二時間目を待ちながら(32)
ある日。二時間目を待ちながら。
冬菜が心春の所にやってきました。
「あの、心春さん。聞いてください。昨日、私、怖い夢を見たんです」
「夢? どんな夢だったの?」
「あの、すごく怖い夢なんですが、聞いてもらえますか?」
「そんなに怖い夢だったの? うん。聞かせて」
「私がいつも登校する道を歩いていると、段々辺りが暗くなって」
「うんうん」
「死神が出たんです!」
「ちり紙?」
「死神の方です」
「(死神の方?)」
「死神が私の夢に・・・・・・」
「あの黒い服を着て鎌をもった、あの死神?」
「はい。ですが、その死神、なぜか胸に、私と同じリボンが付けていたんです」
「嬉しくない偶然だね」
「そして、その死神が道を歩く人たちを次々に大きな鎌で襲って・・・・・・」
「それじゃ、道は血の海になったの?」
「そうなんです!」
「おぉー、本当にそこまでリアルだっんだ?」
「居ても立ってもいられず、私は死神を止めようとしたんです!」
「すごい勇気だね、ふーちゃん」
「思い返せば私もびっくりで。本来なら私も逃げてるはずなんですが、夢だからでしょうか? とにかく死神の服をつかんで、『止めてください!』って言ったんです。すると死神が言ったんです。『お前が私を呼んだんだ』って」
「なんか怖い話みたいな展開だね」
「『どういう事ですか?』って訊くと、『こういう事だ』と言って死神が自分の付けていた仮面を私の顔に付け替えたんです。そしたら、真っ暗で何も見えなくて、仮面も外せなくて、私、怖くて必死にもがいていたんです」
「その状況で真っ暗だと怖いよね?」
「もがき続けていると、いきなり真っ暗だったのに額の辺りから光を感じて、仮面が割れたんです。すると、私、知らない間に学校のグランドにいたんです。辺りは血で染まっていて、見渡すとクラスのみんなが・・・・・・ 心春さんも夏海さんも……」
「み、みんなを?」
心春はごくりと息を呑みました。
「手に持っていた鎌が真っ赤に染まっていて……」
冬菜はもう目に涙を浮かべていました。
「もういいよ! ふーちゃん! 大丈夫! 夢だから!」
「でも、心春さんもいたんですよ!? 夏海さんもいたんですよ!?」
「大丈夫だって、私、ほら、生きてるから」
「本当ですか?」
「それは本当だよ! とにかく、怖い夢だったんだね」
「そして、その後・・・・・・」
「まだ、続きがあるんだ?」
心春はまた息を呑みます。
「私、俯いて、泣いているのかと思ったら・・・・・・ 笑ってたんです。そして、普段の私らしくない、大きな声で叫んだんです。『あ~、すっきりした!』って! とても清々しい顔で!」
心春も目に涙を浮かべていました。悲しいというより、恐怖の涙です。
「こ、怖い・・・・・・ 夢というより、ふーちゃんが・・・・・・」
「わ、私、大丈夫でしょうか? 本当はものすごく悪い人間のような気がします! 夢ってその人の本心が出て来るんですよね!? もし、そうなら私・・・・・・」
「そっ、そこまで正直に話して悲しんでるんだから、大丈夫だよ! でも、ふーちゃん、最近、何か嫌な事あった?」
「いいえ、全く。嫌な事どころか、毎日楽しいくらいです」
「そう? なら、いいんだけど。まぁ、たまにはそんな夢を見る事もあるよ」
「え? 心春さんもこんな夢見たことあるんですか?」
「ないよ」
はっきり言ってしまい、また落ち込む冬菜を心春は慌ててなだめました。
「変な夢ならいっぱい見るよ!『私、泳げ、ない!』って言いながら、水たまりで溺れてる、ちーちゃんを見たりとか、『よ! 心春、何してんねん?』って笑いながら夏っちゃんが自動販売機の取り出し口から出て来たりとか!」
俯いて泣きそうだった冬菜はグズンと鼻をすすって顔を上げ、ほんの少し笑顔を見せました。心春も少し安心します。冬菜が腕で涙をぬぐいながら言いました。
「夏海さんが…… 自動販売機……」
「夏っちゃんは自動販売機じゃないよ」
「はい」
冬菜は笑うと続けました。
「夏海さんはどうやって自動販売機の中から?」
「あ、そこ? でも、本当にどうやって入ったんだろう? 無理だよね? そんな夢みたいな事」
「え?」
二時間目開始のチャイムが鳴りました。




