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第四十一話:痛みに嘆きながらも、その心は何かが変わる

 ここしばらくの間、ケンコやセイレイの部屋などを調べまくったせいで、何がどこにあるかを把握してしまったロゼンヌ。彼女は部屋に誰もいないことを確認すると、何食わぬ顔でファインの魔法石を手に取った。ファイン曰く、特殊な魔法石らしい。白色に光るそれは綺麗だとも思えた。


「おっと、コトちゃんも動いていることですし、急がなければ」


 地下牢獄へと向かうと、ちょうどエンサが拷問を受けている最中だった。そこに苛立ちの顔を見せているケンコがいるものだから、余計に気分が悪い。ここは何としてでも、急いでファインを西方の国へと送り込まなければ。下手すれば、エンサの命が危ない。であっても、彼に希望の光が見え始めたことぐらいは伝えてあげたい。それで、彼が生きようとする心を強く持ってくれるならば。


 ロゼンヌはそっとエンサの後ろに回って、頬に手を当てた。あまりにもひんやりとするものだから、彼はロゼンヌがいることに気付いてくれた。


「エンサさん、コトちゃんは無事に逃げきれていますし、みんなと一緒にいるようです。みんながあなたを助けるために動いてくれているようですよ」


――とても嬉しい。ありがとう。


 声こそはなかったが、エンサは心の中でお礼を言った。


「私はこれより、ファイン王女様に魔法石をお渡しします。そうすることで、あなたに負担がかかるかもしれませんが、よろしいですか?」


――怖い。でも、彼女たちが無事であるならば。


「ニヤニヤするなっ!」


 どうもエンサに表情が見えていたらしい。ケンコはその顔が不愉快だとして、怒鳴る。兄である彼に対して木の棒で強く叩いた。その様子にロゼンヌは下唇を噛むのだが、エンサは心の中で――。


――私のことは大丈夫だ。早く、彼女を助けてあげてくれ。


――痛いのは嫌だ。怖い。逃げ出したい。


 二つの思いがあった。やせ我慢をしているんだな、と思うロゼンヌはケンコたちに仕返しをしてやりたい気持ちを押さえつける。


「わかりました。すぐに実行いたします」


 その代わり、彼がこの地下牢にいる理由を誰かが知るためとして、ロゼンヌは残ることを決意するのであった。


     ◆


 何やら神妙な面持ちでこちらへと来るロゼンヌにファインは「どうしたの?」と怪訝そうにした。まさか、自分たちの考えがケンコにバレてしまったのか。不安そうにする彼女にロゼンヌは否定した。そうではないらしい。それでは、何なのか。


「ファイン王女様は今からデーグチ村付近の森に向かってください。そこに、コトちゃんという女の子がいます。その子は魔物と一緒にいますが、彼らは私たちの味方です」


「えっ? ま、ま……」


 口には出したいようだが、どこで衛兵に聞かれるかわからないため、喉元まで出かかっていた言葉を飲み込む。ファインが言いたいことは大方ロゼンヌも理解したようである。


「大丈夫です。みんな、いい子です」


「なんで、魔物と……? 森から出てきたっていうの?」


 自分たちの味方だと言われても、ファインの中にある魔物という固定概念は覆ることはそうそう簡単ではないようだ。ロゼンヌの言うことを要約すれば、一人でデーグチ村付近の森へと行き、会話をしたことも、会ったこともない少女と魔物たちと一緒に西方の国へ行けということだ。いくら、なんでも怖いとは思う。コトという少女が魔物を操っていたとしても、こちらに仕向けてくるのではと考えてしまうが――。


――これも、エンサ王子様を助けるためにしなくてはならないこと。


 正直言うと、しばらくの間エンサと共にあの森で生活していたという少女には嫉妬しているのだが。


――問題ないわ、私! あの子には私がエンサ王子様の正妻として相応しいところを見せればいいんだから!


 ロゼンヌから白い色をした魔法石を受け取ると、ファインは蟻サイズまで小さくなった。さて、ここからの大移動はとても難しいものである。そのため、何かを利用しなければ。彼女は自分の牢屋から出ると、見回りの衛兵の姿を見つけた。その衛兵はどの道、自分がいなくなっていることに気付いているはずだから――。


「だ、脱走だ!」


 一瞬の硬直に、ファインは兵士の靴の装飾部分に捕まった。ちょうど、くぼみもあるから、あとは酔わなければ問題ないだろう。なるべく、外に近いところまで来たところで――飛び降りる。体中が痛いのだが、そちらよりも拷問されているエンサの方がずっと痛いに決まっているのだ。彼女は地下牢の方へと目を向けると――。


「エンサ王子様のことを頼むわよ」


 本当は、自分がエンサを地下牢から出して、一緒に西方の国へと向かいたい。だが、あのお子様王様のことを考えると、そんな無謀はできっこないだろう。


――あのガキ大将、自分に歯向かうやつを処刑しまくっているもの。


 そう考えると、保身に走る者たちは自分たちを見逃すわけがない。だからこそ、とファインは城の外へと出ると、人へと移りながら、城下町の外へと向かうのだった。


     ◆


 ファインが脱走した。その報せを受けたケンコは慌てて自分の部屋へと向かった。そこに仕舞っているはずのものを探すのだが、ないではないか。ない、ない、どこにもない。ならば、執務室か? そこにもない。ファインが持っていたあの魔法石がない。


 この怒りをどうぶつけようか。ああ、地下にちょうどいいのがいた。ケンコは再び地下牢獄へと戻り、拷問官から木の棒を奪い――エンサを強く叩く。


「答えろ。あの魔法石はどこだ」


「……私は何も知らない」


「嘘をつくなっ! じゃなきゃ、あの女が逃げられるわけがないんだ!」


 叩く、叩く、何度も、何度も。それでも、エンサは絶対に音を上げようとも思わなかったし、意識がもうろうとしても目を閉じようとはしなかった。耐えろ、時機にコトたちとファインが西方の国へと向かうだろうから。それまでは、どんなにつらくとも耐え抜かねば。


「手引きは誰だ?」


「知らない」


「答えないと両手両足の爪をはがし、その傷口を抉る」


 勝手に拷問器具を手に取ると、ケンコはエンサの爪をはがそうとした。これに拷問官は止めに入ろうとするのだが、彼は目を血走らせながら「お前もこうなりたいか?」と脅してくるものだから、黙るしかなかった。拷問官は小さな声で「申し訳ありませんでした」とエンサに対してか、ケンコに対してなのか謝罪をする。


 拷問官を黙らせたケンコは器具でエンサの爪をはがそうとするが、子ども故の非力さが重なり、彼の苦痛は尋常ではなかった。痛いのに、体があまり動かない。悲痛の叫びをあげようとすれば、その器具で頭を叩いてくる。これがあと十九回も残っている上に、傷を弄られるとなると、もっと気が遠のきそうだった。


 一本目で苦痛によって涙が出てきて、二本目で嗚咽が出てきて、三本目で痛みが増してきて、四本目で本気で失神しそうになる。これ以上はもう嫌だ。最後の抵抗として、暴れようとするエンサに――。


「これ以上、見ていられません」


 ロゼンヌの優しくも冷たい手が彼の頬に一瞬だけ触れた。その途端、ケンコの頬を何かが掠る。唐突なことで、彼は目を丸くしながら周囲を見た。そこには空中に浮かぶ拷問器具が。これはロゼンヌが手にしているのだが、実際はエンサにしか見えない存在のため、他の者にとっては異常現象が起きているという認識である。


「ごめんなさい、エンサさん。本当はあなたの気持ちを尊重したかったのですが、あなたの本音と私の気持ちが強くあったので……」


 本当は、エンサはとても我慢していた。痛いとは言うが、その痛みに負けて情報を口走らないようにしていたのだ。だが、痛覚に限界が来ていた。本気で気絶しそうになっていた。下手したら、無自覚の内にコトたちのことを話していたのかもしれない。だから、彼はどんなにつらくとも意識だけは保ち続けていたのだ。


「でも、安心してください。私たちはあなたを助けるために動きたいから」


 ロゼンヌの言葉に何度救われていることか。ファインの思いに何度嬉しく思ったか。コトの行動に何度安心したか。何も彼女たちだけではない。ポチたちも森の外に来ていると聞いているからこそ――。


「やるなら、やれ」


 恐怖はある。不安はとても大きい。それでも、彼女たちのため。父親の無念を晴らすため。本当の家族を取り戻したいため。エンサは腫れ上がった顔でケンコを睨みつけた。


「どんなに痛めつけようが、私は何も知らないし、話すこともない」


 逆だ。これから自分が拷問を受けるのではない。ケンコ自身が受けるのだ。そして、民衆の前で自白しろ。


――その罪はとても重いものだと気付かせてみせる。

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