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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第3章 妨害し続ける身分
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第98話 想いは貯まる

 ため息を吐きながら広い廊下に重い足音を刻む。アリスの着れる物を作ろうと今日も朝まで奮闘したのだが、出来たのはヨレヨレの雑巾程度の出来だった。朝ご飯を作らないといけない時間になったため、ノアは早めに切り上げることにした。すると厨房へと向かう途中、パタパタと軽い足音を鳴らしながらテトが向かってきた。

 どうやらここに来たのは偶然ではなく、ノアを探していたらしい。テトは目の前でピタリと止まると、表情を緩めた。


「ノア、おはよ」


「おはよう。 何かあったの?」


「……これ」


 テトは手に持っていた皿をノアに見せる。それは可愛らしく猫の形に切られたりんご。それもあくびしていたり、眠っていたりなど色んな表情をしている。皮を使って相当細かく造られたりんごを見て、ノアはくすりと笑った。


「これ、テトが?」


「うん」


「すごいな。テトはやっぱり器用だね」


「えへへ」


 テトは、ノアに褒められたことに喜びを隠しきれず耳をぴこぴこと動かす。そして器用だと言われて、手を後ろに組んで咄嗟に指の傷を隠した。果物ナイフであれば皮を剥くことなど容易であるのだが、細かい所までこだわり過ぎたのとノアの事がどうしても頭に浮かんでしまい失敗の連続だった。


「これを持ってくるためにわざわざここまで?」


「うん。迷惑、だった?」


「はは、全然。 でも食べちゃうの勿体ないな」


「だめ、食べて。 ノア、ほっとくと何も食べない」


 騎士達の食堂はここから随分と離れているため半ば呆れていたのが、テトが自分の事を心配してくれていたことを理解した。本当はノアと会う口実作りも目的の一つであったが、心配していたのは本当だしノアがそこまで気づくことはなかった。

 テトもどうやら忙しいらしく、それだけ言うとまた小走りで戻っていった。ノアは貰ったりんごを咀嚼してじんわりと味わう。

 やはりりんごだけは味がわかるような気がした。













「なんでまたどっかいくの!」


 ノアが塔の部屋に入ると真っ先にアリスは声を上げ、涙を浮かべながら周りの物をノアへと投げつける。


「ずっとまってたのに! 」


 ノアとやりたい事が沢山あったアリスは我慢出来ずに怒りをぶつける。投げつけられた物には丸められたノアの似顔絵も混ざっていた。

 かけられた毛布から、ノアが一度帰ってきた事がわかったのだろう。どうやら眠っていたアリスを起こすのが正解だったらしい。アリスは一度機嫌を損ねると、なかなか治らず布団の中に潜ってしまった。作ってきた朝ご飯を食べてくれる様子もなく、仕方なかったので一度厨房へ戻ってアリスの好物で釣るしかなかった。


「ほら、パンケーキ焼いてきたから」


 どれほど機嫌が悪くてもアリスはパンケーキの誘惑には勝てなかったらしく頰がパンパンになるほど口に詰め込んだ。一瞬でたえらげた後、アリスは満足したようにノアの手を握る。ここからが問題だ。


「ごちそーさま。にぃ、なにしてあそぶ?」


 ノアは今日も任務に行かなければならないのだ。その事をアリスに言うか、それとも誤魔化すかを悩んだ。前まではアリスを寝かせている間に任務を終わらせていたのだが、今はだいぶ病も治ったおかげで眠る時間が減っていた。

 悩みに悩んだ末、ノアはある提案をした。


「今日は城のほうに行こう」


「それはヤァ!」


「アリスはお姉さんに会いたくない?」


 外へ出ると聞いて塞ぎ込むために毛布を掴んでいたアリスは、姉に会えると聞いてその手をピタリと緩めた。自分にはこんなにも大好きな兄がいる。それならば姉はどんな人なのか。姉の存在に興味を持つのはアリスにとって当然のことで、外へ出る事をすんなりと決心した。


「わかった」


 ノアは、アリスが想像以上に食いついてきてくれた事にホッとして、姉であるアシュリーの元へと連れて行く事にした。しかし、アリスは外の世界がやはり怖いのか、毛布とノアの背中を掴んだまま決して離れなかった。














「きゃ〜!貴方がアリス!? すっごく可愛いじゃない!」


 アシュリーはアリスを見た途端、目をキラキラと輝かせて抱き上げる。耳に入った噂とはまるで違う容姿、緊張しているのか目を点にしているアリスの頰を問答無用でこねていく。


「私はアシュリーよ。 貴方のお姉さん」


「ねぇ?」


「そう!姉ぇよ。まぁなんて可愛いのかしら」


 アリスのきょとんとした表情、その可愛さにあてられたアシュリーは腰砕けになっている。


「まったく、アシュリーのヤツ何て顔してやがる」


「あはは、アリスも嫌がる様子がなくて安心したよ」


 ホムラは、アリスと遊んでいるアシュリーの顔を眺めてぼんやりと呟く。呆れているような顔をしているが、どことなく嬉しそうでもあった。

 部屋と言っても実感が湧かないほどこの部屋は広く豪華な造りになっていた。王族の私室なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、その辺に疎いノアからすれば驚くのも仕方がなかった。そしてそれはアリスも同様で、落ち着かない様子で周りをキョロキョロと見回した。


「ねぇアリス。貴方もここで暮らしましょう? 貴方の部屋も勿論用意するわよ?」


 アリスも王族だ。ならばここに住む資格だって当然ある。病だって治っいるのならここに住むほうが絶対に快適だ。だがアリスは首を横に振る。


「あら、どうして?」


「……どうしても」


「そう、残念ね」


 理由は無いのか、答えはしなかったアリスだったがアシュリーはそれ以上誘うことはしなかった。






「それにしても本当に感謝してるぜ。俺は前にあの子の、アリスの姿を見て正直諦めてたよ」


 アシュリーと、そしてアリスの笑っている顔を見てホムラは感慨深そうにしていた。ホムラはアリスを見捨てたのだ。早く殺してやることが彼女にとっても何よりも最善の選択だと思っていた。しかし、ノアが違う道を見せてくれたことに感謝した。


「ただ、アリスはやっぱり外が怖いみたいなんだ」


「それは仕方ねぇだろ。 それも感情があるからこそだ。 そのうち自分でなんとかするさ」


「どうかな。 あの子はまだ幼いし、僕が何とかしないと。これも僕の責任だ」


「おいおい、あんまり世話しすぎると一人じゃ何も出来なくなるだけだ。 それに心配するな。 アリスはなんたってあいつの妹だぜ?」


「そう言われたら何とかなりそうって思えそうだ」


「だろ? さっ、俺達は任務に行くぞ。今日のは任務は手応えあるぜ?」


「あ、それは……」


 ホムラが発した言葉にノアは固まる。その声は当然、同じ部屋に居たアリスにも聞こえた。


「にぃ、またどっかいくの?」


 アシュリーと積み木で遊んでいたアリスは手を止めて立ち上がり、すがるような視線を送った。

 ホムラはそこで初めて事情に気づき、口を慌てて閉ざす。ここにはアシュリーや、アシュリーの使用人達が居るため気を紛らわらせると思っていたが、アリスの今の様子だとそれは無理だということは明白だった。

 ノアは観念したように頷く。


「うん。でも今日はアシュリーさんもいるし、寂しくないよ」


「………もういい」


 アリスは服の裾をぎゅっと掴み、ノアを睨んだ。兄と姉に囲まれて遊べるかもしれない。アリスはそんな夢の時間を想像していた。しかし、またその期待は裏切られた。

 アリスは、いつも自分から離れようとするノアにたいして我慢ならなかった。


「にぃなんて、しんじゃえ!」



















「悪かったな、まさかそんな状態だとは思わなかった。だがあの様子、アリスは少しお前に依存しすぎじゃねぇのか?」


 ホムラは頭の後ろに腕を組みながら真っ暗な空を見上げる。今二人は部隊を引き連れ、任務のため夜の街へと出向いていた。アリスは最後まで散々泣きわめいていたが、アシュリーが任せろと言ってくれたため預けることにしたのだ。


「……そうだね」


 ノアは自分の呪いについて考える。前にユグドラから自分の呪いについて聞かされたことがある。もしかしたら、その毒がアリスの心に影響を及ぼしているのかもしれない。


「まぁ、そんなことを考えるのもこれが終わってからだな。本当に死んじまっても笑えねぇよ」


 ホムラはある建物の前に立ち止まった。それは古びた教会だ。今回の任務の目的。それは、この巨大な十字架を背負う教会の中にいる者達が反乱を企てているのだという。城を乗っ取るほどの力を蓄えようとしている一つの組織、それが完成する前にこちらから叩こうと言うのだ。




「全員、戦闘準備。 中にいるやつらを徹底的に懲らしめてやれ!」


 ホムラは部下達の士気を高めるために全力で吠える。あえて中に聞こえるように叫び、中にいるやつらを萎縮させることも目的の一つだった。反対側にはニコラスやクレアの部隊もあり、4つの部隊で囲んで袋叩きにする予定だった。それほど徹底的にやる必要があるのかと疑問を覚えて眼を使うと、ノアはこのやり方も納得できた。教会の中にいる人数は百を超えていたのだ。それに地下にも沢山の道が見られ、潜んでいる者達は全員武器を手にしていた。


「これは面倒くさいな」


「俺達と隊長が居れば楽勝ですよ!」


 ノアの呟きに反応したロキが力こぶしを作る。メアリィも身体を早く動かしたいようでそわそわとしているようで、自分は全く隊長らしいことをしてないなとノアは失笑するが、部下である二人には特に何かをする必要性も感じられなかった。


「そうだね、早く終わらせて早く帰ろう」



 ノア達は全員で真正面から突入した。動き方から中に居る奴らは素人同然の実力ばかりだろう。最初は数の多さに驚きはしたが、これなら早く戻れそうだと思えた。そんな事を考えていたノアは、予想外の展開に反応できなかった。


「ノア!」「隊長!」


ーー地面の感触が途絶えた。


 メアリィとロキが全力で叫び、こちらに手を伸ばしているのが見える。だがその手はあっという間に遠のいていき、見えなくなっていく。


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