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4、王女さまの憂鬱

 仕切り直すようにコホン、とわざとらしい咳をしたティアリスは、


「お兄様に忠告します。今のお兄様では、ステイシーを振り向かせるなんて絶対にできませんわ」


 神妙な面持ちで言葉を紡ぐ。


「振り向かせるって、そんな関係じゃ……」


「では、つなぎ止めるでもいいです。いずれにせよどうなりたいかの"答え"はもうすでにお兄様の中にあるのでしょう。ですが、今のままでは残念ながらそれは叶いません」


 パンッと扇子を手の平で畳んだティアリスは釘を刺すようにクラヴィルに扇子を向け、はっきりとそう告げる。


「お兄様のことです。大方、婚姻の際に渡されただろうエルネア伯爵家に関する資料は"興味ない"と目を通す事なく突き返し、再度開示を求めたらのらりくらりとお父様に躱されている、といったところでしょうか?」


 状況を的確に見透かす空色の瞳を前にクラヴィルは沈黙し、そして素直に頷く。


「個人的に調べられる範囲では調べてみたが、エルネア伯爵領が王都から遠いことを差し引いても驚くほど表面的な話しか出てこない。書類上義父にあたるエルネア伯爵と俺は面識がないしな」


 ステイシーとの婚姻は王命によるものだった。下されたそれに両家とも否と言えるわけもなく、話し合う必要もなかったので婚姻を結ぶ書類上の手続きもエルネア伯爵家への援助も全て代理人を通して行うことで事足りた。


「良くはないですが、話が進まないので100万歩譲ってそこまでは良しとします。が、伯爵に会った事ないってそんな事あります? 婚儀の時はどうしたのですか?」


 公爵位を持つクラヴィルの婚姻は、結婚の披露目を行い大々的に主だった家門に周知された。それにはクラヴィルを巡る争いに終止符を打たせる目的があり、ハンカチを噛み締め泣き喚く令嬢達の姿は記憶に新しい。

 だが、ティアリスはステイシーのウェディングドレス姿を見ていない。両家の意向で婚儀は関係者のみでささやかに行うと言われ、結婚式に呼ばれなかったからだ。


「……呼んでない」


「はっ?」


「俺の両親はすでに他界してるし、ステイシーが金銭的な事情で王都に両親を呼ぶのは難しいと代理人経由で手紙を寄越したから」


「から?」


「当事者だけで、サインを済ませて終わった」


「…………。」


 空色の瞳を大きく見開き、時を止めたようにティアリスが固まる。


「一応ウェディングドレスは着てたし、司祭はいた」


 恐る恐る、といった感じでクラヴィルが情報を付け足すが。


「つまり、それ以外は全て省略したということですか?」


 "ささやか"にも程がある。きっとそれは司祭が執り行った婚儀の中で一番短いモノだった事だろう。


「バカなんですか? バカなんですね!!」


 バンッと机を叩いたティアリスは、ねぇわ! と盛大に舌打ちする。


「ティアリス。俺が悪いのは充分承知しているが、多分今一国の姫としてはアウトな顔になってるぞ」


 烈火の如く怒り狂うティアリスに、両手を上げ反省の意を示すクラヴィルだが、


「クズいにも程があります。ほんっとーーーに、ハズレもいいとこですわ。こんな見てくれだけの男に騙されて、熱を上げる子たちの気が知れません。うちの国の初婚年齢が上がって出生率が落ちたらどうしてくれるんですか! この顔面兵器がっ!!」


 存在が害悪、と容赦なく罵られる。


「それは俺のせいでは」


「全部お兄様のせいに決まっているでしょうが、この無自覚トラブル製造業がっ!」


 その後も般若の形相をしたティアリスから罵詈雑言を浴びせ続けられたクラヴィルが素直に怒られ続けること数分。


「はぁーーほんっと、ステイシーもコレのどこが良いのか」


 理解に苦しむ、と何度目か分からないため息をティアリスが落としたところで、


「ステイシーが良いと言っていたのか?」


 ステイシーの名に顔を上げたクラヴィルはぱぁぁぁーと表情を明るくする。


「……あからさまに嬉しそうな顔してソレで無自覚なんて。人生50周分くらい苦労して出直してきやがれですわ」


 やってらんねぇわとばかりにそっぽを向いて舌打ちしたティアリスは、


「私の誘いは秒で断ったくせにっ! ステイシーのいけず」


 それはそれは不満気にぼそっとこぼした。

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