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第二十一話:同胞すらも牙を向ける者

 向かったことがない方角を歩きながら、食材探し兼森の出口探しをするエンサとティキンたち。歩きながら昨日のことを話していた。それは、森の音楽の祭典である。モヒトツ王国がやっていた建国記念パレードで馬たちの足音の地響きがここまで届くほど。それだからこそ、森中はそれが音楽であると認識し、地面やら何やらを叩いたりして楽しんでいたようだ。


「それじゃあ、昨日のはエンサの国が大量に馬を走らせていたというのか?」


 エンサに地響きの真実を教えてもらっていた彼らは驚いたと言わんばかりの表情でこちらを見てきた。どうやら、彼らは森自身が音を出していたと勘違いをしていたようである。しかし、森自身が、という言葉――それは、森もやはり自我を持っているということ。自分たちよそ者を腫れもの扱いしているということなのだろう。そのようにして、エンサが難しそうに考えていると、プォークが「人間のお祭りはどんなことをするんだ?」と訊ねてきた。これにエンサは自分の国で行うお祭りについて軽く説明をし出す。


「そこまで難しいものじゃない。ただ、みんなで騒いで、食べて、飲んで、歌って……それは一日中続くんだ。お祭りによっては数日続くこともある」


「ならば、昨日のお祭りは一日中それだったのか」


「そうだな。去年もそういう形だった。無論、私もお祭りは大好きだ。みんなが楽しめることはいいことだからな」


「じゃあ、俺らは毎日が小さなお祭りだな」


「え?」


「コトが作ったガッツさんを毎日楽しみにしているから」


「ああ、なるほどな」


 納得。であるが、いずれはこの森を去るときは来る。それを口に出せないエンサはなるべく顔色を出さないように努めた。そうしていると、唐突にティキンたちの足が止まった。鳴き声も止まるから、一瞬にして森の中が静かとなるではないか。彼らは前方を睨みつけていた。目先にあるのはただの草木である。そこに何者かが隠れているのか。エンサも彼ら同様に睨みを利かせながら、魔法の斧を構えた。


 しかしながら、しんと静まり返ったその場に再びティキンたちの鳴き声が始まる。すでに警戒を解いており、じっとこちらを見ていた。何だったんだろう、とても気になるエンサはそのことを訊ねてみれば――。


「黒鬼だ」


「何度かこの森にいる魔物だとは聞いたことがあるな」


「そいつは魔法が使えるぞ」


「とても厄介だな」


「あいつ、ガッツさんが大好物だぞ」


「えっ、そうなの!?」


 生食では不味いと評判のガッツさん。それを好んで食するということは、魔法が使えるからだろうか。きちんと火を通していただくガッツさんは悪くはないのだから。


「その黒鬼は今どこへ?」


「さあ? おそらくは自分の住処だとは思うけど……」


「神出鬼没だから、よくわからない」


 突然現れては、突然消える魔物。相当な厄介な存在だと言える。ポチは危険な魔物だと称していた。気配やにおいがすれば、近くを避けていたと言っていたが――。


「どれほどの距離だった?」


「横を素通りしたぐらいだ。俺たちには何も興味がない様子だったぞ」


「それならば、いいが……」


 万が一のこともある。自分の心配もあるが、コトたちの心配もあった。彼女にはポチがいるから、下手に近付くということはしないはずだ。たとえ、襲ってきたとしても彼がどうにかしてくれるはず。戦うよりも、遠くへ逃げることを優先するだろう。


「なあ、ティキンたちが知っている黒鬼の情報はこれだけか?」


「それだけだが、お前――あいつと戦うのか? それだけは止めておけよ。この俺たちでも、あの王狼でさえも歯が立たないやつだから」


「違う、やつから逃げるときの対策を練るだけだ。戦うなんて、とんでもない。黒鬼の種族の悪行は我が国まで届いているからな」


 それはある村の話。ここ数日で魔物が出没する情報が相次いでいた。だが、村の方へと襲うことはなかった。それだからこそ、村人たちは少しだけ恐怖心を味わいながらも、毎日を過ごしていた。あるとき、一人の子どもが魔物に対して、石を投げつけた。それがいけなかったのだ。完全に怒らせたのか、魔物は石を投げた子どもを捕まえて、村人たちの目の前で足から食い始めたのだ。これに彼らは子どもを助けるべく、魔物を倒そうとするが――怒り狂った魔物、黒鬼にどうすることもできずして、誰もいなくなってしまった。黒鬼に目をつけられてしまった村人全員は誰一人として生きてはいない。その村は呪われた村として、地図から抹消されているという。


 そんな恐ろしい魔物なのだ。人間では歯が立たない存在にどう立ち向かえというのだ。そんなことをするよりも、出会わない方法や、出会ってしまったときの逃げ方を考えておくべきなのだ。自分の実力では敵う相手ではない、と理解しているから。


「やつは、誰でも襲うのか?」


「自分の縄張りに入るやつだけみたいだ。だが、あいつの縄張りの範囲はよくわからん。勝手に今日からここが縄張りだって言ったりすることもあるから」


「それはもっと危険じゃないか! 私たちの拠点を縄張りとすることもあるのだろう!?」


「けど、そうなったら退散はするんだろ? 少なくとも、あいつが飽きるまでは」


 自分たちではどうすることもできない相手。プォークの正論にエンサは下唇を噛むだけだった。もしも、拠点を奪われてしまっては、また最初からのやり直しとなる。せっかく、ダルマさんにも手伝ってもらって建てた簡易ハウス。収穫が待ち遠しいと思える畑。すべてを失うことになるのに。


 命が惜しいことには変わりないが――また新たに拠点を作るのは、森を怒らせる要因にもなるだろうし、ここから出ることも困難を極める。かと言って、森の中にある洞窟などを利用するのは他の魔物たちの縄張りもあるから、下手に手出しはできない。


 エンサはこれ以上のことは言えず、何も反応できずに、今日のところは引き上げて拠点の方へと戻るのであった。そのあと、戻ってきたコトたちにも黒鬼の存在のことについて話をした。それにポチは「可能性はあるな」と拠点を奪われる可能性を示唆した。


「ガッツさんが大好きなんだろ? じゃあ、大量に栽培しているあの畑を狙うことは当然あるだろうな。それも近日中に」


「もし、奪われでもしたら……」


「すでに王子もコトも森の怒りには触れているようなものだからな。ならば、吾輩らは戦うしか道は残ってないに等しい。森のどこかへと逃げても、同じことの繰り返しだからな」


「王狼、それはどういうことなんだ? エンサたちは森を怒らせているのか?」


「当然だ。二人は人間だ。本来、この森は人間を拒んでいる。だから、人間がここに来ても死体が増える一方であろう」


「ならば、彼らは運がいいということか」


「運がいい……そうだな、これまでは運が良過ぎただけだ。王子たちに報復するチャンスを森は狙っているだろう」


 ただ、自分たちは森から出ようとしているだけなのに。エンサは歯を食いしばりながら、手に持つ魔法の斧を眺めるばかりである。一方で、コトはそんな彼を不安そうに見つめるのであった。

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