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第四十九話:無駄な足掻きはよせ

 エンサを殴り殺そうとしていたケンコであったが、ここでセイレイが止めに入るとは誰も思わなかった。それだからこそ、ケンコではなく、エンサが「どうして」と唖然するのだが――すぐに憎しみのある目を向ける。ありえない。彼が自分を助けるなんて。ありえない。セイレイが兄を助けようとするなんて。


「邪魔をするなっ!」


 是が非でもエンサを殺す気があるケンコは金属の棒を強引に動かそうとする。だが、セイレイもどこか必死になって「お止めください」と冷静でいた。


「もう我が国が西方の国に勝ち目はありませんよ」


 そして、はっきりと伝えていた。モヒトツ王国が西方の国に勝てない、と。どうすることもない、と。一体、全体どういうことなんだ? エンサの頭はずっと叩かれてばかりだから、思考回路が上手く回らない。あれだろうか、この国が負けるからこれ以上の犠牲を増やすな、と。


「国王様、ここは大人しく西方の国に従いましょう。幸い、モヒトツ王国が西方の国の属国になったとしても、国王様はまだ未成年です。そうそう簡単に処刑などするはずもございません。仮に捕らえられても、人質としているだけです。国と共に滅びるよりまだマシでしょう」


――どの口が言う?


 ロゼンヌの面持ちを見ればわかった。セイレイは何かしらの企みがある、と。おそらくは自分をすべての元凶とする気か。だとしても、この西方の国への侵攻計画にエンサは一切関係ない。何より、ファインがそのことを知っているはずだ。それなのに、自分たちが助かる手立てがあるとでも?


「違いますよ、エンサさん」


 エンサの心を汲み取ったロゼンヌがそう答えた。自分自身を悪人として仕立てるのではない。セイレイがやろうとしていたことは――彼女に教えてもらわなくとも、予想はついている。わかってしまった。だからこそ、とても嫌になる。


 ケンコに今から降伏しても間に合うとほざくセイレイにエンサは「貴様は最低だな」と睨みつけた。


「それが主従関係とやらか。愚かな政治家よ」


「何のことやら」


 少しだけ視線が泳いでいるようだったが、すぐに冷静沈着なセイレイに戻った。彼はまるで証拠がないのによく言うものだ、と言いたげな面持ちである。


「私のどこが最低だとでも? どう考えても、主の危機に意見を添えているだけではないか」


 エンサをもう王族の人間としては見ていないようだった。それならば、好都合である。もしも、彼らが自分のことをまだエンサ王子として見ていたとするのであれば、ためらいが出てしまうから。迷いはなくなった。とっくに末代までの恨みは存在している。ただ、心の引っ掛かりを気にしなくてよくなった分、思う存分に口出しができるのだ。


「ファイン王女を逃がしている時点で、貴様らの命などないと思え」


「どの口が言う? 逃がすにしても、モヒトツ王国と西方の国の国境沿いはとても厳しい砦があることをお忘れか?」


 あの場所を通らなくて、どのようにして西方の国へと逃げるというのだ? 北方も西方も戦火の渦に巻き込まれている時点で、ルートは途絶えているようなもの。南方は峡谷、東方は海だ。どう足掻いても、ファインが使う魔法で逃げることなど――。


 セイレイには確信を持った様子であったが――自分たちには何ら問題ないとは考えていないケンコは「兄上の言う通りだな」とやけくそ気味に金属の棒を手放した。彼は大きなため息を吐くと、近くにあった椅子に座り込み「さっき、兵から連絡を受けた」と話す。


「西方の国が一気にこちらへと攻め込んできた理由に、国境沿いの砦に魔物が現れたそうだ。それも、その場にいる者たちでは対処ができない魔物が。この隙に付け込んで、ファイン王女も西方の国へと逃げたとか」


 まるでこの世の終わりを表すかのように足を投げ出す。彼自身が子どもであるかを思い出させるかのようにして、ケンコは床に届かない足をぶらぶらと揺らして遊び出した。もう何にも興味を示さない。そんな彼にエンサはとどめを刺すかのようにして嘲笑する。


「大臣がケンコに宛てた手紙、今頃は西方の国の王が読み終えている頃だろう」


「て、手紙?」


 明らかな動揺が見えた。間違いない、ケンコを裏で唆していたのはセイレイ。ということは、先代国王の暗殺の首謀者は彼か。


「言っておくが、私は何もしていないぞ? ただ、何かしらに関与はしているという疑いを持っていただけだ。手紙やら書類を盗んだのは誰であるかは知らないがな」


「わ、私だって、何もしてない! 私が国王様暗殺に関与していただなんて……!」


 そのようなことは一切ない。必死に否定するセイレイであったが、ここでケンコが「していた」とすでに諦めムードを漂わせていた。何もかもがやる気のない様子であるようだ。この証言により、セイレイはもっと悪い立場へと変わっていく。


「どうせ、僕も死ぬなら、なるようになれ、だね。大臣も道連れだ。もう西方の国の勝手にさせておきなよ」


 あまつさえ、国の放棄をし出す始末。ここまで無気力になるほどの絶望であると知らしめてはいるようだが――そんな弟を見て、エンサは何かしら言おうとするが、セイレイが分の悪いことをもみ消すかのようにして、彼を金属の棒で殴り始めてきた。この場でエンサを殺そうとする気のようである。再びの痛みが襲い掛かってくる。慌てて、ロゼンヌや拷問官が止めに入ろうとするも、自我を失っているのか。暴れ回るセイレイ。止めようにもこちらに危害が及んでくるものだから、下手に二人の間には入れなかった。


 それでも、と取り押さえられるセイレイ。完全に意識が飛んでしまっているエンサ。椅子に座って遠い目をするケンコ。とてもカオス的な状況の中、地下牢獄へといくつもの足音が聞こえてくるのがわかった。ケンコは「終わるのが早いなぁ」と空笑いをする。こちらへとやって来たのは西方の国の兵士たちであった。


 この場にいた者たちは全員彼らによって捕らわれる。それと同時に、モヒトツ王国は西方の国とその同盟国によって占領されてしまうのだった。

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