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第十七話:森は彼らを歓迎せずして拒み続ける

 ボーソーゾクたちとも仲良くなったコトは一緒になって、拠点へと戻っていく。そんな彼女たちを少し後ろの方からエンサとポチが歩いていた。エンサは今日、助けに来てくれたことをポチに感謝するのであった。


「ポチからもらった白い笛が吹けない状態だったのに、よく私のピンチに気付いてくれたな。とても感謝しているよ」


「あいつらのにおいが、王子が向かった方角と一緒だったからな。それに、お前が死なれては、コトは自分の家に帰れないかもしれない」


 コトはモヒトツ王国の城の地下にある魔法の鏡を通して、どこからの国からやって来た人物らしい。そんな彼女の家へと帰ることができる方法はその魔法の鏡を利用しないといけないのだ。つまりは、エンサの紹介なしでは城に入ることは不可能。それをポチはわかっていたからこそ「だから助けてやった」と前方を見つめながら言うのであった。


「でなければ、助けない。まあ、王子なら一人でも切り抜けられるとは思っていた。これでも元将軍なのだろう?」


「無茶を言うな。私自身はさほど強くないぞ。ポチたちが助けてくれるまでは劣勢だったのだから」


 自分を過大評価するな、と言うエンサにポチは「ならば」と無茶という言葉の共通点で話題を引っ張り出してきた。


「王子は考えているか? この森から出た後のことを」


「それは前にも言った。私の父を――」


「違う。コトは先ほど無茶ぶりを言ったんだ。あの子はいつでも拠点に来れば、ガッツさんの料理を食べさせると言っていたが……」


 どう考えても難しい話だった。眉根をひそめるエンサに「そうだよ」とポチは苦笑いをする。


「そうなると、こちらが森から出るという考えをやつらは阻止してくるはずだ」


「…………」


「どうにかして、連中を説得させるという手立てが必要になる。コトがこの先森にいなくてもいいように」


「そうだな」


「そもそも、この森は人間が住んでいい森じゃない。この森は人間を拒む森だ」


 だから、人間の死体がある。だから、生きるか死ぬかのサバイバルをさせられている。ポチの言葉にエンサは先ほどの死の際での思いを思い出した。彼は最初から気付いていたとでも言うべきであろう。


「もしも、吾輩とコトが出会わなければあの子は死んでいた。そして、王子も死んでいた」


 ポチは言う。この森で人間の味方となってくれるのは、よそから来た友好的な魔物だけだと。


「もちろん、出会い方も重要だ。ただの鉢合わせだけじゃ、吾輩は食い殺すだけ」


「そう言えば、ポチとコトはどうやって出会ったんだ?」


「眠っていた吾輩の上にコトが馬ごと落ちてきたんだ」


「二人ともそれでよく後遺症もなくいられるな」


「吾輩もそう思う」


 出会いはともかくとして、とポチは楽しそうにおしゃべりをしているコトとボーソーゾクたちに目を向けた。彼らは今度、ガッツさんの料理をどのようにして作るかの話題で夢中になっている。それをいいことに彼は――。


「早く、この森から出られたらいいな」


「ああ」


     ◆


 畑を荒らさない、この拠点にやってくる小動物たちを殺さない。それらを条件にエンサたちはボーソーゾクたちを拠点へと招き入れた。彼らの楽しみはコトが作るガッツさんの料理だけのようで、調理を始めようとする彼女の周りをうろうろとしていた。


「まだか」


「まだだよ」


「まだか」


「まだだね」


「そろそろ食べ頃では?」


「まだ火に通していないよ」


「いつ頃できる?」


「これ作るのに時間がかかるよ」


 とにかく早く食べたい。そんな欲求に駆られているボーソーゾクたちを傍目にエンサは畑の管理をしていた。以外にもガッツさんの成長は早いようだ。植えて十日も経たない内に、よく見るガッツさんの姿をしていたのだから。


 種ですぐに再生さ。


 そんなお言葉をいただきながらも、ダルマさんの方の成長を見れば、まだまだのようだ。ガッツさんとは違って、ゆっくり成長するタイプ――いや、これが本来の正しい植物の育ち方なのだろう。ガッツさんの場合は特殊過ぎることが問題なのである。


 そうして、自分の服に湖の水を含ませて、絞って与えるエンサに「悪かったな」とダルマさんがやってきたではないか。


「どうやら、ピンチだったようで」


「ああ。だが、ポチたちに助けてもらった。本当はダルマさんが早いところ来てくれていたら、よかったと思っている」


「正直だな」


 ダルマさんはそんなお詫びだ、とあるものをくれた。それは袋に入った何かのようである。一体、何が入っているのか。確認してみると、中には小さなダルマさんが大量に入っているではないか。これは種か。


「そう言えばって思って。王子は俺たちがどんな味がするかを知らないはずだ。だから、一度は味見させてあげたいと思ってな。ここ二、三日はずっとこれを産み出すのに集中していたんだ」


「そうだったのか」


「ああ、そこで王子がキレの悪いときに呼び出してくるからよ。あれ、一個を産み出すのに結構時間がかかるんだぜ。鶏が卵を産むようにして」


 これ以上のこの話をするのは勘弁。そう考えるエンサはすぐに話を打ち切るようにして、さして食べたくもないダルマさんの種をコトに渡した。もう畑は植えられる場所がないからだ。それを受け取った彼女は料理の幅が増えると喜んでいたのだが――。


――食べたいとは思えないよな。


 エンサとポチは内心そう思うのであった。だからこそ、「私たちは少しだけいただくとしよう」と木々にいる小動物たちを指差した。


「彼らには畑の見張りをしてもらっているし」


「そうだね。じゃあ、私たちだけは少しだけにしようか」


「ならば、もっと必要なら一週間以上は集中して産み出してみるか」


 それはつまり、一週間後には大量の小さなダルマさん豆がもらえるということである。エンサは要らないなんて言えずに「ありがたい」と少しばかり顔を青ざめるのであった。


――早いところ、この森から出たいな……。

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