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四二話 ~黒い空間。懐かしい場所~


 眠りの奥深く。気を失った龍斗の意識はまるで墨汁にでも塗れたように真っ黒な空間に飛ばされていた

 

 (うぅぁぁぁ…何処だ……?ここ。何も…ないぞ)

 

 周囲を確認しながらも意識を確立させ、拳を握り、足踏みをして、体が動くかをしっかりと確認する

 

 (……よかった。体はちゃんと動かせる)

 

 そのまま、足を前に出し、その場から動こうとする。が

 

 (……?おかしいな。壁にはぶつかってる感じはしないのに、何故か進んでいる気がしないぞ)

 

 進んでも進んでも、まるでランニングマシンの上を歩いているように押し戻されるような感覚を受けてしまう

 

 (というか、俺ってここに来る前に何してたんだっけ……)

 

 その場を歩きながらも龍斗はこの空間に飛ばされる前に何をしていたかを考え

 

 (たしか、クルスさん達と一緒にクエストを受けて……。それで……それ…で)

 

 直前の記憶を探って、今の自分の状況を思い出す

 

 (……あぁ、盗賊の一人を殺して気を失ったんだった)

 

 しかし、状況を思い出したはいいものの、この場所が何処なのかは全く分からない

 

 (気絶している間にここに連れてこられたのか?……いや、でもここは盗賊アジトにしては何もなさすぎるし……)

 

 どれだけ考えても思考は黒い空間に吸い込まれて、なにも答えは出ない

 

 (……考えてても仕方がない。今はとにかくこの空間から出ないと!)

 

 だから、今は考えることよりも走ることを最優先した

 

 

 

 

 

 

 

 (駄目だ……どれだけ走っても一向に進んでいる気がしない)

 

 それから二分近く、休むこともなくとにかく走り続けたが、壁のようなものすら見えてこなかった。

 

 むしろ状況はさっきよりも悪化したような気さえした、さっきまでたしかにあったはずの『地面を踏みしめる感覚』が消失したのである

 

 たしかに走ることは出来るのに、文字通り地に足がついていないのだ。まるで、宙ぶらりんに吊されるように、何の感覚も感じられなくなったのだ

 

 (クソッ!それにしても変な感じだ。……まさかとは思うが、死後の世界だったりしないよな?)

 

 足を動かすことを止め、その場で呼吸を軽く整えて、再び前を見ると遠くに何かの光が見えた

 

 (……なんだアレは。……いや、取りあえず今はあの光を目指そう。きっと何かの手がかりを見つけられるはず)

 

 自分が動いているというよりは、光がこちらに近づいているような気はしたが、それを考えることなく、龍斗は再び走り出した

 

 

 

 

 

 

 そして光に覆われた龍斗が目を開けると、そこには何処か懐かしい雰囲気のある場所に出た

 

 (ここは……幼稚園…か?)

 

 何故、日本の何処か……それも幼稚園に飛ばされたかは分からないが、ともかく龍斗はこの場所を探索してみることにした

 

 外を見れば、多数の園児達が遊具を使ったり、追いかけっこなどをしている様子が見える

 

 (なんで幼稚園に……というか、俺みたいな部外者がいることがバレたら捕まるんじゃ……)

 

 そんなことを考えたが、幸いなことに現在自分がいる教室は誰もいない。龍斗は取りあえずは現在の教室の近くに誰もいないことを確認し、部屋から出てみることにした

 

 (教室周囲には……、よし、誰もいない。出るなら今だ)

 

 出来るだけ音を立てず、尚且つ迅速に扉を開閉する。

 

 (これでいいかな?……見たところ、あまり隠れられる物がない。誰かが歩いてこなければいいんだけど……)

 

 人が来ないことを祈りながら、龍斗は最奥にあった教室から廊下を真っ直ぐに進み出す

 

 (……それにしても、何か見覚えがある気がするんだよなぁ)

 

 微かに見覚えのある場所を思い出すために自らの記憶を引っ張りだそうとする。が

 

 (足音!?)

 

 階段から、こつ…こつ…と、段差をたしかに踏みしめる音が、彼の耳に響いた

 

 (……マズイ!)

 

 瞬時に何処かに隠れようとしたが、そこで思い出した。この付近には隠れられそうな物が全くないのだ

 

 (チィッ!万事休すか……!)

 

 追い出される覚悟を決めてその場に立ち尽くす。だが

  

 「…………………」

 

 (……あれ?)

 

 足音の主、恐らくこの幼稚園の職員は龍斗を無視して、さっきまで自分のいた教室へと向かっていった

 

 (無視された?……いや、そもそも俺に気づいていないような雰囲気だった……。それにあの人にも見覚えがある気が……。……まぁいいか)

 

 深く考え込もうとした龍斗だが、ここで立ち止まってるわけにはいかないと判断して、階段を降りようとする

 

 (あれ?おかしいな。この階段から先へ進めない)

 

 だが、そこには見えない壁があった。一段目の段差を降りようとしても、踏み出すことが出来ないのだ

 

 (……硝子でも張ってあるのか?でもさっきの人は普通にこの階段を上がって来たし……)

 

 考えているうちに龍斗はだんだんと混乱していった

 

 (だああああああ!考えてても仕方ない!そういうのは得意じゃないしな、今はともかくここは通れないってことでいいだろ!)

 

 無理に考えようとせずに、階段を諦めて、真っ直ぐに続く廊下を再び進み出した

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