二時間目を待ちながら(39)
ある日。二時間目を待ちながら。
千秋が冬菜の所にやってきました。
「おはよう……」
いつもより千秋の元気がありません。目の下にはクマも出来ています。
「あら、千秋さん。おはようございます。どうしたのですか? なんだか疲れているみたいですけれど」
「昨日、あまり、眠れなかった。アイツの、せいで」
「アイツ?」
千秋はコクリと頷きます。
「アイツってもしかして、あの黒くて羽の生えた、見ただけで、いいえ! 想像しただけでもゾッとする、あの『G』で始まる生き物の事ですか?」
冬菜は寒気を覚えながら言いましたが、
「何、ソレ?」
「え?」
違ったようで冬菜は体の力が抜けました。
「ゴキブリじゃないのですか?」
「違う。なんで、まわりくどい、言い方したの? あれは、もっと、手に、負えない」
「手に負えない? 千秋さんが手に負えないもの? ま、まさか!?」
冬菜の背中に再び悪寒が走りました。
「で、出たんですか? 夜中ですよね?」
「全く。どうしろ、って、言うのよ」
「そ、そうですよね! びっくりしますよね? わ、私だったら怖くて気がおかしくなってしまいます! 絶対、お、お祓いしてもらった方がいいんじゃないですか?」
「お祓い? 駄目。だって、アイツ、巫女だから」
「み! 巫女さんの幽霊なんですか!? そ、それは、なんだか厄介そうです!」
「幽霊?」
「え? 違うんですか?」
「この際、幽霊で、いいか」
冬菜は焦りながら言いました。
「冗談なのか本当なのかわかりません!」
「義理の、姉」
「え? お姉さん?」
「神社の娘。まだ、新米。昔から、変な人。突然・・・・・・『悪霊がいるんだけどどうしたらいい? やっつけた方がいいかな? でもやられたらどうしよう? 一緒に戦ってくれる?千秋ちゃん、強いでしょ? 剣道強いよね? 一緒の戦って~! お願い!』と、言う感じ、だった」
話の内容よりも、普段たどたどしい話し方の千秋が、義理の姉の台詞をものすごく流暢にしゃべった事に冬菜は驚きました。
「しゃべれるのですね、千秋さん。驚きました」
「人が、しゃべれない、みたいに・・・・・・。でも、つい、力が、入って、しまった」
「お姉さん、巫女さんなんですね。かっこいいじゃないですか」
「あの、姉は、格好悪い。年上、なのに、極端に、ビビリで」
「そうなんですか?」
「昨日も、さっきみたいな、感じで、真夜中に、起こされた。悪霊が、いるんだけど、どうしたらいい、って」
「って、さっきから悪霊、悪霊って、お姉さんは本当に見える人なんですか!?」
冬菜は固まりました。
「もう、夜中に、泣き付かれて、大変」
「そ、それから、その悪霊は、ど、どうしたんですか? お祓い出来たんですか!?」
「悪霊? そんなの、いるわけ、ない」
「でもお姉さんには見えるんですよね? じゃ、もしかして本当にいるんじゃないですか!?」
「昔から、そんな事、言う、変な、姉だから。じゃ、そろそろ、戻るね」
冬菜はなんだか腑に落ちない様子で固まったままでした。
「あっ、それから」
千秋が突然振り返って話したので、冬菜はビクッと驚きました。
「な、なんですか? こ、怖い話ならもう十分ですが・・・・・・」
「じゃ、いい」
戻ろうとする千秋の腕を、冬菜がつかみました。冬菜は少し涙目でした。
「や、やっぱり教えてください! 気になります!」
「どっち?」
「き、聞きたいです!」
「先生が、今日は、来客が、あって、車が、よく来るから、門を、飛び出さないように、友達にも、伝えて、おいて、って」
「私が聞きたいのは、そういう怖い話じゃありません!」
「勝手に、期待、しないで……」
二時間目開始のチャイムが鳴りました。




