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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第1章 壊れ続ける日常
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第11話 地獄の入り口

 ノアは街の買取所に足を運んでいた。スラムには中央街から出る大量のゴミで溢れかえっている。そのゴミ山を漁り、子供達は食べられる食べ残しや、売れる残骸を探していた。

ノアも当然、同じように生きるしかなく、周りの子供達に隠れて1日中探し回った。争いにならないように、まだ使えそうな道具や銀の小道具を必死に拾い集めてみた。


「ほぉ〜なかなか良いものが揃っとるじゃないか」


 買取所の老男はパイプを加えて輪っか状の煙を浮かばせながらノアの持ち込んだ物を見ていた。しばらくすると老男は静かに頷き、机の下からビー玉くらいの大きさの赤と白の丸い鉱石のようなものを一つづつ取り出してノアに渡した。


「これは?」


「ん?ジェムじゃよ。なんじゃ、まさか知らんのか?」


 ここではこの宝石のようなものが硬貨らしく色でその価値が変わるらしい。白・赤・黄・青・銀・金と、色の種類がありそれぞれ1ジェム・5ジェム・10ジェム・50ジェム・100ジェム・500ジェム相当となっている。老男はノアを怪訝そうに思いながらも丁寧に教えてくれた。ジェムという言葉はギルドで聞いたが実物は初めて目にしたのだ。


「6ジェムか……」


 ノアが貰った金額の6ジェム。そのくらいなら屋台に出されている安い料理くらいなら食べられるくらいの金額だ。しかしハンターの登録料として必要な金額は300ジェムで、ノアの目的の金額にはほど遠いものだった。

 ハンターという身分はそれなりに高いもので、高ランクになれば貴族にも匹敵すると言われている。だが誰でもすぐにハンターになれるわけでもなく、子供が遊びではなれないほどの金額が請求されるのだ。


「確かに良いものとは言ったがそれはお前さんみたいなやつが持ってくるにしては、という意味じゃ。それ以上はどこに行っても出してはくれんぞ」


「いや、ありがとう」


 ハンターになるにはこのやり方では無理だろう。一日中探して6ジェム、あのゴミ山は1週間に一度中央街から出されるゴミで作られており、半日でほとんどマシなゴミは取り尽くされてしまう。300ジェム集めるにはあまりにも時間がかかり過ぎる。

ノアは苦しい現状に悩まされながらも、老男に笑顔で礼を言うと、違う稼ぎ方を探すため店を出ようとした。


「まちな。こいつを持ってけ」


 ノアはいきなり何かを投げ渡され、きょとんとした表情をしていると老男は頭を掻きながら舌打ちする。


「そんな可哀想な笑い方をするもんじゃない。目覚めが悪いのぉ。饅頭だ。スラムに戻ったらそこらのやつらに奪われるから早めに食っとけ」


 ノアは手にある緑色の柔らかそうな饅頭を思わず二度見してしまう。スラム街から来たにしては言葉遣いや第一印象が良かった。たったそれだけでも、人とは扱いが変わってくる。自覚していないところでも、カナリアの教養は生きていた。



 その後も金の手に入る方法を自分なりに考えてみたが300ジェムという大金を集めれそうな方法は思いつかなかった。そして数時間ほど頭を下げて仕事を貰おうとしたが小汚く痩せ細った子供を雇ってくれる場所はなく、人手不足なところでさえ断られてしまう。


「ダメか」


 ノアは公園の椅子に座りこんで饅頭を手に取る。思えば必死で忘れていたが森から出て以来、食べ物を口にするのは初めてだなとぼんやり思いながら饅頭を頬張る。


「なんだこれ。変な味がする」


 変な味、というより味が見当たらないという感じだった。見た目は美味しそうで中にもぎっしりとあんこが詰まっている。それなのに味がほとんど無く、ただねちょりとした感触だけがある食事。最初は腐っているのかと思ったがあの老男がそんなものをくれるとは思えない。


 手の中に冷や汗が溜まるのを感じた。ノアは立ち上がり近くの露店に出されている串し肉を買った。5ジェムという金額は、今からのことを思えば容易く使っていいものではないし、安いとはとても言えないものだ。しかし自分の疑念を払拭するために買わざるおえなかった。ノアはタレがしっかりとかけられている肉を受け取り口に頬張った。そしてしばらく咀嚼した後、食べかけの串肉を手からこぼした。


「あはははははははははははははは。……そうか、変なのは僕のほうだ」


 ノアは狂ったように笑う。周りの視線なんて気にせず爽快に笑い出す。

 森で男達に殺された時の後遺症か、あるいはカナリアの死という大きなショックのせいかはわからない。


「ははは……もう味覚すら無くなったか」









 夜になるとスラム街へ戻った。昼でも街中を歩いているだけで憲兵に睨まれるノアは、夜になると問答無用で連行されそうだった。とぼとぼと自分の影を見つめながら道を歩いていると2つの人影が現れる。


 2人の男がいきなり刃物を持ち、ノアめがけて突っ込んできた。ノアは腕に擦りはしたがなんとか距離を保つ。そいつらは数日前にノアを襲ったやつらだった。だがあの時はいた人数より少なく、最初にノアに話しかけてきた男と後ろから現れたうちの一人がいなかった。何処かに隠れていると思い辺りを見回す。


「リーダーはいない」


「ああ、そう。それで何の用?」


「お前のせいだ」


「ん?」


「お前のせいでリーダーと弟が死んだ」


 この男の弟はノアとの殴り合いでできた傷から菌が入り込み、高熱を出し始めた。スラムで一度病気にかかればほとんどの場合助からない。薬なんて買う金などないうえに体力を回復する食べ物すらありつけないことも多いのだ。そして男達のリーダーは弟の薬を買うために盗みをして捕まり殺された。スラム街に住んでいるものは盗みが発覚した時点で即殺される。それは当たり前のことだった。


「お前のせいだ!お前も責任をとってここで死ね」


 男二人の額に一本のツノが生え始める。鬼族の特徴だ。特殊器官を露わに、身体能力が上昇しているのが眼を使わなくともわかる。男達はノアに刃物で切りかかる。力を解放した男達はスピードが格段に早くなっておりノアは避けきれずにナイフを身体にもらう。


「お前がっ!あの時素直に渡しておけばっ!」


 男達はあの日、ノアの異常な耐久力に戸惑ったせいで鬼の力を引き出す前に鎮圧された。だから今日はそのことも織り込み済みで来た。ノアが死ぬまで刺す、その勢いでノアの身体に刃物を突き立てようとする。それは八つ当たりや、どうしようもない現実逃避の意味も込められていた。


「違うよ。僕のせいじゃない。君たちが弱かったせいだ」


 ノアは男達の刃物を手で掴んで止める。刃を手で止めても手は深々と切れる。それを躊躇なく行うノアを男達は唖然とした表情で見つめて固まる。


「世界は弱いやつが奪われ損をする。あの時君たちが強かったら死にもしなかった」


 どのみち勝つのも、最後まで笑っているのも、自分だと言わんばかりにノアは黒い翼を大きく広げる。大きくなった影は濃く、男達の影に覆い被さる。


「僕もね、弱さが憎い。だけど君たちみたいな自暴自棄の考えなしには負けてはあげない」










 ーーーーノアは建物の陰に座り込んでいた。


 身体中にできていた傷の痛みも収まり、空に浮かぶ月を眺めるほどの余裕もできてきた。月の光に向けて手をかざすと、先ほどまであった傷が治っていき顔を完全に手の影で隠した。


「再生も完全に元に戻ったみたいだ。」


 行ってみたいと何度も夢見た外の世界、それはつらくてにがく、それでいて苦しいものだった。容赦なく奪おうとしてくる者もいれば同情してくれるような優しい者もいるだろう。だがそれ以上に目の前に積み重なっている壁が大きすぎる。

 それでも諦めない、諦める暇なんてない。もう失うものなんて何もないのだから、むしろここからは簡単だろう。


「〜♪〜〜♪〜〜〜」


 つらい時こそ歌えと彼女は言った。だからノアは夜空へ歌う。


「〜♪〜〜♪〜〜〜」


 ノアは満月の下で歌を歌いながら小道を歩く。



 夜は中央街で活動することが難しい。そこでノアは少しでも金を稼ごうともう一度だけゴミの山でゴミを漁ってみることにした。すると妙なことに気がつく。いつもはこの時間帯であっても少なからず誰かがゴミを漁っているはずなのだが人の気配が全くないのだ。


(まぁ物の取り合いになることがないから人が居ないことは悪いことじゃないか)


 ノアは深くは考えずに大きなゴミをひっくり返してその下にあった箱を探っていると後ろから声がした。


「やれやれ、待ってたぞ」


 ノアは驚き後ろを振り返ると、ゴミ山のてっぺんで煙草を吸っている目つきの悪い男が座っていた。よれよれの白いTシャツを着た男で30半ばくらいだろうか。細身ではあるが服の上からでも引き締まった身体をしているのがわかる。


(いつからあそこに?全く気づかなかった。明らかに危険な匂いがするけど)


「今度は何?見つけたって、あなたは誰で何の用?この国に来てからこんなのばっかりだ」


「はは、想像力が豊かで何よりだ。そう警戒するな。お前を迎えに来た」


「僕を?何のために?」


 言ってることが理解できずノアは意味を問うが男は面倒くさそうにため息を煙と共に吐きだすと煙草を落として踏みにじる。


「いいからついてこい」


「お断りだね。ここ人たちに関わると碌なことが起きないってさっき学んだところだからね」


「まぁあながち間違いじゃないな。だが残念だかその場合は力ずくで連れて行く」


 男はゴミの山から飛び降るとノアに向かって跳んだ。


(早っ!?)


 瞬きをする隙もないほどの速度で近づき、ノアが反応する前にみぞおちに強烈な蹴りを叩きこむ。内臓が押し出され浮遊感と共に足が地面から離れ宙を舞う。


(なんだよ、こいつ。強すぎる)


 意識ごと持っていかれそうなほどの一撃。まともに受け身も取れずにゴミの上を数回バウンドしてゴミの山に叩きつけられる。


 次々と目の前にくる障害。ノアは処理しても処理しても次から次へと湧いてくる敵への怒りが湧き上がる。夢で何度も訴えられる影響か、この頃のノアの怒りの沸点は完全に壊れていた。限界に限界をすでに重ねているのだ、抑えられるわけがない。


「僕の邪魔をするなぁ!!!」


 ノアは漆黒の翼を空へと伸ばし眼を光らせる。やらなきゃやられる相手だ。勢いよく滑空し殺す気で男に殴りかかる。男はだるそうに頭を掻くと、風を裂くような蹴りを飛ばす。ノアはなんとか目で追い、翼で受け流した。翼が削られるような痛みは無視して反撃の機会を探る。


「ほぉん、やるじゃないか」


 男は自分の攻撃を流すノアに賞賛の意味を込めた声をつぶやく。だが、ノアのやっとの反撃で繰り出した拳は男の手で受け止められた。そのまま男は、ノアの腕を引っ張り、体勢を崩したノアの顎を蹴り上げる。


「こ、の……」


 ノアは、血反吐を吐きながらゴミの上を転がるもなんとか這い上がる。だが、力が入らずたたらを踏み尻もちをついてしまう。


「無駄だ。経験もないうえに体も出来上がってない。何回やってもおんなじだ。気持ち悪いだろ?脳しんとうを起こって動けは……」


 ノアは舌を噛みちぎり、翼を大きく広げて力強く立ち上がった。ノアの翼は、左右の大きさが違い空高くに飛ぶことはできない。しかし滞空時間を伸ばすことや早く駆けることは可能。今は足の力を支えるように地を押している。


「動けなくなる程度の威力で決めたんだがな。大した奴だ。でも無駄には変わりない」


 よろよろと立ち上がるノアの肋骨に蹴りが突き刺さる。


「あがァッ」


 転がるノアの口から血が吹き出し膝をつく。この男の攻撃は一撃一撃が重すぎる。意識を保つことが精一杯だった。


「くそ……あの力を」


 森で龍族の男と戦った時の空間を歪ませる力。それを発動させようと必死に力を練り、繰り出そうとする。


 だが、その力が世界に写ることはなかった。


「……なんで」


 力は空間に何の影響も及ばさず不発に終わる。ノアが空間を操ることができたのはあの時だけ。そのため、今のノアはただ死なないただの小汚いガキだった。


 こんなところで こんなところで こんなところで こんなところで こんなところで こんなこんなこんなこんなこんな こんなところでええ!


 次々と現れる壁に、容赦なく邪魔をされる。願望だけはあるのに、どれもうまくいかないもどかしさ。けれど仕方がない。何故なら弱いから。弱いことが罪なのだ。


「……ちく、しょう」


 ノアは耐え難い痛みや怒りに、男を紅い瞳で睨みつけた崩れ落ちた。しかし、その後も動かせる首だけを持ち上げて男の足に喰らいつく。弱さを恨むように、愚かさを噛みちぎるように、顎を動かした。しかし、今のノアにはどれも実現するには至らない。


「ははっ、なかなか価値のありそうなやつだ。あの人が選んだだけはあるな」


 男は目を細めて口元を歪め、気を失っているノアを担ぎ上げて歩き出した。

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