが災厄級の出現を知ったのは、ほんの数十分前。ティアリスには会いたい、とだけしか伝えていないのにこの気合いの入りよう。
不思議に思っていると、
「元々私の耳にも災厄級が出現したことは入っていたの」
だからこっそり出ようと思って準備していた、とティアリスは明かす。
「姫さんは相変わらず情報通だねぇ」
いい子飼い持ってるねと褒めるナチに、
「どうかしら? お父様は頭の硬いお母様やルディ兄様と違って、国のためになることなら結構色々容認してくれるし。結局は、お父様の手のひらの上の気がするのよね」
父にはまだまだ全然敵わない、とティアリスは肩をすくめる。
「いやぁ、陛下がこの国治めてる間は安泰だねぇ。せっかく継承権持ってるんだし、姫さんも後継者の座狙ってみたら?」
姫さんが統治者の方が面白そう! とナチはティアリスに一票投じるが、
「いやよ。ルディ兄様と揉めたくないもの。それに、ルディ兄様だって歴代王太子の中では優秀な部類なんだから!」
兄であるカルディスを敬愛しているティアリスは適材適所と首を振る。
「まぁ確かに。ティアは妖精姫としておとなしく微笑んでいるより、裏で暗躍してるほうが向いている気がけど」
ティアリスのお転婆ぶりを学生の頃から知っている身としては、彼女がおとなしく玉座に座っている光景が思い浮かばない。
「なるほど、つまり姫さんは裏ボスポジかぁ」
それはそれで楽しそう、とナチはカラカラと笑った。
「ただまぁ、やる気になってるとこ悪いんだけど。今回の相手は姫さんじゃ、ちょっと部が悪いかな?」
そういったナチは両手を広げ、ドサドサッと机の上に本を出現させる。
その中の1冊を手に取るとパラパラとめくり、
「おっ。あった、あった♪」
と、とあるページで手を止めた。
それは魔物の生態が書かれている研究記録だった。
「水場に生息する蛇龍属に分類される魔物"ミズチ"。その亜種が今回の災厄級だよ」
コレ、とナチが指差す先には蛇のような肢体に四つ足が生えた龍種の姿が描かれていた。
「本来ミズチは大人しくて臆病だ。が、決して弱いわけではない。知能が高く、無駄な争いをしない主義ってだけ」
元々のミズチの特性を説明したナチは、
「目視した感じ5m以上。通常種の5倍ってとこかな」
さらさらと通常種の隣に挿絵を加えた。
「ミズチは元々水を自在に操ることができる魔物だ。が、この亜種は水どころか天候さえ操れるほどの魔力を持ってる。相当いろんなものから巻き上げたんだろうね。生命力ごと」
おかげで山には他の魔物が一切見当たらなかったとナチは遠征中の様子を語る。




