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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第2章 変わり続ける感情
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第65話 無意味な心配

「おい!何とか言えよっ!」


 首元を掴んで相手の重い体を持ち上げ、大声で怒鳴り声を上げているのはハイエナの亜人、ルドルフだ。その表情は険しく、本気で怒っていることがわかる。彼が怒ることは珍しいのか、Aランクのハンターが怒ることが恐ろしいのか周りの者はオロオロと狼狽えるばかりだ。だが首元を掴まれているのもAランクのハンター、ドープルだった。ドープルは怒鳴られながらもニヤついた笑みを隠そうともせずに戯言を並べる。


「うぐっ……仕方ねぇ、だろう? まさか古代兵器と鉢合わせるなんて、俺でも予想でねぇよ。ひひ」


 それはノアを遺跡に連れて行き、見殺しにしたことについてだった。確かにAランク以上のハンターの同行でなら遺跡に行くことはできる。だがそれでも危険な事には変わりなく、Aランクのハンターが責任を持たないといけない。だからこそルドルフも、ノアが行きたいと思っていたのは知っていたが危険な遺跡には連れて行かなかった。絶対に守りきる自信と保証が無かったからだ。

 だからドープルが軽い気持ちで新人ハンターを連れ出し、こうもあっさり見殺しにしてきたことが許さなかった。そしてルドルフは、怒鳴られてもニヤつく笑みを絶やさないドープルを見て、意図的にノアを殺したということを確信する。


「てんめぇ!!どこまで腐って……」


『もうやめてください!』


 ルドルフが殴りかかろうとすると、アテナが叫んでルドルフの拳を止めにはいった。


「おぉ、やっぱりアテナはわかってるなぁ。 ったく、アテナもこう言ってんだ。離せよ。 あれは事故だったんだ」


「――ッいいのか!ノアくんとは君も仲が良かったんだろ!」


「良いんです。 仕方ないことです。ノアくんもハンターとして生きていくなら死ぬ覚悟は出来ていたはずです」


「だとよ。 ほら、とっとと離せ」


 ドープルは、ルドルフの手を振り払い上機嫌に笑い、その嫌な笑みを見たアテナは心の中の葛藤に苛まれる。


(これで良かったんだ。こんなところで争っても何の意味もないし、ノアくんは帰ってこない。これが一番()()()んだから)


 周りの者達も喧嘩が収まりホッとし始める。だがルドルフにとっては二人の態度に納得できなかった。


「君は悔しくないのか!」


「悔しいですよ!悔しいし悲しいです!」


 ルドルフの八つ当たりに近い声に、アテナはスカートの裾をぎゅっと掴み、目を潤わせた。周りを気にして正しいことをしようとする。あるべき姿を見せねばと、自分を殺して人のために怒ることができない。それが何よりも許せず、自分のことが嫌いになる。

 血が滲むほど唇を噛むアテナを見て、ルドルフも冷静さを取り戻したように黙り込んだ。


「いやぁ、助かった。 古代兵器の流れ弾が俺達にも当たったせいで死ぬかと思ったな」


「ほんとっすね。門兵に気を失ってたところを運び出されなかったら俺達も今頃どうなってたことやら」


「あいつを古代兵器の前に蹴落とした甲斐があったってもんだ。 その点ではあのガキに感謝してもしきれんな。 ガハハ」


 あえて周りに聞こえるように笑い声をあげるドープル達。その声にはルドルフだけじゃなく、今まで黙っていたルドルフのパーティーであるドモンとリピアも流石に怒りに震えて立ち上がった。この屑が自分達と同じハンターなんて許せなかった。

 だが、その怒りは掻き消され、二人は一瞬で我に帰える。なぜならその隣に更なる怒りを込めて覇気を放つ少女の姿があったからだ。


「ん?どうしたアテナ。 やっと俺達とパーティーを組む気にでもなったか?」


 艶やかな髪を揺らしながらドープル達に近づく少女の手には紫苑(しおん)色の(つるぎ)が握られていた。その目には一点の光も写っていない。







 アテナは『宝石の剣姫』という異名を持っている。だがそれは彼女の美しさや気高い容姿から取られたものではない。彼女の腰に刺さっている剣は未だ鞘に収まっている。しかし少女の手からはパキパキと音を立てながら細かい結晶が連結し、剣へと変貌していた。

 彼女は結晶を創り出す能力を持ち、それは宝石のように輝き鋼よりも硬い。その結晶の剣を構える姿こそが、彼女の異名である真の由来だった。




 アテナは今、生まれて初めて感情のままに剣を握る。美しく上品であれと育てられ、卵の殻に閉じこもっていたアテナは力を解放する。彼女ほどの実力があれば一瞬でドープル達の首を跳ねることが出来る。


「貴方達なんて……。このッ………………え?」


 だが、ギルドには地獄光景が創り上げられることはなく、アテナは剣を振り上げるのをやめた。何故なら視界の端に、扉を開けて入ってくるノアの姿が見えたからだ。














 

 ーーーーー

「……いってらっしゃい」


「いってきます」


 テトはいつもの場所で手を振ってノアを見送った。

 最近は何処に行くにもテトと一緒で、何かをしようとするたびに側に来ていた。そのため、今日からギルドに行くと告げた時、テトはいつもより悲しそうな顔をしていたが、別れ際のテトの表情はいつもより晴れ晴れとした様子だった。そのおかげでノアも心置きなくギルドへ向かえた。




(……ん?)


 ノアが扉を開けると、全員が一斉にこちらを見つめ、雷にでも撃たれたように固まっていた。しかも、いつもの視線とは異なるもので、ただ口を開けて石像と化している者達の間を、ノアは戸惑いながら通り抜けていく。するとルドルフ達がいるのを見つけ、訳を聞こうと近づいてみる。だがこちらを見ているはずなのに、一向に動く気配が無い。


「こんにちはー。 あの〜何かあったんですか?」


「生き返った!?……いや、亡霊!?」


「え?」


 ルドルフに声をかけるといきなり肩を掴まれた。それからも訳がわからないまま体のあちこちをじろじろと見られたり引っ張られたりする。

 ノアは少し引き気味でルドルフを見るが、冗談を言っている様子は無く、本当に驚いているようだった。


「ノアくん!」


「はい?」


「本当に良かった。遺跡に行ったっきり行方不明って聞いて……」


 いつのまにか隣に来ていたアテナに引き寄せられ、ノアは膨らんだ胸の中に顔を埋めた。息苦しさを感じてどうにか顔を上げると、アテナの手に恐ろしいほど美しく輝く剣が握られていることにギョっとした。そのままノアは、わけがわからないまま、周りの感動の空気に当てられ続けた。












「あーなるほど、すみません。 少し怪我が酷かったのでしばらく安静にしてまして」


 言われてみれば遺跡から戻った後、ギルドには帰還せず報告もしていない。ノアはそのままテトの救出に向かったからだ。その後も怪我が治るまで一週間ほどギルドに顔を出していなかった。そのため遺跡に行ってから行方不明となっていたノアは、死亡扱いにされるのも当然だった。


「もう大丈夫なの?」


「はい。もう目立った怪我はありませんし大丈夫です」


 アテナやルドルフ達はノアの言葉に安堵して腰が抜けたように座り込む。


(な、なんであのガキ死んでねぇんだ!まさか古代兵器から逃げきったってことか!?Cランクの分際で!)


 ノアに助けられたことも知らずにドープルは心の中で盛大に舌打ちをして爪をかじっていた。


 確かに今回ばかりはノアも死を感じたが、幸い後遺症は残らず腕も翼も元に戻っている。

しかしルドルフ達とは違って、ソフィだけは噴火したように怒り、妖精のように可憐な顔を鬼のように歪めていた。ソフィは凄く心配してくれていたみたいだが、その心配が安堵に変わり、その後怒りへと変わったみたいだ。無茶ばかりするノアが勝手に遺跡に行ったことをソフィは叱り続け、アテナが止めてくれなければあと数時間は怒られ続けそうな勢いだった。


「アテナ、こういう時はビシッと言わないと。ノアくんなら次もまた行きかねない」


「だ、大丈夫だよ。今度からちゃんと私も見るから」


「あなたも忙しいでしょう、甘やかしてどうするの……。そういえばあなたも上界で問題起こしたんだって?」


「ひっ、ノアくん!行こ!」


 親友の怒りの矛先が自分に向いたのを察したアテナはノアの腕を引っ張って逃げるように走り出す。ノアもこれ以上叱られたくはないため一緒に走って外へと駆け出した。

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