四一話 ~処理~
どれだけ苦しい戦闘でも、終わるときはは案外あっさりと終わるもの。その戦法が暗殺に近い物ならなおさらだ
「……終わった、か」
そう言ってダメージを受けた箇所を摩る
「だろうな、首を切り落としたんだ。これで生きていられる人間はいない」
「……どうするの?この死体」
「燃やして埋めておこう。アンデッドにでもなられたら大迷惑だ」
もしも、アンデッドになられたら今度こそ手の打ちようがなくなる
アンデッドは脳も死んでるから大幅に体のリミッターが外れるからな。なのに何故か思考能力はなくならないと来る
つまりあの剣術がパワーを増して再び襲ってくるってことだ。思考能力はあるくせに会話は成立しないから挑発も意味をなさなくなる
今回の場合はまだギリギリで対応出来るぐらいのパワーだったからどうにかなったってだけだ。
リミッターの外れた状態で強力な技術を持つアンデットとやりあうとなったら、俺には死以外の道は残らない
「……それがいいかもね、これを含めて盗賊団の死体は全て焼き払いましょう」
「あぁ……。すまないな、ある意味で一番嫌な役目を押しつけて」
死体を燃やす、それはつまり人肉を焼くということだ。臭い自体は焼き肉とそうは変わらないのだが、それが人間だった物と知っていれば吐き気を催させるのは十分な情報だろう
そんな吐いてもおかしくない役回りを押しつけたのだ
「気にしないで、直接殺さないといけなかった貴方達よりはマシだから」
しかし、そんな俺をアンナは蔑むことをせず、寧ろ気を遣ってくれた。
「……でも自分で言っておきながらだけど、私だけじゃちょっと無理かもしれないわ」
「……まぁ、先ず魔力が先に尽きるだろうな」
「でしょ?せめて魔法が得意な人がこの場にもう一人いないと……」
……困ったな、俺達の中にアンナ以外で魔法が使える奴か……。そういえば……。いや、でもなぁ……
「……いるにはいる。頼むのにあまり気は進まないが」
龍斗はアンナと同じく無詠唱で魔法が使える。アンナを手伝ってくれれば確実に全て燃やし尽くすことは可能だろう
だが、それはかなりの精神的負担をかけるということだ。まだ高校生ぐらいの少年には耐えきれる可能性は低い
「……気が進まないって…なんでだ?」
モースの奴が疑問を挟む。二人は龍斗が魔法を使えるということを知らないから当然だ
「……龍斗のことだからだ。こいつはそもそも人間の死体に対する耐性がまだついてない」
「……リュウトって魔法使えたのか?」
「あぁ、殆ど無詠唱でな。以前イメージミスで滝のような水圧を打ち付けてたよ」
『殆ど無詠唱』だ。正確には無詠唱とは違う
あの時は軽く流していたが、本来は名称を口に出すだけで扱えるほど魔法は簡単ではない
アンナは完全に無詠唱で魔法を使えるが、それは一部の限られた人間……余程の努力をしてきたか、それこそ天才と言えるような連中だけなのだ
一応パソコンで例えるとするなら、詠唱は決められたプログラムを一から組む為の補助のような物だ
利点としては、適正があって詠唱さえ覚えれば、誰でも難なく使いこなせる。その上、詠唱を途中で変えればある程度の変化は容易に起こせる。欠点としては、やはり時間がかかること。
一方で無詠唱は完成しているファイルをコピーしてデスクトップに移動させるという物
利点は高威力な魔法でも瞬時に発動出来ることだ。しかし欠点として、ただコピーしたものを外に出しているだけなので、応用は利かせづらい
だが龍斗の場合はコピーではなく補助を抜いて、一瞬で一からプログラムを構築させるようなやり方だ
恐らくアニメやゲーム、小説等で培ったイメージのストックが多いからこそ出来る芸当だろう。特に小説は挿絵がない限りは自分でイメージを作るしかない
だからこそ、龍斗はイメージをすることに慣れているのだろう。欠点と言うべき欠点が存在しない。強いて言うなら、今は魔力が尽きやすいぐらいか
「まぁ分かりやすく簡潔に言えばな、龍斗は魔法に関しては天才的に向いてるんだよ。……何故かあまり使わないけどな」
「へぇ…クルスがそこまで言うなら、リュウト君って魔法は凄いのねぇ」
アンナが少しだけむっとした声に反応する。……まぁ、アンナは魔法についてはプライドが高いからな
「あぁ、レベルが上がって魔力さえ不足しないようになれば、この世界で最強の魔法使いになれるかもな。……勿論今はアンナの方が実力的には上だけどな」
一応、話題の最後にフォローも入れておく。別に龍斗を上げてアンナを下げているわけではないからな
「……いつか、リュウト君に魔法の勝負でも仕掛けてみようかしら」
「…アンナ。お前それは大人げないだろ……」
「いや、特訓という名目なら多分だが喜んでついていくと思うぞ」
何というか、龍斗は努力という行為に飢えている、理由は分からないがそんな感じがするのだ。本人から聞いたが、日本にいたときは色々と諦めてたらしい、その反動だろうか?
「そう?なら近々誘ってみようかしら」
「おう、そうしろ。龍斗には俺が伝えておく」
明るく話をしていた俺達だったが、龍斗を起こす為に気を引き締め始める
「……さて、そろそろ龍斗を起こさないとな」
「だな、……しっかりと謝ろう」
「そうね、リュウト君にはこのクエストは早いことを知ってて受けたんだもの」
アンナの言うとおり、俺は龍斗にはまだ早いことを知っていながらこのクエストを受けた
別に嫌がらせの為ではない。アイツが死なない為に必要だと判断したからだ
クエストを受ける前、言動で分かったがアイツは自分が『生物』を殺すことに慣れたのだと勘違いしていた。
この『生物』の中には「人間」や人の形をしている『魔物』も含まれる。龍斗は『生物を殺す行為』に慣れたのではなく、あくまで『モンスターを殺すこと』に慣れただけなのだ
これを放置しておけば、いつか一人で多数の人の形をした『魔物』もしくは、悪意を持った『人間』に襲われた時に、逃げることを選ばずに戦うことを選ぶだろう
するとどうなるだろう。……龍斗なら一人を殺すことなら容易に出来るかもしれない。しかし、その時目の前に出来た死体が精神にダメージを与え動けなくなる
俺達みたいに人を殺すという行為、そして死体を見ることに慣れたのなら戦うことが当然ながら最善だ。だが、龍斗のように中途半端に殺しに慣れた奴にとって戦闘は最悪手だ
理由はさっきの通り、人の形の死体は人間の精神に多大なショックを与える。それも動けなくなる可能性がある程の
多数に囲まれたまま動けなくなった者はどうなるか。当たり前だが、その末路には死があるのみ
俺は今回、中途半端に殺しと死体に慣れた龍斗に「今のままでは『魔物』と遭遇したら死ぬ」と教えるために、俺達なら龍斗が動けなくなっても危険を最小限に抑えられると思ってこのクエストを受けたのだ
……その結果がこれだ。俺達三人を含めて誰も死ぬことはなかったがそれは結果論だ。
今回のことは全員に非がある。モースとアンナが途中で龍斗がはぐれたことに気づいていれば……
いや、そもそも最終的には合流するのだから最初から俺一人で行かずに全員でアジトに侵入すれば、途中で龍斗がはぐれる可能性も減っていただろう
たらればの話が俺の思考を埋め尽くす。……だがいつまでも過ぎたことを悔やんでいても仕方がない。切り替えなければ
「あぁ、そうだ。いくらなんでもこのやり方は強引すぎた。……そのうち別の方法を考えないとな」
最後にそう言い残して、アンナに死体を焼き払ってもらうと俺達は龍斗の元へと向かって行った




