二七話 ~勉強会?~
お待たせしました
宿屋に入ると早速アリスちゃんが迎えてくれた
「いらっしゃいませ、あ、リュウトさん来てくれたんですね!」
「来たよ、今日からここに泊まることにしたからこれからよろしくな」
「はい、よろしくお願いします!いつまでお泊まりになりますか?」
いつまでか……まだそこまで決めてないんだよな……基本的にはこの街にいるつもりだし……
「ごめん、まだ決めてないんだ。それに後からレニアも来るから……」
「あれ?レニアちゃんも来るんですか?」
アリスちゃんが驚いた様子でそう聞いてきた
「そうだよ、俺がここに泊まるって言ったら、じゃあ自分もって」
俺がそう言うとアリスちゃんは後ろを振り向いた。どうしたんだろうか?
『……そっかぁ、レニアちゃんって初心なのにそんなに大胆な行動に出ちゃったのかぁ……』
……なにか言ってるようだがあまりにも声が小さくて何を言ってるのか俺には聞き取れなかった。
「どうしたの?」
「何でもないですよ、そういうことならレニアちゃんが来るまで待ちますね。……あ、関係ないですけどリュウトさんはレニアちゃんのことをどう思ってますか?」
……なんでそんなことを聞いてくるのだろうか。少なくとも悪い感情は抱いてないが……
「とにかくいい子だと思うよ、何故だか分からないけどあいつのことを守りたいって思ってる」
マイに言われたからっていうのもあるかもしれないけど、どちらにしてもこの気持ちは俺自身の物だ。あいつを傷つける奴は許せないと思う
「……そうですか、じゃあしっかりと守ってあげてくださいね?」
「勿論だよ」
レニアはこっちで出来た初めての友達だからな!友達のことは守る!当然のことだろ?……というかさっきから修助さんが空気なきがするんだが……
「話は終わったか?それならそろそろ始めるからこっちに来いよ」
空気とかじゃなくて会話に割り込まないように気を遣ってくれていた様だ、……大人だなぁ。俺ならどうしても割り込みそうになるし
「あ、お帰りなさい、クルスさん。始めるって何をするんですか?」
「おう、帰ってきたぜ。……龍斗とレニアに文字を教えてやろうと思ってな。」
「あ、それならこの時間にお客さんは滅多に来ませんので、レニアちゃんが来たら私もお手伝いします。……取りあえずリュウトさんに先に教えておいても良いと思います」
そうか、アリスちゃんも手伝ってくれるのか。ありがたいな。……今のこの子は何か企んでいる様にニヤついているが、それはきっと気のせいだろう……
「……確かにそっちの方が都合がいいな、そういうわけだから来いよ」
え?都合がいい?なんでだろう。
「都合?どういうことですか?」
「嬢ちゃんが来たら、お前に一番分かりやすい方法が出来なくなるからだ」
なんでレニアがいたら一番分かりやすいことが出来なくなるんだ?
そんなことを考えながら俺達は入口の近くにある椅子に座った
「よし!それじゃあ今から教えるぞ。書いてやるから先ずは暗記しろ」
……暗記なんてその場しのぎだろう。テストの前によく暗記とかはしていたが、大抵テストを終えたら頭から全て抜け落ちる程度の効果しかないだろうに……
「あの?ちょっとすみません。暗記なんてやっても直ぐに抜け落ちるのでは?筆記テストとかいい例だと思うんですけど……」
「はぁ……お前なぁ、そりゃあテストなんてその場しのぎでいいだろ。それに抜け落ちるのは終わった後に今まで覚えた知識を全く使わないからだ。全く使わないならそりゃあ抜け落ちるに決まってる」
……確かに一理ある。でも覚えてもやっぱり忘れる気がするんだよな
「……例えばの話だが…お前は音楽とかは好きか?」
音楽?……まぁ好きだな、アニメ限定だが
「アニメの曲とか大好きです、カラオケにも友達とよく行ってましたし」
「じゃぁ簡単だ、お前はその曲のことを忘れるか?」
いや、好きな曲はよく口ずさむし、なにより何回も聞くから忘れないと思うが……
「いえ、忘れないですね。好きな曲は口に出すことも多いので」
「その曲を覚えるには過程として何をする?」
何をって……そりゃあ暗記を……あ
「分かりました、文字みたいに日常的に使うものなら忘れることは先ずないわけですね」
「そういうことだ」
冷静に考えれば直ぐに分かることなのに、なんで俺はこの考えに至らなかったのだろう?
「で、お前に一番効果があるって方法だけどな……俺、日本人。お前、元日本人。これでだいたい分かるだろ?」
……あぁそういうことか
「つまり……今から書く文字にひらがなの振り仮名を書くってことですか?」
「正解だ、だから嬢ちゃんがいたら出来ない方法なんだ」
なるほど、それなら納得だ。レニアは元からこの世界の人間だ。なので当然日本の言葉なんて分かるわけがない。
「そして、これがこの世界の文字だ」
そういうと修助さんはこの世界の文字を見せてくれた。……しっかりと=の右にひらがなを添えて
「ぐ、ぐちゃぐちゃでよく分かりません」
「おい、俺の文字がぐちゃぐちゃみたいに言うな」
……確かに今の言葉じゃ修助さんの文字が汚いみたいに聞こえるな。一応弁解すると修助さん自身の文字は結構綺麗だ。
「よく見れば分かるとは思うが、ひらがなやカタカナを崩したような字、もしくはひらがなとカタカナをくっつけて崩したような字がこっちの世界の文字だ」
……確かに言われてみるとそんな感じがする。でもところどころ分かりにくい、何故なら
「……よく似た文字が何個かあるんですけど」
「ずっと使っていれば慣れるから頑張れとしか言いようがないぞ」
「……ですよね~」
はぁ…仕方が無い、今から頑張って暗記をすることにしよう。相当頑張れば一週間ぐらいで覚えられるさ!俺なら出来る!
こうして暗示を掛けながら、文字を見ること約30分程……取りあえず『か行』までは何とか覚えた時だった
「お待たせ~許可とれたよ~」
ようやくレニアが宿屋に到着した。どうやら許可を取るのにかなり時間が掛かったらしいな。
「いらっしゃいレニアちゃん、……ちょっと話があるからこっちに来て」
「え?何?というか来てとか頼みながら無理矢理引きずってない?離してええええええええええ!」
レニアは到着して直ぐにアリスちゃんに連行されていった。何を話すつもりなのかは俺には検討もつかない
「……修助さん、あの二人は何を話しているんでしょうか?」
「知るか、俺に聞くな。取りあえずお前は嬢ちゃんが戻ってくるまで一文字でも多く覚えておけ」
……それもそうか、今は余計なことを考えている暇があるのなら文字を覚えないとな
う~ん、か行までは覚えたわけだし今度はさ行を覚えないとな
俺がそんな風に必死に暗記して、書いていると、だいたい5分後?ぐらいに二人が戻ってきた。……昨日と完全に同じ構図で
「レニア?顔赤くしてどうしたんだ?」
「な、なんでもないよ!?リュートには関係ないことだからね!」
(まぁ、関係ないことはないんだけどね。……それにしてもこの人も鈍いなぁ。こんなに分かりやすく反応してるのに)
レニアは必死になんでもないと言い繕っているが、アリスちゃんは何故だか俺のことを呆れているように見ている
「……アリスちゃん?何で呆れた目付きで俺のことを見てるの?」
「何でもないですよ?気のせいです」
……気のせいってことにしておいたほうがいいな、これは。
納得はしていないが取りあえず詮索はしないことにした。……色々面倒くさくなりそうだし
「はい、それじゃあレニアちゃん?今から頑張って下さいな!」
「え、ちょ、そこまで強く押すとは言ってなかっ……」
アリスちゃんはレニアを突き飛ばすように背中を押した、その反動でレニアは俺の体へ崩れ落ちる様な形になってしまった。
「っ!危な!」
俺はレニアが倒れそうなところを見て何故か反射的に体が動いた。しかも日本にいた頃には考えられなかったような反応速度でだ
「!?リュ、リュート!顔が近っ……」
咄嗟に体が動いたことに自分でも驚いているが、今はレニアが倒れるのを防ぐのが先だ。……確かにレニアの言うとおり顔が近くて恥ずかしいがそんな場合ではない。
俺は倒れそうになっているレニアを腕で引き寄せて、倒れることのないように自分の体でしっかりと固定した。……なんでこんなことが出来るんだろうか。……まぁいいか、何事も出来るに超したことはないし。それよりも今は
「だ、大丈夫だったか?」
レニアが怪我をしていないかの確認が先だ
「う、うん多分大丈夫。ありがとう」
よかった、どうやら怪我はしていなかったらしい。しかしレニアの顔を見ると赤くなっている……多分俺も赤くなってると思う。……そりゃあこんなに顔が近いとね。
ふっとアリスちゃんの様子を見てみると焦っている様に感じた、……どうやら少しだけ強く押したつもりが力の調整を間違えたらしい。
「レニアちゃん!大丈夫だった!?ごめん勢い余って思ったよりも強く押しちゃった!」
「だ、大丈夫だよアリス……リュートが助けてくれたから……」
レニアが一言そういうとアリスちゃんは安心したのか、大分落ち着きを取り戻していった
「よ、よかった~……リュウトさんもごめんなさい。大丈夫でしたか?」
俺に対しても謝ってきたが、レニアが気にしてないなら俺にも特に怒る理由もない。
「大丈夫大丈夫、これぐらいで怪我なんてしないって。それにレニアも気にしてないみたいだしな」
「いえ……私が気にしてるんです。なので何かお詫びをさせて下さい」
……お詫びって言われてもなぁ。実際のところ俺は本当に気にしてないわけだからなぁ。でもしたいっていうならそうだな……
「……じゃあ何かお得なサービスとかないかな?あったら教えてくれたら嬉しいんだけど」
「……それだけでいいんですか?……そうですね、一つの部屋を二人で使うと半額になるサービスならありますが……」
それ半額っていうか一人分の値段になるだけじゃないか?……まぁいいか
「つまり俺には関係な」
「はい!それならボクが一緒の部屋を使う!」
……この子は何を言っているんだろうか。流石に男女が同じ部屋で寝るのはまずいだろ……レニアのお父さんにマジで殺されかねん
「いやそれは流石にまず」
「いいと思いますよリュウトさん、料金が半額になるんですし」
あれ?なんかもう俺の意思とか関係なくなってね?正直女の子と一緒の部屋で寝るとか恥ずかしくて寝れなくなりそうなんだけど……
「……レニア?本当にいいのか?」
「大丈夫。一応ベッドは別々だから」
そういう問題ではないと思うんだが……というか許可って何日分取ったんだよ…ここに二人で泊まったらレニアは暫く家に帰れなくなるぞ
「いや、でも…お前はいったい家の人に何日許可取ったんだ?」
「何日でもいいってさ。お母さんは直ぐに許可をくれたからお父さんに無理矢……じゃなくて二人には穏便な話し合いで許可を取りました!」
今無理矢理って言いかけたよこの子、レニアのお父さんはいったい何をされたんだろうか?
「そ、そうか。……うん、もうお前がいいなら俺からも特に言うことはない……多分」
もう説得するのも面倒くさくなってきたし、それに宿泊代が安くなるならいいか。……レニアのお父さんのことはもう考えないようにしておこう
「……三人とも話は終わったか?終わったなら今すぐに再開するが」
さっきからずっと空気を読んで喋らなかった修助さんがそう言ってきた。……また待たせちゃったなぁ
「待たせてすみませんでしたクルスさん。話は終わったので今すぐに再開しましょう。レニアもそれでいいか?」
「勿論だよ、でももう始めてたみたいだしついてこれるか少しだけ不安かな」
まぁ当然だろうな、どんな人だってやったことのないことは出来ないしな
「あぁ、安心しろ。しっかり最初から教えてやるからな。龍斗、お前もそれでいいだろ?」
「はい、異論はないですね。俺だっていきなり途中からやられると困惑しますし」
「ならいい。……ではこれより文字の勉強を始める。分からなかったら直ぐに聞くように!返事は?」
「「はい!」」
こうして俺達の勉強会が始まった。と言っても俺は『か行』までは覚えられたのでそこまでは俺もレニアに教えながらやったわけだが。
たしか人に教えると自分も更に覚えやすくなるってどこかで聞いた気がするし一石二鳥だな。
それから1時間程で勉強会は終了した。……うん、やっぱり異世界語は難しいな。思ってたよりは覚えられたけど。
勉強会が終わったら俺とレニアは直ぐに受付を済ませて部屋に向かったのだった。




