四十話 ~成敗!~
「見つけたぞ、騎士崩れ!」
「ほう、たった一人だけでこの俺様に挑んでくるとは……。随分となめられたものだ」
俺が何故、奴を一人で相手取ろうとしているかには当然理由がある。
「ハッ!これが一番いいと判断しただけだ。お前一人ぐらい俺だけでどうにかなるってな!」
こいつは余程プライドが高いのか、レベルの低い煽りをしてやるだけで、怒りで顔を歪ませていった
「雑魚が……!この俺様に楯突いたこと。直ぐに後悔させてやるよぉ!」
そしてそのまま、怒りに任せて俺に斬り掛かって来る。
すっかりと堕ちているが、やはり腐っても元騎士。冒険者の雑な剣技とは比べものにならない程に繊細で研ぎ澄まされた技が激しく俺に襲い掛かってきた
「ッ!実力は落ちてないってか!その力を自国の民の為に使おうと思わなかったのか!」
「民の為だぁ?下らねぇ、自分の力を好きに使って何が悪い?他者なぞ自分を楽しませる為の玩具だ、男は殺し、女は犯し。ガキ共には悲鳴を上げさせる。強者に許された特権だ!」
「ッ……ゲスが!」
奴の言動に、はらわたを煮え繰り返しながらもギリギリで斬撃の雨を防いでいく。……だが時間の問題だ、あと数十秒も続けていれば、俺の肉体はバラバラに刻まれているだろう
「おら、どうした!一人でどうにかなるんじゃなかったのかぁ?」
「なめるな、まだまだこれからだ。直ぐにでもその首を狩ってやるよ!」
視野を狭くさせる為に、動きを単調にさせる為に虚勢を張って更に挑発する。
「出来るもんならやってみやがれってんだ!」
「ッ……!楽勝だッ……!」
押されながらも何とか斬撃を捌いていく、何発か弾けずに剣が俺の体を斬ったが、少しでも手が止まれば俺の体は直ぐさまミンチ肉になるだろう
「ハハハ!何だやっぱり口だけか!ほら俺様の首を狩るんだろぉ?やってみろよ!」
「………………!」
不意に飛んできた打撃に、俺の体は壁に向かって叩き付けられた
「ッゥ!身体…強化か…!」
「あぁ、その通りだ。……最も、こんなことをしなくても貴様如き簡単に吹っ飛ばせるがな!」
「ウグッ!」
腹部に強烈なアッパーを受け、俺は天井の近くまで吹っ飛ばされ、背中から床に叩き付けられた
「ほら、どうしたどうした!貴様の実力はそんなものか!そんなものだろう!俺様に勝てる筈がない!」
痛みで立ち上がることが出来ず、俺にはその場で寝転がっているしかできない。しかし、奴にとっては絶好のチャンスだ
「鳴け!悲鳴を、苦痛を、断末魔を俺様に見せろおおおおお!」
醜い鳴き声を喚き散らしながら、俺に再び斬撃の雨を放つ
「チィッ…!」
なんとか、体を転がしながら、間一髪で避け、不可能であれば、剣を何とか振って斬撃を弾いていく
「フハハハハハハ!」
その場でなんとか立ち上がり、どうにか、相手の隙を窺っていく
「ガッ!グゥ!アァ!」
だがその間にも、俺の体には、防ぎきれなかった分のダメージが蓄積されていく。クソッ、いつ隙が出来――
「ハハッ!立ち上がったのはいいが……。もう喋る気力もないってかぁ!」
「!」
――そうか、ようやく気づいた。こいつの隙を!
「なら、じっくりと惨たらしく殺してやるよ、せめてそれで俺を楽しませて貰おう」
こいつは俺のことを完全になめきっている。だから、剣を振っているときに防御姿勢を一切とっていない。俺に捨て身の攻撃など無理だと高をくくっている。その態度が……
「ヒャッハアアアア!」
こいつの隙だ!
「ッ!――うおおおおおお!」
残像が見える程の斬撃を敢えて受けながら、俺は手に持っている剣で奴の顔を掠らせた。
すると、斬撃が止み、奴は自分の頬を摩った
「なん…だ。いてぇ……?」
今がチャンスと判断し、一気に踏み込む
「そこだ!」
奴の首を切り落とそうと、素早く剣を振るう……が
「クソがあああああああああ!」
首を少しだけ掠めたそのタイミングで、俺の攻撃は弾かれた
「チッ……!」
しくじったことに苛立ち、俺はその場で舌打ちをした。
「ざけんな!ふざけんな!俺が、この俺が!貴様のようなクズに、傷をつけられただと!」
「お前は俺のことを完全に見くびってたってことだろ」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ!こんなことが有っていいはずがないだろ!俺は、お前ら何かにダメージなんて受けるわけがないんだ!」
目の前の現実を否定するように、奴は俺に向かって剣を向けた
「貴様は俺様がこの手でぶち殺してやる。精々惨めに逃げ回ることだ!」
「悪いが殺されてやるつもりはない。だからといって、逃げ回るつもりも毛頭ない」
「抜かせ!」
言いながら、俺に向かって踏み込んでくると、再び斬撃の雨を俺に向かって放ってくる。……こいつ、これしか出来ないのか?
「食らいやがれええええええ!」
「ッゥ――おら!」
だが、斬撃の雨はもう攻略済みだ。弾かずに敢えて受けて、攻撃をたたき込めばいい
「いっ……死ねえええええええ!」
再び痛みを受けて頭に血が上ったのか、怒りに任せた攻撃が単純な物へと変化してきた
さてと……。後は、弾き続ければいい
「おら、死ね、死ね、死ねぇ!」
「動きが単調になってきたな。スタミナ切れか?それとも冷静さを欠いたか?元騎士なんて言っても所詮はこの程度か?」
「黙れえええええ!」
動きが単純になったからと言っても楽になるわけではない。怒りに任せた一撃は一つ一つが重く、ずっと受け続けていたらそのうち俺の持っている剣は確実に折れてしまう
「よく分かったよ、お前は俺に致命傷も与えられないような雑魚だってな。お前が騎士をやめたのも、きっと周りの奴らについて行けなかったからなんだろ?」
それでも、俺はこいつを挑発していく。『作戦』を完全な物にするために、とにかく認識を俺だけに向けさせる
「騎士ってのは厳しい訓練を受けてるらしいじゃないか。なのにお前は少し鍛えてる程度の冒険者を仕留めることも出来ないんだもんなぁ?それとも手加減してくれてるのか?駄目だよ本気ださないと、俺を殺せないぞ」
口角をつり上げて顎を上に向けながら、そのまま煽っていくと、血管が浮き出る程にキレているのが分かる。……このまま血管が切れて死んでくれたら楽なのだが
「それともアレか?本気を出してこのザマなのか?だとしたら相当のザ――」
「死ね!死ね!死ねええええ!」
怒りのあまり語彙力が低下してやがる。……ここまで挑発すれば俺を殺すことだけに全ての力を使ってくるだろうな。このままだと俺は一分後には死ぬだろう
そもそもだ、さっき自分で言ったが冒険者というのは精々が少し鍛えてるだけなのだ、厳しい訓練をこなしている騎士に何の前準備もなしに勝てるわけがない。
きっとこいつは逃げ出してきたんだろうが、それでもある程度訓練はこなしている筈だ。
三人で挑めば、攻撃が分散する為にまだ勝てるチャンスはあるだろう。こちらをなめきって本気を出そうとしていないこいつなら、なおさらだ
しかし、あるのはチャンスだけだ。確実に勝てるわけではない。アンナから支援魔法を思いっきり掛けて貰っているのにこのザマなのだ。
真っ向から堂々と掛かっても勝てる可能性は殆どない。精々0%が1%になるだけだ。そう、『真っ向』から挑めば……な
「死ね!死ね死ね死ね!死ねええええええ!」
……こいつさっきから死ねしか言ってないな。それだけ精神的に追い込まれてるわけか。少し言葉で煽ってやっただけなのにどれだけ惰弱なメンタルだよ……
作戦的には助かるけどな、俺個人としてはずっと受け続けてると押し負けて死ぬから、そろそろ『仕留めに』来て欲しい
「チッ……そろそろキツ――!」
ずっと弾き続けているうちに、とうとう俺の持っていた剣は刃が完全に壊れてしまった。……だが、もう大丈夫。ここまでくれば作戦は成功も同然
「フハ。フハハハハ!命運尽きたようだなぁ!」
俺のことをようやく殺せるといった確信に満ちた声と表情で目の前に奴は剣を振り上げる。……俺の命は後3秒って所か
「俺様をバカにした罰は地獄で償ってもらう!」
小物臭い二流台詞を吐きながら、その剣を振り落とし、そして
「死―――」
「……………!」
俺の首が落とされる寸前、背後からの『奇襲』によって奴の首が落とされた
戦闘前
「……如何にもここが最深部ですって感じだな」
「妙な形な椅子に悠々と座っている辺り、やっぱりあの騎士崩れが親玉か」
「みたいね、でも本当にここが最深部なのかしら?」
アンナが俺の最深部という言葉に疑問を挟む
「ああいう偉そうな奴は最深部で佇んでると相場が決まってるんだよ」
「……奥に何かしらの空洞が見えるわよ?」
「多分緊急脱出口かなにかだろ、これだけ大規模ならそれぐらいあってもおかしくはない。」
この洞窟は明らかに人工的なものだ。そこかしこに人の手が加えられているであろう跡が残っている
盗賊団の連中が、ここまで掘り進めていったのか、それとも元から何者かが掘ったものを盗賊団がアジトにしたのかは分からないがな
ひょっとしたらだが、人工的な物であるのなら、もしもの為に直ぐに外に出ることが出来る場所は必要だろう
「だからな、緊急脱出口ということ賭けてみよう。作戦はもう言わなくても分かるだろ?」
「あぁ、いつも通りだな。……あまり無茶はするなよ?」
作戦というのは、そこまで難しい物ではない。俺が囮になって、モースに敵の首を切り落として貰う。それだけだ。
「善処しておく。……じゃあアンナ、頼む」
そして、この作戦はアンナがいなければ成り立たない。支援魔法が使えるアンナがいなければ。囮も出来ないし、一撃で首を切り落とすことも出来ないからだ
「えぇ分かったわ。……絶対に死なないでね?」
「死んでたまるかよ。俺は少なくとも寿命までは生きていくぞ」
アンナにそう言い返し、支援魔法を掛けて貰う
「……信じてるわ」
「当然俺もな」
「おう、任せろ!」
二人の期待に応えるために、少しだけ声を張り上げて返答すると、モースに龍斗を渡して最深部へと足を踏み入れた




