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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第3章 妨害し続ける身分
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第97話 暗い中の出来事

 早く帰ってこないかな。 早く帰ってこないかな。 早く帰ってこないかな。 早く帰ってこないかな。


 夜には帰るって言われたからもう少しだけ待ってみよう。 周りが暗くなってくると何だか背中がぞわぞわするから嫌いだけど、あの人が帰ってくるまでもう少しだけ待ってみよう。




 まだ帰ってこない。 まだ帰ってこない。 まだ帰ってこない。 まだ帰ってこない。


 せっかく似顔絵を沢山描いたのだから見せたいのに、まだ帰ってこない。上手くかけたのできっと見せれば頭を撫でてくれるだろう。だから本当はもっと描きたかったけど、もう暗いせいで手元が見えなくなってしまった。


 昔一人だった時、自分は何をしていたのだろうか。こんなに退屈だっただろうか。


 アリスは数枚の似顔絵が描かれた紙を眺めて、くすくすと笑った。


 ーーああ、早く帰って来てくれないかな
















 ーーーーーーーーーーーーーー

 ニコラスは厨房の中にいる黒猫の少女の様子を見る。美しいや可愛いというよりも、愛らしいという言葉がなによりも似合うような印象だった。彼女は、くつくつと煮込まれた鍋の隣に座ってりんごの皮をスルスルとむいており、白い身の部分と赤い皮を使って可愛い猫の形に仕上げていた。少女の指は絆創膏だらけで、周りには沢山もの小分けしたりんごが並んでいるため相当の数の皮むきをしていたのだとわかる。だが不思議なのが、少女がどこか楽しそうだということだ。表情は乏しいうえに冷たい印象を感じさせ、ニコラスが近くに寄ってきても反応すらしなかった。しかしりんごを見つめている彼女の目はどことなく温かみが感じられた。


「そのりんご、貰っていいかな」


 ニコラスはそんな少女がどこか可笑しく、くすりと笑いりんごが盛り付けてある皿に手を伸ばした。だが少女が皿を引っ込めたためニコラスの手は空をきる。


「そっちはだめ」


「え?」


「これなら、いい」


 驚くニコラスに、少女は違う皿のりんごを渡す。そのりんごの形は少しだけ不格好で、所々に皮が残っていた。食べようとすれば遮られ、尚且つ失敗作を押し付けられたのだ。異性にこんな扱いを受けたことが無かったニコラスは自然と笑みが溢れた。


「ははっ、君は面白いな」



 そこで会話は終わり、食堂に静寂が訪れる。だが居心地は悪くなかった。時間の流れをゆっくりに感じられ自分と少女の存在をぼんやりと感じられた。


 他の女性のように媚びるわけでも、甘ったるい声をかけてくるわけでもない。嫌われることは勿論あった。だが好きでも嫌いでもなく、興味すら持たれなかったのは今まで初めてだ。話しかけられて少し困っているような少女が、ニコラスにとってはたまらなく面白かった。


「なんでそんなにりんごばっかり?」


「………なんとなく」


 ニコラスの当然の疑問に答える少女は、何かを思い浮かべたのか少しだけ俯き口元を緩めながら答えた。その表情にニコラスは少しだけ心の中に何かの揺らぎを覚え、自分の胸を見つめた。


(何だ今の、気のせいか?)


 ニコラスは自分の心が最近不安定な事が多いためそのせいだと思った。すると今日の事を思い出してしまい、少女から貰ったりんごを乱暴に口の中へと突っ込んだ。そしてりんごを咀嚼して飲み込んで何も無くなった事を確認すると、ニコラスは口をゆっくりと開いた。


「俺、最近何やっても上手くいかなくてさ、今日も 俺が悪いのに部下には八つ当たりしてしまってさ」


 何故いきなりこんな話をし始めたのか自分でも不思議だった。だが自然と口からすらすらと愚痴が漏れていく。落ち着いた雰囲気の彼女を前に、何故か自然と弱音は溢れていった。誰にも言った事はない醜い弱音をニコラスは流し続けてしまう。

 答えを求めているわけじゃなかった。ただ誰かに聞いて欲しかったのだ。


「頑張ったのに結局は子供も見つけられないで、本当に役立たずだった。部下もきっと俺のこと失望しただろう。努力しても結果が出ないやつなんて救えないよな……」


 ニコラスは言い終えると、乾いた笑みを浮かべた。心に沈んだ鉛は消えなかったが、軽くはなったような気がする。満足したニコラスはこの場から立ち去ろうと立ち上がった。


「そんな事ない」


 その声が耳に届き、ニコラスは驚いたように足を止めた。本当に自分の愚痴を聞いてくれているとは思っておらず視線を少女へ向ける。すると、彼女はこちらに顔を向けており初めて視線を合わせてくれた。


「頑張ってる姿は……その、格好いい……と思う」


 少女は照れるように少しづつ声をしぼませた。だがその言葉には確かに芯があり、力を感じさせるものがあった。


 ニコラスは少女を見て口を震わせる。少女の表情は一見無表情に見えるが、口元を僅かにほころばせており優しい笑みをうっすらと浮かべている。


(やばい。何なんだ、これ)


 胸がドキドキする。悩みを聞いてもらったからだろうか。その悩みに答えてくれたからだろうか。ニコラスは、答えてくれるとは思っていなかった少女の言葉が嬉しくてたまらなかった。自分は最初から否定して欲しくて愚痴を溢していたのだと自覚し、ニコラスは急に恥ずかしくなった。いきなり固まったニコラスを不思議に思い、少女は首を傾げた。


 その少女の顔を見て、ニコラスは何か言わなければという使命感に駆られる。


「そ、そっか。 そうだよな。 努力を諦める事が一番ダサいよな」


 ニコラスは力こぶしを握って、意欲が湧いてくるのを感じる。沈んでいた鉛は燃え尽き、ふつふつと力が湧いてくるのを感じた。ニコラスは少女に礼を言おうと思い視線を移したが、その時少女はすでに興味を失ったようにりんごの皮むきを再開していた。


「くく、本当になんなんだよ。 ああ、俺頑張るよ。もっと努力して皆を笑顔にしてやりたい」


 少女はこちらを向いていないため、ニコラスは独り言のような形になっていたが気にしない。


「なぁ、君名前は?」


 まさかこの自分がそこらにいそうなナンパ男みたいな台詞を吐くようになるとは思ってもいなかったが、ニコラスはどうしても少女の名前を聞きたかった。



















 ノアは螺旋階段を登っていく。思っていたより任務が長引いてしまったため、すっかり遅くなってしまった。この塔は夜になると月の光しか明かりになるものは無くなるため、少し心配になり足を早める。

 部屋に入るとアリスは寝息をたてて眠っていた。目の下が少し腫れて赤くなっているため、泣いていたのかもしれない。ノアは右手を握りつぶすように胸に添えて、左手でアリスの頭を優しく撫でた。周りにはノアの似顔絵が何枚も描かれていたが、どれもくしゃくしゃに丸められてあった。ノアは一瞬起こそうとしたが、やっと眠れたであろうアリスを寝かせておくことにした。

 そっと毛布をかけ直してやり、作り置きしておいたご飯は食べてくれたようなので皿を片付ける。皿を洗うにも、また城の中の厨房へ向かわないといけないのでひと苦労だ。

 そして、皿を洗い終えるとノアはまたあの部屋で糸を紡ぎ始めた。

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