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第十四話:他者を理解するには対談が必要不可欠

 すべてが初めて見るような存在。エンサは耕した土から顔を覗かせている芽らしきものをじっと見つめていた。二日ほど前にガッツさんとダルマさんの種を植えたのだ。水は近くに湖があるとのことで、鍋をじょうろ代わりにして育てていた。そうして、土から生えてきたのは――。


 私たちよりも、この子たちに水をやりな。


 普段は逆さまになって植わっているはずのガッツさんが珍しく顔だけ出して、横にある赤色の芽に対してそう言っていた。


「…………」


 エンサは鍋を手にした状態で戸惑いつつも、ダルマさんたちに水を与えた。そうしていると、地面からありがとう、と可愛らしい声が聞こえてくるのであった。種は小さいながらもあんなにいかつい顔をしていたというのに。


 エンサが主にダルマさんたちに水を与えていると――。


「今日は一日そこにいた方がいいかもな」


 畑の柵の向こう側からポチがそう言ってきた。それはどういう意味なのかと首を捻った。彼は「上を見ろ」と促してくる。言われた通りに見上げてみれば、そこには木の枝に佇む鳥などの小動物たちがたくさんいた。何やら、こちらを窺っているようである。


「畑のものが狙いか」


 それも、地面に浅く植わっているダルマさんたちが目的で。これはポチの言う通りだった。それならば、ここは自分が死守しなければ。コトは今、湖の方へと行っている。すぐには戻ってくるだろうが、今日は食材を探しに行かなければならないだろう。あまり備蓄がなかったはずだから。


 エンサは任せろ、と言わんばかりに全体が見渡せる位置に移動すると、右手に鍋を。左手に魔法の斧を持ちながら、上からの侵入者たちを睨みつけるのであった。


「これは私たちの食料だ。そうそう簡単には渡さないぞ」


 なんて意気込んではみたものの、意外にも強かった小動物たち。鳥類はこっちの頭を突いてくるではないか。そのため、鍋に頭を被せて防御をしても、それでも突いてくるから音がうるさい。嫌になる。他の小動物たちは噛みついては来ないけれども、嫌がらせ全開でフンとか石をぶつけてくるし。完全な狙いできているのだ。頭いいな、と思っていても、「止めろ」という言葉は通じないだろう。


 どうにかならないものか、とポチの方を見れば――こっちを見てせせら笑っていた。笑っていないで、助けてくれと叫んでみた。もっと笑われた。すごいバカにされた気分。腸が煮えくり返りそうだ。いくら生態系を壊さないためにも、彼らに危害を加えないと決めたとしても、エンサだって堪忍袋の緒が切れるのは当たり前。頭に被せていた鍋を小動物たちに――ではなく、笑い転げるポチに向かって投げつけるのであった。


 軽快な音が一直線にポチから飛び出る。思わず「何をするんだ!」と歯を立てているようだが――「じゃあ、助けろよ!」


「なんだと!? そんな態度で吾輩が助けるとでも思ったか!?」


「思っていないが、助けろ! コトに言いつけてやる!」


「あーあ、それじゃあ、吾輩も王子が鍋をぶつけてきたってチクってやろー!」


「じゃあ、私はポチが見て見ぬふりをしたって言ってやろー!」


 言い争う一人と一匹。そんな彼らを遠くから何をしているのか、と困惑するコト。彼女は眉根をひそめていた。コトの目に映るのは、なんかエンサが大変な目にあっているというのに、ポチは外からやいのやいのと野次を飛ばしているようだ。あまりにもひどい状況だからこそ――。


「ポチ!」


 ポチの背後から近付いて怒鳴った。それに「キャイン!」とびっくりした犬のような鳴き声をして縮こまる。まさか、後ろにコトがいるとは思わなかったから。


「何しているの! 鳥さんたちにしちゃダメってお話したの!?」


「す、すみませんでした……」


 ポチは一度小さくなると、エンサに向かって一吠えをした。すると、どうだろうか。あれだけ攻撃を仕向けてきた小動物たちは一瞬にして止めたのだ。鳥たちは柵の上に止まり、他の者たちは地面に視線を向けているではないか。そして、ポチがもう一吠えをすると、彼らは柵の外に出た。


「コト、助かった……」


「王子、大丈夫?」


「ああ、私は問題ないし、畑も問題はないだろう」


 突かれたり、石を投げられて傷ついたものはその内治るはず。だが、フンを投げつけられたことに関するメンタルは下がる一方。元に戻るのに時間はかかるだろう。しかし、その心身の傷よりも気になることが――。


「ポチは彼らを言い聞かせることができるのか?」


「…………」


 何も言わないということは、肯定しているということと同じである。そう見込んだエンサは「見て見ぬふりは止めて欲しいのだが」と少しだけ悲しそうな顔をした。


「ポチがそのような特技があるとは思わなかったのだ」


「……………」


 だが、ポチは謝ることなく、どこかへと逃げるようにして行こうとするも――。


「待ちなさいっ!」


 コトがそこら辺に落ちていた鍋でポチに向かって投げつけるのであった。彼女はコントロールがそこそこいいようで、それは頭に命中。すぐに、しおらしく戻ってきた。


「ちゃんと謝りなさい」


「さーせんした」


「ちゃんと謝りなさいっ!」


「……本当、すみませんでした」


「ああ、私は構わない……だが、そんな特技があるとは本当に驚きだ」


 エンサはきちんと謝罪をしてくれるならば、気にしないようだ。彼は柵の外からこちらの様子を窺っている小動物たちを見た。


「話を聞くポチの友人ならば、これらは分けてあげないとな。ただし、ちゃんと成長して収穫もした後だ」


 それぐらいならば、彼らにあげてやらないことはない。なんとエンサは心優しい王子だったのだ。いや、これまでの性格からして嫌味な性格の持ち主ではないことはわかっていた。


 その言葉にコトは「教えてあげて」とポチに促した。彼は渋々と一吠えすると、小さな仲間たちは歓喜をした。よほど嬉しかったのだろう。周囲を駆け回ったり、飛び回ったりと大忙し。その様子を見て、コトは「いいの?」と少しばかり心配はあるようだ。


「食料が減っちゃうだろうけど」


「構わないさ。もしかしたならば、彼らなら森の抜け道があると知っているかもしれないからな」


「ああ、鳥さんとかならそうだね」


「そうだろう? それに、最初から言い聞かせておけば、畑を荒らされる心配はないはずだしな」


「なるほど、王子ってこんなことは考えなさそうなのに」


「……それ、私をバカにしていないか?」


「しているぞ」


 ぼそり、とお返しに。ポチの呟きはきっちりとエンサの耳にも届きましたとも。ええ、それで第二のケンカへと発展して――今度は双方ともコトより鍋で仲良く頭を叩かれましたとも。


 それでもケンカなんて絶対にしないとは思わない彼らであることも、コトはよく知っているのであった。

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