二一話 ~返り血を洗った結果~
「お前は途中から楽しそうに笑っていたんだぞ」
……え? 冗談だろ?俺は別に楽しんでなんてないぞ?
「……俺としては無表情で淡々としてたつもりなんですが」
「嘘じゃない、本当だ。さっきのお前の楽しそうな笑顔には狂気すら感じたぞ」
……この様子だとどうやら本当らしい。なんでだろう、生物を殺すということを休みなくやってたから心の防衛本能でも働いたか?
それとも本当に俺は狂っていたのか?……あり得ない。殺しなんて楽しいものじゃない。それに俺は普通の人間だ、狂っているなんてあるはずがない。ずっと殺し続けて病んだだけだ。
……そういうことにしておこう。そうじゃないと俺は狂人だってことになる。殺しを楽しむなんて頭がおかしいにも程がある。
「そうですか……」
「なぁ、本当に慣れたのか?連続で休む暇もなくモンスターを殺してたから途中で病んだだけなんじゃないか?」
「そうかもしれません、正直自分でもそう思ってました」
これじゃあ本当に慣れたかは疑わしい。だが確かめようにも、少なくともこの周辺にはもうモンスターはいない。
「なら、そのうち確認はしておくか。慣れたつもりっていうのが一番マズいからな」
「……そうですね、早い内に確認しておかないと。病んでただけだったら、次からが問題になりますし」
これは生死に関わる問題だ。慣れていなかった場合、次の戦闘が駄目だ。……それでも数をこなした分最初よりはマシになってるとは思うが。
「あの……出来れば次の確認の時も着いてきてくれると……」
「そこは当然だ。先輩として後輩の面倒は見てやるよ」
……いつの間に修助さんは俺の先輩になったんだろう。まぁいいか。実際そんな感じだし。
というかさっきからレニアを見かけないんだけど……
「……ところで、レニアは?」
「あそこの木の陰にいる」
そう言って5メートル程先にある木を指さした
彼女は修助さんの側にいた筈なのになんでだろう?……いや、理由は明確か。
俺は木の陰で少しだけ隠れているレニアに足早に近づいた。
「……レニア?大丈夫か?」
「だ、だだ大丈夫だよ?、それよりもリュートが無事でよかったなって思ってるきゃりゃ」
……うん、大丈夫じゃないなこれ。言葉を噛んでるし、よく見たら目に涙も浮かんでいるし、それに声だって少し震えている
「無理しなくていいんだぞ?思ったことを言ってくれればいい」
「む、無理なんてしてないよ?本当だよ?」
レニアは本当に優しいな。きっと怖いって言って俺に傷ついて欲しくないんだろう。でも、こうやって無理される方がよっぽどキツい
「レニア、俺は何を言われても大丈夫だから。それよりも本音を聞かせてくれ。覚悟は出来てる」
俺がそう言うとようやく正直に話してくれた。
「う、ごめん、本当はリュートが楽しそうにモンスターを殺してるところを見て少しだけ怖いって思っちゃった……」
やっぱりか。結構ショックだけど当たり前だよな……
「謝らなくていい、俺だって友達がさっきと同じ状況でさっきの俺と同じような表情してたらトラウマになるし」
どんな風に笑っていたかは分からない。それこそ幼い子供の様に無邪気に笑っていたのかもしれないし、まるでゲームをしているかのように笑っていたのかもしれない。
「………本当にごめん」
「だから気にすんなって、謝るのはむしろ俺の方だ。随分と怯えさせてしまったようで悪かった。」
少なくとも彼女には謝るべき理由はない。悪いのは俺なんだから。
「取りあえずはクルスさんの所に戻るぞ。直ぐ近くだけどな」
「うん、そうだね!」
元気が戻ったようでなによりだな!
俺達は修助さんの所に
「クルスさん!話は終わりました。これからどうします?」
「……何もすることないぞ?早い内にモンスター殺しに本当に慣れたか確認した方がいいとは思うが、今は嬢ちゃんがいるしな。ここよりも深い所に行くのは危険だ」
「……ごめんなさい」
レニアが申し訳なさそうに修助さんにそう言った。
「いや、別に嬢ちゃんは悪くないぞ。いてくれた方がこいつも張り切るだろうからむしろ助かる」
そりゃあ張り切るよ。レニアのことを守りたいんだし。でもやっぱり街にいてくれた方が精神的に楽だとは思うけど。
「で、龍斗。次は何がしたい?」
「一旦街に帰ってクエスト受けてみるっていうのは?」
「……慣れられたかの確認的にもそれがいいかもな、だが街に行く前にお前に伝えたいことがある」
伝えたいこと?なにかな?
「……先ずはその大量の返り血を洗い流そうぜ」
今着てる服を見てみると酷い有様だった。確かにこのままじゃ街には戻れないわ
「あぁ確かにそうですね。でもこの辺に水なんてないですし……」
「……魔法で水を出せばいいだろう。せっかく全属性に適正があるわけだしな」
その手があったか。えっと、イメージイメージ。取りあえず確実に血が洗い落とせるような、これでいいかな?
「ウォーターフォール!」
……いやちょっと待て。なんで俺は真っ先に滝をイメージしてしまったんだ。シャワーとかもっと別の手段あったよね!?……でもシャワーじゃ落ちる保証もないし強い方がいい気はするが…あれ?頭上になんか妙な捻れが……
「痛い痛い!溺れる!溺れる!」
どうしよう。マジで滝のような水が出て来たぞ!止めないとマズい!……どうやって止めるんだこれ!
「あ、止まった」
結構早く止まったな。……返り血は落ちたけど代わりに服がびしょ濡れになったな。
「「……………」」
あれ?二人とも黙り込んじゃった。……よく見たら二人も濡れてるんだけど。
「……どうするんだよこれ、全員思いっきり濡れたじゃねぇか」
「……服脱いで乾くの待ちます?」
「ボクは絶対に脱がないからね!」
どうしよう、マジでどうしよう。また魔法使うか?
「……魔法でたき火起こして、その近くに服を置いておけば直ぐに乾くかな?」
「それだ、俺が適当に木材集めてくるからお前らはそこで待ってろ」
「はい!分かりました」
「無視しないでよ!ボクは脱がないって言ったよね!?どうして手段が脱ぐ前提なのさ!」
……他にいい手段が思い浮かばなかったからしょうがない。
「覚悟を決めろ。乾かすにはもうこれしかない」
「……分かったよ。でも脱いでる間は絶対にこっち向かないでね!勿論乾かしてる時もだよ!」
「当然だろ。流石に女の子が裸同然になってる姿を見ようとするほどゲスくはないぞ、俺は」
「……それならいいけど」
……正直言うと俺も男だし見たいとは思うが、本当に言うと嫌われそうなんで口に出すのはやめておく。
「でも一応そう言ってみたけどボクの貧相な体なんて誰も見ないだろうけどね……」
レニアはそうやって自嘲するように言った。
「いや!俺は得するぞ!」
おい待て!俺はいきなり何を言ってるんだ!?
「!?」
ほら!レニアが完全に驚いてるじゃねぇか!
「これはあくまでも俺の意見だが、貧乳のいいところというのは、それを気にしてるその表情があるな。……そういう意味ならレニアのその反応は個人的に点数が高い」
「ねぇ、リュート!?何言ってるの!?」
……本当に何を言ってるんだろうか俺は。しかし俺の口は相変わらず勝手に動く
「さらに背負ったときには普通以上あればなにかしらの柔らかい感触が背中に感じるだろう。……貧乳にはそれがない!だがそれが逆に良い!背中に胸が触れるかか触れないかの瀬戸際!最高だろ!」
ちょっと待て!体験したこともないことをなに平然と語ってるんだ!これじゃまるで変態じゃねえか!
「………………」
……どうしよう、レニアが俺のことをまるで汚物でも見るかのような目で見ているんだけど。俺は別にドMじゃないし全然嬉しくないんだけど!
「それに……グベォ!」
無言でみぞおちに一撃食らったぞ。でもお陰で口は止まったな……
「………変態」
「悪かった!なんか口が勝手に動いたんだよ!殴られたお陰で収まった!ありがとう!」
「それはどういたしまして!口が勝手に動いたにしてもさっきのは流石に酷いと思うよ!」
……本当に酷かったな。なんかこっちに来てから口が勝手に動き出すことが多い気がする
「正直さっき楽しそうに笑ってた時よりも今の方が怖かった!」
「……マジか」
「「……………」」
気まずい雰囲気が続いている。どうやってこの雰囲気を吹っ飛ばそうか考えていると
「おーい、木材集まったぞー。……どうした?」
修助さんが戻ってきた。
「……実はですね」
修助さんが戻ってくるまでのことを話した。
「……100%お前が悪い」
「ですよね……一応謝りはしたんですが」
「……とっととたき火起こすぞ。いつまでもこの雰囲気って訳にもいかないしな。……今回は調節間違えるなよ?」
「……気をつけます」
多分だが調整ミスったら全員火だるまになるだろう。……ライターの火でいいかな?
「よし、木材ここに置くぞ。……嬢ちゃんはいつまでもむくれてないで機嫌直せって」
「……………」
「はぁ…機嫌は直らずか。よし、龍斗。火をつけろ」
「了解です」
木材に火をつける、今回はうまくいった。ライターのイメージにしては強い気もするが。
「取りあえずは成功だな。よし、それじゃあ服脱ぐぞ」
「………二人とも、絶対にこっち見ないでね、特にリュートは」
凄い警戒されてるなぁ。まあ当然か
「分かってる分かってる、見ないから安心しろ」
見るつもりはないけどたまたま視界に入ってしまったのなら仕方ないよな?
「……ならいいけど」
俺達は服を脱いだ。……一応言っておくが、しっかり下着は身につけてるからな!流石に下着も脱いだらさっきみたいにゲスな考えはしないからな!
「………暇だ。服乾かしてるだけだしなんもすることない。かといって目を離してると服が燃える可能性もあるし。どうしよう」
「三人で何か話でもすれば時間潰れるだろ」
「そうですね。でも何を話せばいいんでしょうか?」
なんだかんだでこのメンツは昨日出会ったばかりな訳で正直どんな話があるかよく分からん。
「取りあえず龍斗は嬢ちゃんと仲直りしたらどうだ?」
「……そういうのは顔合わせないと駄目でしょ。それにさっきレニアにはこっち見るなって言われたじゃないですか」
「何度も言ってるけど服を着るまでは絶対にこっち見ないでね!」
……なんか全く信用されなくなった気がするんだけど
「そこまで念押ししなくても振り向かないって……俺のこと信用してくれてないのか?」
「………信用してない訳じゃないよ、だって恥ずかしいもん」
信用はしてくれてるようだ。それにしても恥ずかしいからねぇ。まぁ当然だよな、基本的に男子は恥ずかしいとは思わないけど、女子はそう思うよな。……偏見かもしれないけど。
「そっか、それは確かに念入りになるよな。……よし俺は絶対に振り向かないから安心しろ!」
「あっ」
「っ~~~~~~!」
あれ?顔真っ赤にしてどうしたんだろう?……待て、なんで俺はレニアのことが視界に入ってるんだ。あっ、そうか、勢い余って思いっきり振り向いたのか。ヤバイ。
「待ってくれ、落ち着いてくれ。これは違うんだよ。勢い余っただけでやましい気持ちなんて欠片もないんだ。お願いだ信じてくれ。やめてくれ、にじり寄ってこないで、めっちゃ怖いから」
目が怖い!というかよく見たら拳を握りしめてるんだけど!
「先ずはその拳を開こう、ほらそのグーをパーにしよう。やめて下さい!拳を振り上げないで下さい!いいのか?それで俺を殴ったら手で隠してる下着が見えるんだぞ?ていうかそれは手で隠せてるのか?俺が100%悪かった!許して下さいお願いします」
「っ!」
あ、拳を納めてくれた。許されたかな?
「……服が乾いたら覚悟してね?」
許されてなかった。これ服乾いたら殴られる奴だ。……服が乾くまでに忘れてくれないかな。
「お前……勢い余ったとはいえ今のは流石に……」
修助さんにも軽く引かれてるんだけど。
「……わざとじゃないんだよぅ。信じてくれよぅ」
今は自信を持ってこう言おう、今の俺は最高に情けないと!
「……わざとだとは思ってないけど、見たよね?ボクの下着姿完全に見たよね?」
……見たよ。女の子の下着姿とか初めて見たから脳に焼き付いたよ
「……かわいい下着だったな」
レニアがつけてた下着は所謂シンデレラバスト?って奴だった。種類あってるかな?流石に女性用の下着の種類なんて詳しくない。もし詳しかったら通報ものな気がする
「反省してないよね?」
「してます」
「してないよね?」
「海よりも深く、空よりも高く反省してます。ただ人には伝わりづらいだけです」
「……謝罪は相手に伝わらなかったら意味がないんだよ?その辺理解してる?」
……怖い。マジで怖い。見てるだけでも怖かったけど自分が食らうと更に怖い
「すいませんでしたァ!」
謝罪の意を表すために土下座をしました
結果?……許してはくれたけど服を着てから直ぐにみぞおちにクリティカルが入りましたがなにか?




