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二時間目を待ちながら  作者: 白上 しろ
34/45

二時間目を待ちながら(34)

 ある日。二時間目を待ちながら。


心春が夏海の所にやってきました。

「ねぇねぇ、夏っちゃん。この前の休みにね、道を歩いていたら案山子を見たんだけど、 本物の人間かと思うくらいリアルに出来ててびっくりしちゃった」

「リアルな案山子か。夜中に見たらもっとびっくりするやろな」

「うん。もう、後ろ姿なんて畑仕事をしているお姉さんだよ」

「女の人の案山子やったんや?」

「うん。床屋さんで見かけるようなマネキン顔だったよ。でも服装は男性用だったと思う」

「ふーん。思わず話しかけたとか?」

「そんな事しないよ。なんだか人間じゃないなっていう感じもあったし、少し遠かったし」

「話しかけたったら良かったのに。薄情やな」

「なんで?」

心春が言うと夏海は悪戯っぽく笑いました。

「でも、なんか、うち男装する女性ってちょっとかっこええなって思ってしまうな。宝塚みたいやん」

「今度見に行ってみる?」

「え? 見に行くの?」

「うん。案内するから」

「え? 心春、宝塚に行ったことあるの?」

「案山子の話だよ」

「そっち?」

夏海は途端に拍子抜けたように言いました。

「いいよ、別に。案山子には興味はないから」

「そう? すごくリアルだったよ。かっこいいかどうかは分かんないけど」

心春はクスクス笑って言いました。

「かっこよくはないやろ。だれが案山子に向かって『きゃー、かっこいい』とか言うねん」

「夏っちゃんを除いて?」

「うちも言わへん! 勝手に役割分担を決めるな。でも心春がバイトで案山子をするんやったら、優しいうちが声くらい掛けたるで」

今度は夏海がいたずらっぽく言いました。

「案山子のバイト?」

「そう。一日中、畑で動かず立ってる」

「無理だよ! きついよ! それ」

「心春やったら大丈夫や。一日ぼーっとしてるだけでええんやで? 得意中の得意とちゃうか?」

「ご飯もトイレにも行けないよ」

「その時は違うバイトの人と交代や」

「何人いるのよ!」

「千秋あたりがええんとちゃうかな? 時々見に行ったるで」

「いいよ。夏っちゃんが来ても冷やかしだろうし。そんなバイトはしないし。そもそもバイト自体無いだろうし」

「おっ、今日も張り切ってるな。案山子のバイト。だいぶ板に付いてきたな。心春か案山子かもう見分けがつけへん、って褒めたるのに」

「全く嬉しくないですから」

「ま、でもバイト中に話したら怒られるか」

「そうだよ、って違うよ! そもそも誰に怒られるの? 誰かいるなら、私いらないでしょ? じゃなくて、案山子いらないでしょ?」

二人が話していると千秋がやってきました。

「おっ、千秋。話をすれば来たな」

「おはよう。ちーちゃん」

「何の、話?」

夏海が説明しました。

「案山子の話してたねん」

千秋はいつもの無表情で聞き返します。

「案山子?」

「うん、そうなの。聞いて、ちーちゃん。夏っちゃん、ひどいんだよ!」

「まぁまぁ、そう怒るな。冗談や」

怒る心春に夏海は笑いながら言いました。

「案山子、と、言えば」

千秋が話を始めましたが、突然、黙り込んでしまいました。

「どうした千秋? 案山子、と言えば?」

「うん。案山子と言えば?」

二人は興味深そうに聞きました。再び沈黙の後、千秋が言いました。

「いや、あれは、絶対、本物だった」

千秋は独り言のように言った後、わずかに俯いていた顔を上げて

「じゃ」

千秋は自分のクラスに戻って行きました。夏海と心春はキョトンとした表情のまま動きません。

「なんや? 何が本物やったん?」

「なんだろう? 気になるよね?」

そこに冬菜がやってきます。

「あの、夏海さん? 心春さん?」

冬菜が話しかけても夏海と心春は動かず反応がありません。まもなく、二人は冬菜に気がつきました。

「あれ? ふーちゃん。おはよう」

「あっ、おはよう、冬菜」

「おはようございます。よかったぁ。お二人とも気がついてくれて。でも、どうしたんですか?」

「あっ、ちょっとな。そんなにうちらボーっとしてた?」

「ちーちゃんが謎の言葉を残して去っていくから、何だろう? って思って」

夏海と心春が照れ笑いしながら言いました。

「うふふ、お二人とも全く動かないので、まるで時間が止まったみたいでしたよ?」

冬菜が微笑みながら言うと、夏海が苦笑して頷きます。直後、いきなり大きな声で言いました。

「違う! そこは『案山子みたい』って言う所やん!」

心春も慌てて言いました。

「ふーちゃん! 話の流れ的に『時間が止まったみたい』じゃなくて、『案山子みたい』だよ!」

「えっ!? えっ!?」

突然二人にツッコまれ、冬菜は案山子みたいに固まってしまいました。


二時間目開始のチャイムが鳴りました。


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