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第二十八話:後ろめたくも隠したい話

 起きろ、とティキンたちに鼻で突かれるエンサ。そっと目を開けると、彼らの顔が間近にあるものだから、驚きは隠せない。あまりのびっくりに勢いよく起き上がるのだが、メガミが膝の上に乗っていて立てなかった。


「も、もう朝か?」


 何というか、普段はこんなことをしてくる彼らとは思えないからエンサのたじろぎは隠せていなかった。そんな彼に「ああ」と答えてくれた。


「朝ご飯を食べたら、食料調達班と黒鬼のお引っ越し班に分かれて行動だとよ」


「そうか」


 ティキンから今日の予定を教えてもらったのは嬉しいことであるが――エンサは膝の上に乗るメガミに「退いてくれないか?」と頼んだ。足が痺れて、本気で痛いのだ。しかも、どこか優越感のある表情でいるものだから、実に腹の立つこと。


「というか、私の膝で何をしているんだ?」


「今、誰かの膝の上に乗ることが森の中で流行っているので」


「初耳だ」


「だって、ほら」


 メガミの鼻の先にはロゼンヌに膝枕をしてもらっているコトの姿が。それを羨ましがるようにして、森の住人たちも真似をしていた。確かに、なぜか流行っている。どういうことなんだ、と片眉を上げながら強引にメガミを退かした。立とうとするが、足が痺れて言うこと聞かない。ふらふらで、足の痛みに耐えながらも、コトたちの方へとやって来ると――。


「おはよう、朝から何をしているんだ?」


「おはよ。膝枕だよ。あーあ、ロゼンヌさんの膝枕、氷枕みたいに気持ちいい」


「コトちゃんがどうしてもって言うから」


 どうも、二人は朝の内に仲良くなったようである。これには歓心をするが――ある程度離れた場所ではサーカスくんが木の陰に隠れながらこちらの様子を窺っていた。まだ彼は気絶こそはしなくなったものの、ロゼンヌに苦手意識があるようだ。それでも、一歩だけ前進したと言えよう。ちなみに、エンサが寝ている間、六回ほどの気絶を経て、ここまで進歩したとか。


「本当はね、ロゼンヌさんはサーカスくんの頭を撫でたいって言っていたんだけどねー」


 恐々と撫でることは許したものの、予想以上の冷たさにああして逃げてしまったとか。こればかりは仕方あるまい。徐々に慣れていくとは思うが――。


「いつかは、もふもふもしたいものです」


「まあ、いずれは」


 彼らの距離は多少は縮まっている様子。ティキンたちもロゼンヌに怯えているサーカスくんを慰めているようだし。ではあるが、ポチはどこへ行った? それが気がかりなエンサはコトに訊ねると「ここだ」そう、背後から彼が登場する。


「コトに頼まれて、材料を拠点から持ってきたのだよ」


「わあ、ありがとうポチ」


「よし、お約束の膝枕を頼めるか」


「願ったり叶ったりです。いつでもどうぞ」


 ポチもロゼンヌの膝枕の虜になってしまった模様。いや、確かに昨日のは心地よかった。首筋がぞくぞくするだけで、あとはできたらもう少しだけ――。


――おっと、変なことを考えてしまった。


 朝食作りをするコトの手伝いをすれば、邪な考えは忘れるだろう。そのようにして、エンサは彼女と共に朝食を作るのであった。


     ◆


 本日の行動でエンサは食料調達班にいた。メンバーはポチとロゼンヌ。なぜにこのメンバーであるかと言うと――まず、サーカスくんは幽霊が苦手。そして、そのサーカスくんの通訳者となるのがコト。更に、引越しの手伝いをしたいと申し出たティキンたち。そうともなれば、消去法となるのが通説。


 そう言えば、ポチと行動をするのはある意味で初めてな気がする。エンサはそう思っていたが、どちらかと言うと、このメンバーであるならば、好都合なことがあった。彼はロゼンヌの方を一瞥すると、ポチに「脱出のことについてだ」と話しかけた。


「ポチも知っているだろうが、彼女も森からの脱出を願っている」


「ああ、そう言えばそうだったな」


 周囲にティキンたちもいなければ、サーカスくんもいない。これには都合がいい、とポチはこちらの方を見てきた。もう昨日のことで恨みがましい様子はない感じだった。


「正直な話、夫人はどこの崖から落ちてきたのかと思ったが、違うのだな?」


 流石は自称五百歳。年の功なのか、こちらが言いたいことを理解しているようだった。


「この森の出口はある。それも崖を登ると言った手段ではなく、普通の道があるようだ」


「それは都合がいい。コトが崖を登るなんてマネをさせないだけでも安心だな。だが、厄介案件が四つに増えてしまった以上、説得は厳しいと思うのだが」


 これにはエンサも慎重になるべきだ、と頷いた。傍らにいるロゼンヌも神妙な顔となる。その表情を見て、彼はポチに「だから、頼みがある」と頭を下げてきた。その姿にポチは目を丸くした。


「その出口を知っていたとしても、先に何があるのかは確信していない。もしかしたら、行き止まりかもしれない。本当にモヒトツ王国へとつながる道かもしれない」


「夫人は来た道を覚えていないのか?」


「はい、覚えていません」


 視線がエンサに戻ってきた。彼は口を開いた。


「一度だけ、あの洞窟の奥へと行かせて欲しい」


「お前一人でか?」


 一瞬だけ、ポチの表情が険しく感じた。この疑問にエンサは首を横に振る。


「信用していなければ、私と共に来い。ただ単に出口であるかどうかを確認するだけだ」


 そう言うエンサの目は本気のようであるが、その目の奥にはどこか後ろめたさがあるようだった。


     ◆


 頭数が多い分、サーカスくんの引っ越し作業は意外にも早く終わったコトたち。時間があるならば、と畑の水やりをしているとここでティキンが「なあ」と話しかけてきた。今、彼の頭の上では小鳥たちが踊って楽しそうにしていた。それを見て、メガミとサーカスくんも楽しそうにする。


「そう言えばなんだけど、コトはエンサの目的を知っているか?」


「へ?」


「昨日、王狼が言っていたんだ。だが、雰囲気的に訊けなくてな。おまけに訊きそびれてしまった。だから、コトは知っているかなって」


 下手なことは言えない。ポチに口止めはされている。コトはエンサの目的を知っている。彼は何が望みなのかも。であるが、言えないため――。


「森の出口を探しているんじゃないかな? 出口ないけど」


 ここで自分の父親を暗殺した疑いを晴らすことと、犯人を見つけ出すことは言わない方がいいと思っていた。エンサが淡い期待で森の出口を探していることぐらいならば、ティキンたちには知っているだろう。だが、あのことを話せば、是が非でも、血眼になって出口を探していると思われるから。


 そのように、どこか曖昧に答えたコト。そんな彼女にティキンは少しの間を置くと――。


「ダルマさんが水を早く寄越せって言っているな」


 畑にいるダルマさんの声に反応をするのだった。これに彼女は「そうだね」と優しく水をかけてあげることに。そうしながらも、コトは余計なことを言ってしまったのだろうか、と不安で仕方がなかった。それはエンサたちがこちらへと戻ってくるまで続いた。


 それから数時間して、拠点へと戻ってきたエンサにティキンたちやサーカスくんは駆け寄ってきた。話題は「どれぐらいガッツさんを手に入れてきた?」だった。その言葉にコトは目的のことに触れている様子でも、雰囲気でもないため首を捻る。


「ああ、たくさんだ。コト、夕食の準備をしよう」


「う、うん」


 あの間は何だったのだろうか。別に気にしないでもいいもの? 


――まあ、いっか。


 あまり深く考えても仕方ない。そう考えるコトは夕食の準備に取りかかるのであった。

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