第十二話:誰かのおかげで未来への道標が在る
一人で造ったわけではない。そう口にするエンサは「感謝する、ダルマさん」と自分たちが建てた簡易ハウスを見上げるのであった。家というよりも、小屋が正しいかもしれないが、立派なものには違いないだろう。彼はみんなで造り上げたということを誇らしく思うのだった。
「ダルマさんがいなければ、私たちはもっと時間がかかっていただろう」
「だな。でも、俺の方こそ感謝するよ。いい暇潰しにもなったし。まあ、また何かあったら呼んでくれよ。呼んだら、大体は来れる」
「来れないときは、いかなるときだろうか」
「トイレぐらいだ」
「では、どのように呼べばいいのだ?」
呼ぶと言っても、様々な召喚法があるはずだ。そう言うエンサにコトが「こうじゃない?」と割って入ってくる。
「ダルマさーん! って呼べば、来るんでしょ?」
よくわからないから、ダルマさんの耳元で叫んでみた。だが、あまりの大声に彼は耳栓をしてしまう。
「いきなり大声出すなよ。でも、そんな感じで呼べば、来れるときは来るから」
それじゃあ、とダルマさんはエンサたちに手を振りながら、その場から消えるのであった。この消え方に2人は驚きを隠せずに目を丸くする。その一方で、ポチは拠点となる簡易ハウスをまじまじと見つめながら「まあまあの出来だな」と評価した。
「そして、いかにも人間らしい。屋根付き、壁有りは当然の家にないといけないほどの軟弱な生き物」
建物に関してよりも、人間そのものを嘆く。ポチがそのようなことを言うのだが、コトは一切気にすることもなく荷物をすべて家の中へと運び入れているようだった。これにエンサが「手伝う」と手を貸すことに。二人はポチの相手をする暇よりも、自分たちがするべきことを理解しているようである。
二人が家の中へと入っていくのを、後から追いかけるようにして入るポチ。彼らは家の中のものを改めて嬉しそうに眺めているようだった。
「あっ、ベッドも作ってもらったんだ」
「ああ。ダルマさんってかなり器用なんだな。私はこの魔法の斧でずっと木を伐っていてばかりだったから、ダルマさんに任せっぱなしという後ろめたさもあるんだが……」
「大丈夫だよ。じゃあ、このベッドにある布は見覚えがあるような、ないような」
「あるはずだろう? 私が箱の中へと入れられたときに被せられた布だからな」
「思い出した、思い出した。って、使うんだ」
「もちろんだ。今見ても、忌々しいと思うが、使えるものは何でも使わないと。ほら、このテーブルだって、私が入っていた箱だぞ」
「わあ、便利そう。ねえ、ここに鍋とか置いてもいいかな?」
「構わないぞ。そのためのテーブルだからな。ただ、調理は外でしてくれよ」
「そうだね」
エンサもコトもポチなんてそっちのけ。彼らは和気あいあいと楽しそうに簡易ハウスに注目していた。そんな中、会話に入りたそうにするポチはあることに気付いた。ベッドが二つしかないのだ。ということは、彼らは自分を外で寝かせるつもりなのでは?
まさかとは思いたかった。羨ましいなんて、今さら言えやしない。ポチはその場に前足で頭を隠すようにしていた。強がりなんて、やめておけばよかった。
――吾輩だって、本当は雨風が凌げる場所がいい!
何度も繰り返しのようにして、発言してきたものは取り消せそうにない。自身の虚言に後悔しながらも、ポチは残念そうに家の外へと出ようとするが――。
「あっ、ポチ」
そういえば、という感覚でコトがポチを呼びつけた。これに淡い期待を寄せる。もしかして? 本当は?
「あのね、ポチの寝床なんだけど」
「そ、そんなもの、吾輩には必要ない」
それでも強がりを見せるポチ。全く素直じゃないんだから。そういう彼に手招きをするコトは外へと出てしまった。彼女のその行動に、期待はすぐに崩れ去る。しょんぼりと首を下げながら「外か」とトーンの低い声でそう訊いた。
「吾輩、自分でも言っていたし」
「え? 何か言った? まあ、いいか。ほら、ポチ」
これを見て、とコトが指差した方向を見てみれば――ポチと書かれた看板をぶら下げたどこか大きめサイズの犬小屋がそこにあるではないか。
「ダルマさんにお願いして作ってもらったの。ポチは外でいいって言うけど、やっぱりね」
「嬉しいのやら、悲しいのやら」
期待していた半面、衝撃度が強いこの家。これでも狼ではあるのに、犬扱いだなんて。それに気付くエンサは「犬」とぼそり呟くのだった。もちろん、ポチはイヌ科の魔物だからこそ、耳もいい。小声もきちんと聞こえます。
「うるさいっ!」
確かに自分が本心で望んだ屋根付き壁有りの家。であるが、コトが自分のことをどのような扱いにしているのか、訊くに訊けないのであった。
◆
その日の夜。献立はガッツさんをマッシュポテトみたいにして潰して焼いた何かと果物であった。包丁代わりの短剣もあるため、これまで丸かじりだった果実はきちんと刃を入れられて、綺麗な色とりどりの食卓へと変貌。ただ、椅子がないため、立食となるのだが――。
「うん、美味しい」
コトも短期間で炎魔法が上達したようである。数日前の生臭い肉とは段違い。普通に美味しいものだから、びっくり。
こんがり焼けて、私も嬉しさ倍増さ。
だが、美味しい半面、ガッツさんの声は相変わらずエンサの耳を通ってくるのだが。
「本当?」
美味しいと言われて、コトは嬉しそうにしていた。もちろん、エンサのこの感想は嘘ではない。本音である。
「ああ、こんな場所で遭難して、こんな暖かな食事にありつけるのはとてもありがたいことだ。二人やダルマさんの出会いに感謝しなければ」
「うん、私もだよ。王子と出会わなければ、こうして家を造ることもなかったし、魔法も使えることがなかったよ」
「あとは、徐々に食料の備蓄をしていき、出口を探す準備に取り掛かるだけだな」
そうとなれば、畑が必要になってくるが――この拠点周辺にコトは一切畑を耕してもいなかったようだ。一応、彼女たちは畑を耕す前に、種を探してはいたらしい。だが、あまり見つからずして、まだ畑が完成していないようであった。
これにエンサは責める気がなかった。仕方ない、と寛容な心で「耕すことは私に任せろ」と言う。
「魔法の斧があれば、耕すということができるはずだ。あれだろう? 土を掘り起こせばいいというやつ」
「土は柔らかくしとけよ」
「もちろんだとも」
そうとなれば、畑にはどんなものを植えたらばいいのか。この森には見たことのある野菜が自生しているのは見られない。だからと言って、果樹物は年単位の成長のため、時間がかかり過ぎる。何かしら、いい食材はないものか。そう首を傾げるエンサにコトは――。
「ガッツさんは外せないよね」
そう言う。エンサがこれだけは言わないでおこうと思っていたのに、と落胆した。だが、いくら彼がガッツさんが苦手であっても、必要的存在というものはとても大きかった。
私にはたんぱく質、コラーゲンがたっぷり含まれているぞ。
なんて自慢気なガッツさん。そうだ、ビタミンなどは果物から採っていたとしても、たんぱく質となると、狩りをして小動物を狩るぐらい――ではあるが、あまりそちらに頼り過ぎるとこの森の生態系を壊しかねないだろう。それはコトもポチも理解しているようで、ガッツさんを頼るという結論に至るのであった。
「あとは……何かいいのがないか、明日見てこようと思う」
「なるほど。ならば、二手だな。私は畑の整地、コトとポチは種探しというところか」
「そうだね。でも、ガッツさんを見かけたら、植えてくれる? そこら中に自生しているからさ」
一瞬の間があったのだが、エンサは「わかった」と渋々了承した。正直言って、乗り気ではない彼に夜天罰が下ることを知らない。その日、エンサはガッツさんに埋もれる夢を見たとか。ずっとガッツさんがおしゃべりしてくるから、恐怖に怯えていたとか。だが、実際には、犬小屋で寝なくてはならないポチのちょっとした腹いせで、体の上に乗ってきたことが原因である――ということを、エンサは知らないのであった。




