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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第1章 壊れ続ける日常
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第10話 悪夢物語

 猛毒が大気中に含まれた大地を、ノアは何日かわからなくなるほどひたすら歩き続けた。初めてこの地に訪れた時は、毒に侵された体が死滅する速度より、ノアの再生力の方が優っていた。しかし今は、カナリアの()を植え付けた時からノアの再生能力は数段落ちているようで、鼻血や嘔吐感に襲われる。恐らくはまだあの時のダメージが回復出来ていないことが原因ろう。

 あの緑髪の男にやられた羽の傷は治ってはいたがし完全に完治しきらず、片方の羽がもう片方より少しだけ短くなってしまいノアは空を上手く飛べなくなってしまった。

 そして真っ白だった羽は今は元の色、黒色に戻っていた。しかし髪は白いままで眼も綺麗な透明色であった。眼の力を使う時だけ赤くなるようで酷使すると激痛が走るためあれ以降は使ってはいない。


 そうして再生が少し衰え、この大地の毒に苦しんでいた。ノアはあの男たちのガスマスクを持って来なかったことを後悔する。ノアは森の外に毒の霧が覆っていることを忘れていたのだ。あの男たちの船にあった地図や道具、飲み物や食料は全て持ってきたのだが、この毒に侵されて紫色に染まり食料は食べられるものではなくなってしまったし飲み物もダメになったため一度も口にすることなく捨てる羽目になった。だが飢餓に襲われるもノアは弱音は吐かずに地図を握りしめて歩き続ける。

 すると霧が少しづつ消え始め地平線の上に何かが見え始めた。目的地の大国だ。とてつもなく離れている場所からでもうっすらと見えるほどの大きさ。ノアはこの苦労が報われたことに安心し脱力しそうになるのを感じる。もう毒の霧も消え始めそこらに道ができていて歩きやすかったのだが、それでもそこから国までは遠く、再生に体力を使っているのもあり到着まで丸一日かかった。


 その国はとてつもなく大きい壁に囲まれていた。壁の周りを歩き、入り口を見つけるのも一苦労だった。入り口の大きな門をくぐるとそこはスラム街で、今ノアが通っている大通りには最低限の灯があるが、少し外れた先はとても薄暗く階段や地面に直接寝転んでいる人達の姿も見られる。けれどスラム街を抜けると途端に賑わった街が広がり、いろんな食べ物を並べている店舗や様々な種類の種族が肩を並べて歩いている。

 どうやらこの国は中心に行くにつれて治安が良くなっているようで、国の中心部には壁に囲まれた大きな城のような建物まで見える。

 ノアの生まれた村とは段違いの人口密度。本の中で描かれていた街並み、武器や防具を着用して歩くハンターも目に入る。夢にまで見た憧れた風景。


 それなのに、ノアは全く関心が持てずにいた。湧いてくる感情は寂しさと虚無感だけだった。









 ーーー数日後、ノアはスラム街の中壁にもたれかかり座り込んでおり、今からどうすべきかわからずに途方にくれていた。この国に来てすぐにギルドに行くことはできたのだが、その後が問題だった。



 ギルドの中は酒場になっていて、その奥に依頼の紙が張り出されていたり道具が売ってる店もあった。ノアはとりあえず二階にあったカウンターに行き、受付の女性にハンターになりたいことを伝える。すると手数料や登録料で金を要求され、カナリアがハンターになるために渡そうとしてくれた銀貨を持ってきた事を思い出し、それを絹袋をカウンターの前でひっくり返して銀貨が落とした。すると、女性は声を上げて驚いたように口に手を当てた。



「な、なんですか。これ」


 予想外の反応をする受付嬢にノアも驚きその場で固まらざるを得ない。すると受付嬢の隣に中年の男が現れ、カウンターに広げられた銀貨をまじまじと見た後ノアを睨みつけた。


「ここはガラクタを持ってくる所じゃない。たまにいるんだよ、とりあえず金目になりそうなものを売りに来ようとするスラムのガキが。さっさと帰れ」



 ノアはその男にギルドからつまみ出されたのだ。

 何故かこの銀貨はこの国で使えないようで、もしかしてカナリアが言っていた国とは違う場所にたどり着いて他の国があったのかもしれない。そんな考えが頭によぎったが、ノアの最終目的は国巡りやハンターになることでもない。聖杯を見つけれさえすればいい、どこの国でハンターになっても変わりはしないだろう。そう考え、この国の金を集めることにする。

 しかしそこからもまた大変だった。なんとかしてハンターの登録料だけでも稼ごうと、そこらの店で働かせて貰おうとしたが、ノアは自分の外見が今どのような状態なのかをわかっていなかった。服はボロボロで血の汚れもついており、何日も荒地を歩き続けたせいで砂埃などの汚れが髪に染み付いている。そんな汚れまみれの、どこから来たかもわからない子供を雇ってくれる人などいなかった。

 一日中仕事を探したが見つからず夜になってしまい、何日も歩き続けたうえに思い通りにいかないことだらけ。身体的にも精神的にも流石に限界が近づき、ノアはそこらの木の下に倒れこむように座った。だが流石は大国、治安を維持する機能が生きている。憲兵を名乗る男達が見回りを始め、夜中に街中に座り込んでいるノアを捕まえようとして来たのだ。そうして必然的にたどり着いたのは最初に通ったスラム街だった。


 だがスラム街とて住める環境ではない。そこらにある土管から排水溝から汚水が垂れ流しにされており、道も狭く鼠がそこら中にたかっているため寝転べる場所すらない。寝床を探して廃墟を見つけるも中には大抵先客が布にくるまって眠っており、近づくとさっきまで死んだように寝てる人達も殺さんとばかりに目をギラつかせてくる。皆、自分と縄張りを守るために必死なのだ。



  その結果ノアは今そこらの脇道に入って座り込んでいる。


(明日はどうする、金が手に入る方法はなにかないかな。いっそ人から奪い取るか?いや、あの憲兵に捕まりでもしたらハンターになることができなくなるかもしれない。リスクが高い行動を取るのは早い、か。もう少しなにか探してみて決めるか)


 そんなことを考え込んでいると何者かに声をかけられる。


「おい、お前どこから来た。よそ者が俺たちの縄張りに勝手に入ってくるんじゃねぇ」


 目の前に現れたのはノアより少し歳上くらいの男だった。スラム街にも縄張りや暗黙のルールがあり勝手に人の場に立ち入らないのは当たり前だったがノアは当然知らない。


「ああ、ごめん。ここのことはよく知らなくて、すぐに退くよ」


「ん〜?何言ってんだ?」


 ノアも面倒ごとは御免なのですぐさま立ちあがり笑って謝罪をする。しかし男はノアを帰らす気がないらしく、にちゃりと笑い指を鳴らした。

 するとすぐに、3人の男が現れノアは細道に挟み込まれる。


「ヘラヘラしやがって。何もなしに出ていけると思うな、その袋の中身を寄越せ」

 

 目の前の男達はノアの持っている銀貨の袋に目をつけた。どうやらこの袋の中身を金だと思いこんでいるらしい。確かに袋の中身はノアも金だと思っていたものなのだが、ここでは使い道のないものだ。しかしノアはこんな奴らに袋を渡す気は無かった。未練がましいが使えなかったとしてもカナリアから貰えた物の一つ、こんなやつらにあげるつもりはさらさらない。


「疲れてるんだ、勘弁してくれ。通してくれないかな」


「はぁ?この状況で帰れると思ってんのか?それともビビってるのを隠すのに必死なのかな?」


 ノアにゆっくりと近づく男達の手には刃物が握られていた。刃物で脅迫すればノアが怯え、素直に金を出す思っていたのだろう。しかし逆にノアが迫って来たことに驚くように目を見開いた。しかし流石はスラム街というべきか、そんなことで逃げ出すどころか怯む者すらいない。対立するノアを、男達は大人数で容赦なく殺そうとする。




 けれど、スラム街で生き残っただけの子供とノアでは、見てきた地獄の業が違った。








「はぁ、はぁ……。くそっこいつら、何も持ってないのか。やっぱりスラム街で金稼ぎは期待できないかな」


 ノアは男達の身ぐるみから剥いだ持ち物を確認するも、刃物以外何も持っておらず、割りに合わない体力の消耗に溜息を吐く。

 ノアは男達に勝った。しかしそれは不死の力に頼り、再生することを前提に戦ったためである。最初は後ろから現れた男に後頭部を鉄パイプで殴られ、よろめいたところを目の前の男にナイフで刺されるなど、一方的にやられてしまった。

 しかし、流れが変わるのは一瞬。刃で顔を串刺しにされながらも、ノアが男の一人の顔を殴りつけた時から勝負は決まった。男達も流石に、何度も刺した相手が反撃してくるとは思ってもいなかったのか、そこからはノアが優勢となった。所詮はただの子供。殺す覚悟があったとしても、殺される覚悟はなかった。

 一度恐怖を感じてしまった男達は、ノアに勢いを取られて後手に回りだす。不意打ちのような形から始まったノアの反撃は、段々と敵の数を減らしていき、数十分の殺し合いの末に最後まで立っていたのはノアだった。


「こんなんじゃダメだな」


  馬乗りになって何度も顔を殴りつけていたノアは、肩で息をしている。優勢になったにもかかわらず、能力があるにもかかわらず。ノアは何度も殴られ、顔を赤く腫らしていた。すでに再生は終わりつつあるが、能力が無いと自分はそこらのスラム街に生きてきた子供一人にすら殴り合いで負けるかもしれない。





 その日は流石に身体を休めようと思い、廃墟の建物の屋上に座った。こんな風が冷たいところに人はこないだろう。ここ数週間は寝てないのだから数時間くらいはいいだろうと、そんな軽い気持ちで瞼を閉じた。


 閉じてしまったのだ。







「起きて、ノア」


「え……? まさか、カナリア?」


 ノアは体をゆすられて目が覚める。起こした本人のカナリアは、ノアの反応を見てくすくすと笑いながら手を差し出ていた。


「他に誰に見えるの?まだ寝ぼけてる?」


「ここは?俺は……なんだ、夢か。そうだよな、よかった。ほんとによかった! あぁ……嫌な夢を見た。とてもとても嫌な夢だったんだ。 ああ、なんだ」


 ベッドから起き上がり尋常じゃないほどの汗を拭う。とてつもなく嫌な気分で、まだ生々しい嘔吐感すら思い出せるほどだ。しかしそれでも地獄から解放された気分になる。カナリアがいない世界に迷い込んだ夢を見てしまったせいで、今は無性にカナリアの体温を感じたくなりベッドから起き上がる。


「夢じゃ、ないよ?」


「……え?」


「わたしを早く、助けてよ。ノア……」


 いきなり目の前の映像が切り替わる。血の海に立っている自分と、その腕の中に眠るカナリア。カナリアは涙を流しながら助けを求めている。下半身を失った姿で。





「アアアアァァァァアアアァァァァァッッ!」




 叫んだ衝撃で体が跳ね上がらせ、目が覚める。


「ハァ……ハァ……いやだ、やめろ……」


 最悪の悪夢、しかしそれこそが現実。それ以降もノアが眠りにつくと、決まってカナリアを失う時の映像を見続ける。カナリアと過ごした幸せの過去を繰り返し、眼が覚めると彼女がいない虚無の時間が訪れた。


 そして決まって最後に、彼女は自分の腕の中で死んでいく。











 ノアは眠るのをやめた。

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