三九話 ~脱獄~
十分後、こつ…こつ…と、地面を踏む音が、微かに聞こえてきた
(……来たみたいだな、よし、いつでも行けるように構えておいてくれ。但しバレないようにな。)
(任せておけ、看守が寄ってきた所で捕まえればいいんだよな)
看守が手の届く位置に来た瞬間、モースに手だけで何とか捕らえて貰う。
(あぁそうだ。鍵を持ってたらな。そこは俺が確認する。持ってなかったら次の看守が来るまで待つ)
(了解だ、お前の指示を信じる。一度失敗したら殆ど終わりだしな)
モースはそう言って手に力を込め始める
(俺はアンナと一緒にモースを手伝う。……三人で絞めれば確実に殺れるからな。それでいいか?)
(異論はないわ……。リュウト君はどうするの?)
(俺が背負っていくさ。一応、俺はこいつの先輩みたいなものだからな)
そうだ、龍斗はこっちに来てから初めて会った日本人だ。同郷だからって理由も少なくはない。
(そ、なら、責任持ってしっかりと背負っておきなさい)
(あぁ分かった、……見えてきたな。よし、各自位置に着け。目的を悟られないように)
二人に指示を出し、静かに息を殺し、目を閉じておく。……看守がバカでありますように……
一秒、一秒。小さな時間が重なっていくにつれ、こつ…こつ…と、音が大きくなっていく。
そして、音が聞こえなくなった。その瞬間――
「ハ…ハハ!無様だな、テメエら!いかに強力な冒険者といえど、檻に捕まってしまえば何も出来ないか――」
……あぁ、よかった。バカそうな奴でよかった。
「――その女を寄越せ、言うことを聞けば全員解放してやらんことも――」
看守の言葉を無視して、鍵を持っていないかを探る。……いや、探すまでもなかった。本当にとことんバカな奴だ
(モース、やれ。鍵はあいつが目に見えるように握りしめてるぞ)
(了解。……最後の確認だが、殺すか?)
(あぁ、やってくれ。目を覚ましたら面倒だ)
無視し続けたことに腹を立てたのか、看守は俺達の牢の至近距離まで近づき、そして――
「テメエら!聞い――!?」
看守が何かを言い切る前にモースが首を絞めた
「……俺等の都合で悪いが、死んで貰うぞ。お前等だって散々殺してきたんだから覚悟は出来てるだろ?」
「ッッッ!!」
モースの握力に、看守は必死にもがいているが、それもそろそろ時間の問題だろう
「あぁ…安心しろ。せめてもの慈悲だ。一気に止めてやるよ」
その言葉を皮切りに、俺とアンナも看守の首を絞め始める
「ッ~~!ッ~!――――」
そして、声にすらならない断末魔を上げると、グシャッという響くことのない音と共に看守は事切れた
「……やったか、っし!鍵回収だ」
「だな……。はぁ……、人を殺しても何も感じない自分が本当に嫌になる……」
「気に病むことはないわよ、やらなきゃいずれは私達が殺されてたでしょうしね」
亡骸の下半身から漏れ出る悪辣な臭気を無視して、手から鍵を引っ張り出した
「……と、鍵穴はこっからは見えないな、え~っと……ここか!」
牢の扉の裏側に手を回し込み、何とか鍵を差し込むと、かちゃんという小さな音が鳴った
「……開いたな、よし、クルス。リュウトを背負え」
「言われなくてもそうするさ。……先ずは奪われたアイテムを取り返さないとな」
「えぇ、このままじゃ碌に戦うことも出来ないものね」
俺達は、牢を抜けて、慎重にアジトの探索を開始した
数分間アジト内を探し回った俺達は、ようやく奪われたアイテムを発見した
途中で何回か盗賊の一員に見つかったが、非戦闘員なら武器がなくとも黙らせられた
「ひい、ふう、みい……。よし、全部揃ってるな」
「あぁ、途中で騎士崩れに出会わないか心配だったが……これで安心だな」
「幸運だったわね。あれに見つからなかったことも、アイテムが使われてなかったことも」
ホッと息を吐きながら、俺達は見つけたアイテムを素早くアイテムボックスの中に入れた
「後はあれを倒せば解決ね」
「いやいや、まだやるべきことがあるだろう」
「捕まった人達を解放しないとな」
あくまでもクエストの内容は盗賊団の壊滅だけだ。捕まった人達の救出は仕事に入らない。だが、それが助けない理由にはならない
たとえ、自分に何の得にもならないとしても、自己満足だとしても俺は助けたいんだ
「……えぇ、そうね」
それは、この二人もきっと同じなのだろう。何の文句も言わずに、手伝ってくれるのだから
「さて、その為にも先ずはアイツを倒そう」
「だな、当初の目的は達成できなくなったが、別に絶対今日やらないといけない訳でもないしな」
「その通りね、リュウト君には悪いけど……。いえ、今は彼にとっては良かったのかもしれないけど、今日は見送りにしましょう。大丈夫、機会はまだあるわ」
アンナの言うとおりだ、当初の目的はいつでも達成できる。何も今絶対やるべきことではないんだ
「あぁ、そろそろアイツを探すか、次は確実に仕留めないとな」
「捕まった人達が人質にされないうちに、速攻でな。厳しいかもしれないが三人で掛かればどうにかなる」
「見せてあげましょう。私達の力を」
三人で小さく円陣を組み、再びアジト内の探索を始めた




