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最終話:さようならは言わない

 暗くてじめじめした場所。モヒトツ王国の城の地下牢と同じようなところでもある。そんな場所をエンサとファイン、西方の国の衛兵らが奥へと進んでいた。コトたちは行く意味がないため、あの部屋で待機となる。


「ファイン王女、ケンコはどこにいる?」


「我が国のとある貴族の家で謹慎中ですわ。彼はまだ子ども。王族とはいえ、慈悲深いお父様が憐れんでくれたそうです」


「下手したら、西方の国の脅威ともなりえるかもしれないのに」


 ケンコが大人になったらどうなることやら。エンサにはそんな不安があるようだが、ファインは「何も心配ありません」と気にすることはない、と言う。


「あの子ども王様は何もかもが無気力になっています。何かしらのやる気を見せ始めたら、警戒し、脅威となりえるならば、死があるのみですわ」


「子ども王様って……一応、ケンコは国王としていたわけだし」


「事実ですわ。でも、一国の王としての責務はほとんど全うしていない状態でもありました。彼は軍事のみに興味を示していたのです」


 その話にエンサは目を丸くした。確かに幼い頃は戦争ごっこをして遊んでいたのには見覚えがあったが――。


「ならば、国の政は……」


「すべてこの男が、決定権を握っていたのです」


 そうして、エンサたちがやって来たのは一人のみすぼらしい男が投獄された牢の前。鉄格子に両手で掴み、ここから出たそうにしていた。


「頼むっ! ここから出してくれ! 私は国王様を殺すつもりはなかったのだ!」


 喚くのはその男――セイレイだった。その姿はとても惨めとしか思えない。セイレイはずっと「王子様、王子様」と悲願する。


「お助けください! 私に国王様を殺す心は一切ございません! 私には忠義があります!」


「忠義があるならば、なぜにケンコに政治を教えてやらなかった? 国交関係のことを教えてやらなかった?」


 あまりにも惨めで醜く思うエンサは顔をしかめていた。セイレイの言う言葉がとても胡散臭いとしか考えられなかったからだ。本当に国のことを思うのであれば、指導者を助けるのがその役目だというのに。


「教えてはいました! ただ、ケンコ国王様は軍事にしか興味を持たなかったから……」


「ひどい言い訳ね。でも、あの子ども王様は確かにそうだったわ」


「そうでしょう!? だから、エンサ王子様! どうか、私にご慈悲を……!」


 必死になって、取り繕いを見せるセイレイにエンサは「聞く気にはなれないな」と背を向ける。


「彼の相手をしていると、平行線になるだけのようだ。だが、父上を殺害したのは怨恨ではないと見た。利権の問題だろう」


 そして、この場に用事はもうないと言わんばかりに立ち去ろうとした。どうにか、助けて欲しいと願うセイレイはずっと喚いている。ずっとエンサの名前を叫ぶばかり。そんな彼にうんざりするエンサは「その口を閉じろ」と睨みつける。


「それに、私はもうモヒトツ王国の王子でもない。モヒトツ王国は滅んだのだ。彼の処分は西方の国に任せるつもりだ。ファイン王女、それで構わないだろうか」


「もちろんですわ」


 それから数日後にセイレイはひっそりと処刑されたという話を風の噂でエンサは聞くことになるのだが、それはまた別の話である。


     ◆


 地下牢を後にしたエンサは、今度は西方の国の王と対面をしていた。彼が王に要件があって、謁見を望んだという。そこには何も彼だけではなく、コトたちもいた。その要件は紛れもなく――。


「元モヒトツ王国にメーゼル家という貴族がいるらしいが、その貴族について何か知っていませんか?」


 そう、コトやロゼンヌは家に帰りたいという願いがあった。エンサはそれを叶えてあげようと思っていたのである。魔法の鏡は現在は西方の国が所有していると聞いた。まだ現物は元モヒトツ王国の城の地下に保管されているとか。それならば、後はロゼンヌの家探しである。


 エンサがそう訊ねると、貴族に詳しい西方の国の政官が「現在は元モヒトツ王国の南東部にあるソコカ村にいますよ」と教えてくれた。


「現当主はエレゼント・フレイジア・メーゼルです」


「私の夫の名前ですわ」


 これで帰れると安心するロゼンヌに納得すると、エンサは「感謝します」と頭を下げた。そして、もう一つ。最後のお願いとして――。


「元モヒトツ王国の城に入城できないでしょうか?」


 コトの事情を聴いた西方の国の王は許可を出してくれた。これで彼らのお別れのときが決まる。


     ◆


 城への入城許可をもらったエンサたちはみんなして城の地下へといた。そこには厳重に管理されている魔法の鏡が佇んでいる。それを目の前にして、コトは一つだけ疑問を口にした。


「モヒトツ王国は魔法を使わない国だったはずなのに、どうして魔法の鏡があるんだろう?」


 とても大きな姿鏡を見つめながら誰もが思う。だが、その答えを知る者はいない。モヒトツ王国の王子であるエンサすらも知らない。彼が知っているのは、この鏡のある部屋に無断で入ってはならないと父親から聞かされたとか。


「父上が生きていたならば、その答えを知っていたのかもな」


「そっか」


 その場には沈黙が。ポチやサーカスくんは何かを察したかのようにして、コトに甘えてくる。その理由は明白。これより、彼女は魔法の鏡の向こうにある場所へと向かうから。その場所はきっと、もう彼らに会えないとわかっているから。だとしても、ずっとこの場所にとどまることはできないだろう。だからこそ、彼女は寂しそうに「お別れだね」とエンサの方を見た。


「私、エンサがいなければ、こうして家に帰ることはできなかったと思う」


「私もだ。コトがいなければ、あの箱の中で死んでいた」


「うん……ねえ、エンサはこれからどうするの?」


 その質問にエンサはロゼンヌを瞥見すると「世界を見て回ろうと思う」そう答えた。


「夫人を無事家まで送り届け、みんなとお別れをしたら、私は何もすることがないからな。それならば、様々なこの世を見てみたいと思うのだよ」


「へえ、それはいいねぇ。私も行ってみたかったなぁ」


「俺たちも行きたいな」


 じっとティキンたちがこちらの方を見てくるのだが、そこはダルマさんが「ダメだ」とけん制をしてきた。


「そもそも、俺たち魔物と人間は棲み分けがあるはずだ。これ以上、森の外で自由気ままにしていると、人間どもに追いかけられるぞ。それに、森の生態系がおかしくなっちまう」


「だったら、噛みつけばいいよね」


「わかるー。久しぶりの血はとても美味しかったよ」


 エンサを見つめるメガミの目が怖かったのはここだけの話。その視線に鼻白む彼をどこか擁護するようにして、ダルマさんが「帰るぞ」と制止するのであった。それでも、森の住人たちはブーイングしていたのは言うまでもない。であるが、元々あの見知らぬ森の住人ではないポチは「吾輩はいいか?」と訊ねてきた。


「吾輩も世界とやらを見たくなってきた。それに、ティキンたちと違って、森で生まれたわけでもないしな」


「そうだな。ああ、いいな」


「えー、ポチだけずるいー」


「ガウガウガー」


 ポチだけずるいというブーイング。先ほどよりも強くなってきたものだから、さあどうしたものか。困り果てたエンサはちらり、とダルマさんの方を見た。これにダルマさんは「仕方ねぇな」と大きくため息を吐く。


「おう、お前さんたち。たまには森へ遊びに来いよ」


「い、いいのか? あの森は人間を拒むのでは……?」


「それはあくまでも、あの森の意志だ。だが、森の住人は拒んでいない。抜け道を考えろよ、抜け道を」


 森に遊びに来いと言われたエンサは笑顔で「ああ」と頷いた。


「遊びに行こう。そして、土産話を持ってくるよ」


「楽しみに待ってる」


 でも、とプォークがコトにすり寄ってきた。


「コトとはもう逢えないかもしれないんだよな?」


「うん、多分」


「寂しいよ」


「私もだよ。でも、私、みんなのこと忘れないよ」


 最後ぐらいは笑顔で。そう思っていたコトであっても、目は正直らしい。ぼろぼろと涙がこぼれ落ちていた。これにつられるようにして、みんなが目に涙を溜める。そうしていると、彼女はロゼンヌに抱き着いた。それにポチが鼻でコトを突く。仕舞には、彼女はポチも抱き着く。


「お別れなんて、嫌だよ!」


「コトちゃん……」


「私だけ、みんなと逢えなくなるかもしれないって……悲しいよ」


 ぐすぐすと別れを惜しむ彼女であったが、ここでエンサがすっとあるものを差し出してきた。それは本物の彼の短剣である。彼のその行動にコトは涙を流すのをやめて首を捻った。


「絶対逢えないとは限らないはずだ」


 いつか逢える日は来るはずだ。そう信じ止まないエンサはコトにその短剣を渡す。


「ただ、その鏡の向こう側に行くだけだろう? もしかしたら、私たちが旅の途中でコトが住むところに辿り着くかもしれない」


「……そうかな……?」


「そうだ。世界は広い」


 きっと、逢える。そう言うエンサはロゼンヌとポチごとコトを抱きしめてあげた。優しく背中を叩いてあげる。


「またいつか」


「うん、さようならじゃないね」


 コトは目にたまった涙を拭きとると、彼らにばいばいと手を振った。彼女はその魔法の鏡に吸い込まれていき――。

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