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第十五話:優しさという言葉の裏に存在する心(前篇)

 ある程度、新しい家での生活に慣れた頃。畑を荒らす小動物たちはおらず、むしろ彼らは害虫などから守ってくれる存在としてエンサたちは重宝していた。そんな彼らにエンサやコトはきちんとお礼をしたりして過ごす日々を送る。これならば、拠点でずっと見張らなくても問題はなさそうだ。ポチがそう助言をくれた。これを機に彼は――。


「ならば、今日は私も動こうではないか。私も食料を探しながら、森の出口を見つけよう」


 誰かが動けば、それだけ確率が上がる。エンサの言葉にコトとポチは大賛成。今日は少しばかり豪華な夕食になりそうだ。この一言で、外にいた小動物たちも大盛り上がり。早速、彼らは出かける準備をした。エンサは万が一を考えて、魔法の斧を手にする。


「そうだ、コト。いつも包丁代わりに使っているあの短剣を持っていくといい」


「うん、ありがとう。でも、いつも持っていっているよ」


 実は言われるより前から持っていっているコト。いくらポチが強くとも、自分の身は自分で守ることができないと、この森で生きていけないに等しい。これは用心のためだ、とポチに言われたらしい。


「ならば、問題ないな。だが、コトたちはこれまでに遭遇した危険なやつというのはいるのか?」


 今回は自分も出るからなのだろう。どこか不安そうにするエンサにコトは頷いた。


「いるよ、いっぱい。危険だから、いつもポチの鼻とかで回避はしているよ」


「それはどんなやつだ? 是非とも知っておきたい」


 恐ろしいな、と言わんばかりに斧を握りしめるエンサ。そんな様子の彼にポチは「危険なやつは大抵が血肉を欲している連中だ」と少しばかりからかってくるではないか。


「そうだな、王子が今もっとも気をつけなければならないのは黒鬼にエメラルド・フォックスの連中ぐらいか」


 その二つの種をエンサは知っていた。どちらも基本的に森や山に住まう種族であり、肉であるならば何でも欲する者たち。そして、何よりエメラルド・フォックスは集団で行動するというならもっと危険!


「私はその緑色の狐さんのことをボーソーゾクって呼んでいるよ」


 どうやら、コトはエメラルド・フォックスのことをボーソーゾクと呼んでいるらしい。その理由は鳴き声がうるさいからとか。動く度に、その場に待機をする度に常時鳴きっぱなしだからだそうだ。


「ずっと鳴いているなら、スタミナなさそうじゃない?」


「どうだろうか。だが、ここで怖気ついていても仕方あるまい。私なら、一人でも大丈夫だと思う。本当に怖いときはダルマさんに助けてもらうつもりだから」


 まさかの人頼み。であっても、エンサは自分自身の力量を理解している人物であることは窺える。だからこそ、ポチはもうからかったりして何も言わなかった。彼を失うということは、コトにとっても重要なことになりかねないのだから。エンサは知っているはずだ。彼女が家に帰る手段として、魔法の鏡のもとへと行くためには彼に案内をしてもらわなければならないことを。


 ポチは一抹の不安が拭えない――と言うか、下手に煽らない方がよかったか。そう少しだけ反省しながらも、エンサにあるものを渡してきた。それは小さな白い笛のようなものである。これを手にした彼は片眉を上げた。


「これはなんだ? 笛か?」


「吾輩の乳歯からできているものだ。それをダルマさんに笛として加工してもらった」


「これを私にか?」


 ちらり、とコトを見るエンサにポチは「ああ」と頷いた。


「コトには予備の分まで渡しているからな。それは予備の予備分だ」


「そこまでして、彼女が失くすことはないと思うが」


「失くすだけが手元にないとは限らない。特にコトの場合はな。悪いが、王子には一つしか渡せない」


「いや、それでもありがたい。危機的状況などには吹いて知らせよう」


「わかった。それで多分は音が聞こえたら来れると思うから」


「確定的ではないのが怖いのだが」


「問題はないはずだ。問題は。強いて言うならば、吾輩がいる位置と王子が吹く位置の問題だけだ」


「それは大丈夫なのか?」


「多分だ」


 何とも使い勝手の悪そうな白い笛だこと。これを手にできたのは嬉しい話ではあるのだが、効果としてはあまりよろしくなさそうだ。エンサは愁眉を開きながらも、その笛をポケットに仕舞い、出かけるのであった。


     ◆


 今日もガッツさんがご飯だな。そう思いながらも、土の中に埋まっているガッツさんを掘り出すコトにポチが――。


「コトが無事に家に戻れたならば、どうしたいのだ?」


 そう訊いてきた。しばらくの無言状態での食料調達だったからなのか、唐突の質問に彼女は「うーん」と苦笑い。


「まずは色んな人から事情聴取とかされそうかな。しばらくはゆっくりできないと思う」


「それは大変だ。だが、それだけコトを心配してくれている人がいるということだな」


「そうかもね」


 その言葉に少しだけ嬉しそうにするコト。そんな彼女にポチは甘えたいのか、頭を撫でて欲しそうに、こちらへと近付いてきた。それに彼女は優しく撫でてあげた。


「ポチは森から出たらどうするの?」


「吾輩も森から出ることは前提なのか」


「ここで暮らすなら、話は別だけど」


「……わからぬな」


 実のところ、この森に住み着いてから三百年も経っていた。元々の故郷である北の山よりも長いことここにいることになる。だからなのだろう。森から出るという選択肢が最初からないように思える。自分はどうしたいのか。何をしたいのか。とりあえず、今はコトに頭を撫でてもらいたい。それだけだった。


 そうして、ポチがコトに甘えていると、森の中で少しだけ風が吹いた。その風に乗ってきたにおいは――すぐに周囲を警戒し出す。何かしらの気配はないようだが?


 ポチはにおいがしてきた方向へと向かってみた。地面のにおいを嗅いでみる。


「ポチ?」


 彼の行動にコトは短剣を取り出して、周囲を見渡した。誰もいない。自分たちだけしかいないように見える。ややあって、ポチは「連中のにおいがする」と呟いた。


「しかも、三匹」


「……まさか、ボーソーゾク?」


「そうだ」


 エメラルド・フォックス改め、ボーソーゾクらはどこにいるのだろうか。ポチが周辺のにおいを探っていると、彼らのにおいは自分たちとは違う方角にあるとわかった。その違う方角とは――どうもあやしい。


「王子が危ないかもしれない」


 エンサが向かった方向であることを。


     ◆


 エンサは常々思う。ポチは優しいのやら、厳しいのやら。彼は悩ましい表情で森の中を散策していた。一応は、心配しているのかこうして自分を呼び出す笛を渡してきたのだ。優しいとは思いたい。だが、結構辛辣なところがあるから、何とも言えないものだ。そう考えるエンサが苦笑いをしていると――。


 どこからともなく、獣の鳴き声が聞こえてきた。その音は徐々にこちらへと近付いてきているようだった。まさか、助言にあった危険な魔物たちか! 慌てたようにして、エンサは魔法の斧を構えた。そう気構えをしていると「気配を探るのが下手くそだな」背後から声が聞こえてきた。それと同時に殺気が。慌てて、魔法の斧で後方を防御してみれば――緑色の毛並みをしたポチより一回りは小柄な狐が噛みついてきたではないか!


「ぐっ!?」


 危ない。もしも、魔法の斧で防御をしていなければ、完全にやられているところだった。どうにかして、そいつの牙を捌く。エンサは姿を現した緑色の毛並みの狐に「一匹ではないな?」と横目で周囲を探る。植物の色に紛れ込んでいて、わかりづらいが、殺気だけならわからなくもない。


 自分の周りにはあと二匹ほどの気配。だが、それらを自ら魔法の斧のみでどうにかして勝利することなんて不可能に近かった。エンサは魔法が使えない。武術も一般人より少し強い程度(ではあると思う)。すぐさま勝てないと理解していたからこそ、ポチからもらった笛を取り出そうにも――。


「あっ!」


 笛を落としていた。それも、緑色の狐――エメラルド・フォックスの足元に。


「久々の人間の肉だな」


 舌舐めずりをする三匹の敵。この状況、エンサに逆転はあるのだろうか。

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