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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第2章 変わり続ける感情
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第66話 夜の花

「タルタロスも少しづつ成長してきている。これもキミ達のおかげだよ」


 ユグドラはくつくつと笑いワインを口に含む。タルタロスの人数も少しづつ増えている。他の区と比べれば人数は比べ物にならないくらい少ないし、ほとんどがただの子供なので無力なのは変わりないが成長していることは確かだった。


「それで今回は上界の南区、アルフヘイムに行ってもらいたい。貴族の屋敷に飾られている金の泡、それが今回のお宝だ」


 長い長い髪をくるくると指でいじりながらユグドラは目当ての品の在り方を示す。何もない、ただ暗闇の世界に閉じこもっているはずの彼女は何でも知っている。その金の泡という物がどんなものかは知らないが、ユグドラが言うならそこにあるのだろう。そう確信できるほど彼女の言葉は的確だ。だからこそ、ノアは疑問を抱かざるを得ない。


「一つ聞いてもいいですか」


「なんだい?」


「ボスは、ああなることを知ってたんですか?」


「ああなること、とは?」


「誤魔化さないでください。 テトが連れて行かれ、ロイが死ぬことをですよ」


 わかっているはずが、どこかぼかすように言い回すユグドラをノアはただじっと見つめた。前から聞こうとは思っていたのだ。色んなことを前もって知っているユグドラが、あの場面を予想出来ないことがあるのか。そしてバッカスのそれに対しての対応もあまりにも不自然だ。バッカスはロイの救出に手を貸すでもなく、今も厳重に警戒して見張りをし続けている。

 ノアがそのことを言及していると、ユグドラは初めて視線をノアからずらした。


「知っていた、といえばキミはどうする?」


 ユグドラはノアを挑発しているかのようにくつくつと笑う。だがノアは、大した反応を見せずに淡々と返す。


「どうもしませんよ。ただ確認したかっただけですから」


「…………そうだね。ボクは知っていた。だからあの時言っただろ? ロイくんを助けるのは極めて難しい、とね」


「……そうですね」


「怒らないのかい?」


「隠し事はあるようですが嘘はついてないですからね」


「ふぅん」


 わかっていて、なおユグドラはノアに伝えなかった。テトの事も知っていたが、それと同じで助かることも知っていただろう。きっとこれが最善の道だった。


「利用しあう、これも僕が入った時の条件でもありましたしね」


 ユグドラはその言葉に素で驚いたようにパチパチと瞬きをした後、吹き出すように笑う


「キミも大概だ。 そうだね、存分に利用させてもらうよ」



 ユグドラは扉を開けて外へ向かうノアを、その後ろについていくテトを見てゆったりと微笑む。そして一人になった部屋の中で昔を思い出しながらワインを飲み込んだ。



 










――――――――――――


「ノアさん!これめちゃくちゃ美味いです!」

「何これっ!?こんなの食べたことない!」


 タルタロスの子供達がノアの作った料理を口にして歓喜の声を上げる。ここに入るまではろくな物を食べていなかったのか、涙を流すものもいた。忙しなく口を動かし、ぽろぽろと口から食べ物を落としている子供達をアウルム達が拭いてやる。アウルムとアルティナはあれで面倒見の良い方なので皆んなアウルムとアルティナを本当の姉のように慕っていた。ニーナも子供に好かれやすい体質なのかすぐに仲良くなり、置いていかれそうになったノアも謎の対抗心を燃やし料理を振る舞ったのだ。キュプラーはまだ恥ずかしいのか自分から声をかけることはなく、そのうえ近づきがたいオーラを発していた。


「あ、あの!ノアさん」


「ん?」


 包帯だらけの子供が数人、緊張気味でノアに声をかけてきた。その傷はどうやらバッカスとの訓練でつけられたものらしく、相変わらずやり方が乱暴だなと苦笑する。バッカスに負けたあの日以来、ノアはバッカスに修行をつけてもらっていない。今度久しぶりに手合わせを頼んでみようと思っていると子供達が頭を下げてきた。


「俺達に剣を教えてもらえませんか!」


 ノアはまさか自分が教えを請われるとは思ってもいなかったため素で驚く。確かにタルタロスの中で剣を使うのはもうノアだけだ。だからノアは、ロイが教えてくれたように、皆んなの中に何かを残したいと思った。


そうしてしばらくの間、ノアはテトが呼びにくるまで子供達に剣を教えた。だが、ノアの師はロイでもあるがバッカスでもあるため教え方が力任せなのは変わらなかった。










※ ※ ※ ※ ※ ※


 上界南区・アルフヘイム。そこは植物が生きているかのような街並みで、生き生きとした花で囲まれた道が続いていた。とてつもなく大きい薄桃色の花びらを散らす大樹があり、その大樹を囲むように城が建てられている。今は夜なため日の光は無いが、大樹の下から光が当てられているため大樹の花が美しく輝いている。

 下界の北区にあるタルタロスから上界の南区まではかなりの距離があり、数日間歩き続けて疲労が蓄積していた。だが外壁からこの景色を見ると疲れが無くなっていく。それほどに桃色に咲く大樹は心を和ませた。


「あの木、すごい綺麗だね」


「桜って名前」


「知ってるの?」


「……故郷だから」


「そういうことか。いい街だ」


「うん」


 テトは落ちていく花びらと一緒に尾を揺らして微笑む。この街で辛い思い出はあるが嫌いにはなっていなようだった。

しかし仕事は仕事、二人は淡々と屋敷へと侵入していた。そこらの貴族についている警備程度、今の二人なら易々と潜り抜けられる。真っ暗な通路でも獣族の二人なら関係なくスムーズに進んでいき、無事何事もなく今回のお目当てである金の泡と呼ばれている手のひらサイズの真珠を手に入れる。なんなく仕事を終えたノアがほぐすように身体を伸ばしているのを見て、テトは裾をつまんで軽くひいた。




「……せっかくだから、帰る前にもうちょっと見たい」


 テトは顔をほんのりと染めて花見を提案した。あの花の道をノアと並んで歩くところを想像してみれば、口から自然に言葉は漏れていた。


「んー、いいよ。少し見て行こっか」


 勇気を出したおかげか、ノアはすんなりと承諾してくれた。しかしノアは、テトが故郷になにか思うところがあり帰りたくないだけだと思っていた。テトも自分の想いが伝わっていないことを察して不満には思えたが、それ以上に今が楽しかった。

 足元一面に咲く花、天から降りまかれる花びら。上や下、どこを見ても鮮やかな花が目に入る美しい世界。ノアもその景色を満足そうに見ていたが、テトは既に花は目に入っていなかった。

 手を繋ぎたい。その思ったテトはノアの手をただ見つめ、何度も手を伸ばしかけた。普段なら平気なのだが、今繋ぎにいくのは何故か無性に恥ずかしかった。昔この道を通ったことは何度もあったがここまで感情が揺れたことは無かった。テトは自分の手を握ったり開いたりを繰り返し、どうにか手を繋ごうと息を整える。そこまでしなければどうにかなりそうなほど今のテトは余裕が無い。


「あっ」


 そんな事に意識を割いていたテトは、つまづいて盛大に転んでしまう。ノアしか見ていなかったテトは足元の小石に気づかずに花の中に頭から突っ込んだのだ。ぶわっと花びらを巻き上げながら倒れこんでしまったことで、ノアにからからと笑われてしまう。


「大丈夫? 」


「……うぅ」


 頭についた花びらをつまんで取り除いてくれるノアを前に、テトは顔から火が出そうなほど恥ずかしくなり、もう一度花の中に顔を突っ込みたくなった。

そんな恥ずかしがるテトの様子を見たノアは、痛くて立てないと勘違いし、半ば呆れながら手を差し伸べた。


「まったく、ほらっ」


 出された手に、テトは耳をピコンと立たせ、ノアの手と顔を交互に見つめる。その差し出された手の意味を理解するのに何秒かかったかわからない。しかし理解できた頃には抱きつくように、その手を取っていた。



「へへ」


 テトは幸せを隠しきれずに幸福を含む声を漏らした。今は顔を見せられないくらい表情は崩れているだろう。




 ――そんな花が舞うなか、異色の花が一本落ちてきた。


 その花は真紅の薔薇。ノアの足元に深々と突き刺さるほどの威力で、異様なオーラを発していた。

 花が飛ばされてきた方向、そこには羽を広げて優雅に笑う吸血鬼の姿があった。手には血を固めた槍を握り、金色の髪を風で存分に流している。


「やっと見つけた! ずーっと探してたんだから」


血よりも赤い目をした少女は夜を背に微笑んだ。

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